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後編
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凛子は再び赤髪の女性の所に来ていた。
「こんな所で可哀想に……」
凛子は女性の身体を労るように撫でた。そこで感触がおかしい事に気づく。
硬い感触。
まるで機械にでも触っているような。
頬に触れる。
死後もキレイな顔のままだ。
どれくらいの時が経ったのかは分からないが、死臭も無く、ただキレイなままの姿。
「……まさか、本当に?」
髪を鋤いた時に見えた首から機械が覗く。これまで機械の部分は衣服によって隠れていたから気づかなかったのだ。
凛子は目の前にいる女性の正体が分かった気がした。
「アンドロイド、なのね。これが本物のアンドロイド……」
都市伝説だと思われていた歴史。
かつて人間とロボットが共存していた事。アンドロイドが生まれた事。そして一度は人類と文明が滅んでしまった事。
アンドロイドの発見により、都市伝説が事実であったのだと凛子は確信した。
考古学者としていくつもの遺跡を訪れた凛子。そんな彼女でもこれまで過去にアンドロイドが見つかった事は無かった。
初めて見るアンドロイド。
「もう、助からないのかしら……」
何とか持って帰れないかと試みるも、さすがに女一人の力ではここから動かす事などできなかった。
せめてこのアンドロイドの事を知る手立てはないか、と凛子は部屋を捜索する。すぐにノートが見つかった。
『最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら』
ノートの表紙に書かれたタイトル。
小説のようなそのタイトル。
その文字は長い時間によって消えかけていた。
目の前にアンドロイドがいる今、凛子は彼女と僕という人物の事実が記されたノートに違いないと直感した。
風化して手にすれば崩れてしまいそうなノート。
僕という人物はもうとっくに死んでいるのだろう。二人の物語の結末が幸せであって欲しいと凛子は思わずにはいられなかった。
凛子は写真だけ撮って帰る事にした。
彼女一人では何もできないから。
アンドロイドを運び出す事も、ノートを傷付けずに持ち帰る事も。彼女は彼女ができる事をするしかなかった。ここで見た事を伝える事を。だから彼女は写真を撮った。この遺跡を、アンドロイドを、ノートを。ロボットやアンドロイドがかつて人間と暮らしていた事を世に知らせるために。
自己満足と言われればそうかもしれない。でも彼女にとってそれは使命のようなものだった。
今は無理でも、きっと、きっとまた人類はロボットと生きていく事ができる。そんなロボットを人類は生み出せる。凛子はそう信じていた。そんな未来を夢見た。
もう一度アンドロイドの頬を撫ぜる。
凛子は立ち上がる。
去り際に凛子はアンドロイドに微笑んだ。
「ありがとう」と言って。
凛子は外から城を眺める。
彼女にはその城がお墓のようにも見えた。
終わり
「こんな所で可哀想に……」
凛子は女性の身体を労るように撫でた。そこで感触がおかしい事に気づく。
硬い感触。
まるで機械にでも触っているような。
頬に触れる。
死後もキレイな顔のままだ。
どれくらいの時が経ったのかは分からないが、死臭も無く、ただキレイなままの姿。
「……まさか、本当に?」
髪を鋤いた時に見えた首から機械が覗く。これまで機械の部分は衣服によって隠れていたから気づかなかったのだ。
凛子は目の前にいる女性の正体が分かった気がした。
「アンドロイド、なのね。これが本物のアンドロイド……」
都市伝説だと思われていた歴史。
かつて人間とロボットが共存していた事。アンドロイドが生まれた事。そして一度は人類と文明が滅んでしまった事。
アンドロイドの発見により、都市伝説が事実であったのだと凛子は確信した。
考古学者としていくつもの遺跡を訪れた凛子。そんな彼女でもこれまで過去にアンドロイドが見つかった事は無かった。
初めて見るアンドロイド。
「もう、助からないのかしら……」
何とか持って帰れないかと試みるも、さすがに女一人の力ではここから動かす事などできなかった。
せめてこのアンドロイドの事を知る手立てはないか、と凛子は部屋を捜索する。すぐにノートが見つかった。
『最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら』
ノートの表紙に書かれたタイトル。
小説のようなそのタイトル。
その文字は長い時間によって消えかけていた。
目の前にアンドロイドがいる今、凛子は彼女と僕という人物の事実が記されたノートに違いないと直感した。
風化して手にすれば崩れてしまいそうなノート。
僕という人物はもうとっくに死んでいるのだろう。二人の物語の結末が幸せであって欲しいと凛子は思わずにはいられなかった。
凛子は写真だけ撮って帰る事にした。
彼女一人では何もできないから。
アンドロイドを運び出す事も、ノートを傷付けずに持ち帰る事も。彼女は彼女ができる事をするしかなかった。ここで見た事を伝える事を。だから彼女は写真を撮った。この遺跡を、アンドロイドを、ノートを。ロボットやアンドロイドがかつて人間と暮らしていた事を世に知らせるために。
自己満足と言われればそうかもしれない。でも彼女にとってそれは使命のようなものだった。
今は無理でも、きっと、きっとまた人類はロボットと生きていく事ができる。そんなロボットを人類は生み出せる。凛子はそう信じていた。そんな未来を夢見た。
もう一度アンドロイドの頬を撫ぜる。
凛子は立ち上がる。
去り際に凛子はアンドロイドに微笑んだ。
「ありがとう」と言って。
凛子は外から城を眺める。
彼女にはその城がお墓のようにも見えた。
終わり
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