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第3章:ロボットとニンゲンの距離

写真

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 寺の中で何か手掛かりはないか探す。
 エリーが通ってた時に、何かここに置いていってはないか。
 望みは薄いが可能性があるなら探すしかない。
 各部屋を見て、扉があれば開けてみて、開かなければまた別の所を探す。

「なあ」

 唐突にタイチが話し掛けてくる。

「何?」

「オレさ、仲間が心配だから探しに行ってくるわ」

「う、うん」

 仲間……。

 あの三人組じゃないよな。

 いや、あいつらとタイチは全然違うじゃないか。

 僕はすぐにその考えを頭から消した。

「カンジを一人にするのは悪いけど大丈夫だよな?」

「まあ、一人でいるのは平気だからかまわないよ」

「じゃあな」

 タイチがいなくなって僕はまた一人になった。

 黙々と家探しを続ける。

 次の部屋へ行ってみようと襖を開けるとそこは押し入れだった。
 上下二段の押し入れの上段には布団が、下段にはいくつもの段ボールがあった。
 
 段ボールを出して中を見る。

「何だこれは?」

 使い方の分からないガラクタが詰め込まれた段ボール。
 コードのついた箱のような物、ケースに入った円盤、『思い出』と書かれた小さな記録媒体のカード。その中で僕の目を引いた物があった。一人の老人と一人の女の子が写った写真。どこかで見覚えのある人物。前に読んだ本にでも載っていたのか、実際にどこかで見た事があるのか。

 僕は写真をじっと見た。

 老人は男性。

 多分、祖父と孫なんだろう。

 写真の中の二人は笑顔で寄り添っていた。

 胸の辺りがキュッとなった。

 撮られた場所はこの寺らしい。

 縁側と部屋の配置が同じだ。

 いつ撮られたんだろう。

 今の傷んだ縁側と違って写真ではきれいな姿だった。部屋の畳も擦れてボロボロじゃないのが写真でも分かる。

 昔、ここに住んでた人。

 エリーにも関わりがあるんだろうか。

 そうだ。

 タイチにも見せてみよう。

「おーい。タイチ」

 呼んではみたものの返事はない。

 タイチは仲間を探しに出て行ってしまったんだった。

 戻って来たら見せてみよう。

 一人で考えるより二人で考えた方が良い答えが出るはずだ。

 他にも何かないかと段ボールを漁る。

「これは……」

 一冊のノート。変色した古いそのノートを捲ると不思議な機械の図や記号、意味の分からない専門用語が記されていた。
 パラパラと見てるとあるページで手が止まる。あのニンゲンモドキの町の様子が描かれていた。地下のロボットが活動するエリア、地上の町並み、隔離されたかのような巨大な壁。
 何故こんな物が。
 このノートがここにあるって事は、この場所はエリーとも深い関わりがあるに違いない。
 そういえば、あの写真の女の子はエリーの面影を感じる。
 そして老人はホログラムで見た彼女のおじいさんにそっくりだ。どうりで見覚えがあるはずだ。

 エリーを探しに行こう。

 あいつらに見つかったら大変だ。
 もし、ここであいつらとエリーが鉢合わせでもしたら何をされるか分からない。

 僕はノートを手に寺を出た。微かな記憶を頼りに彼女の家へ向かった。
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