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第五章 椎名匡貴
第四十四話
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合唱大会だって、体育祭ほどじゃないけれど、まぁ、そんな感じで進んだ。高濱が仕切りつつ、ピアノやってたりして音楽に造詣のある女子が指導するという方式。ただ、橋本がその歌唱力でみんなを驚かせ、そして男子の指導役を買って出たことが、さらに橋本の株を上げた。
加えて、橋本が合唱曲を替え歌にして、しかもいつの間にかラップ調にして歌っていたのには、天性の才能というものを感じざるを得なかった。
一年生の一学期はそうやって過ぎていった。俺たちは相変わらず教室で騒いでいて、その時だけは麻薬を打ったみたいに熱中できて、楽しかった。教室でそわそわしなくていいってやっぱりいいもんだ。いや、麻薬を使ったことはないのだけれど、天にも昇るような爽快感がそこにはあった。
そして、その期間だけが、俺たちにとって本当の栄光を享受できた時間だった。
夏休みが終わると、歯車が急激に動きだし、それは軋んだ音を立てて俺たちの列車を逆走させていった。
というか、夏休み中に、あるいはその前から歯車は動いていて、俺たちが気づかなかっただけだった。ぐだぐだとした夏休みを過ごしたあと、始業式は長い長い表彰で幕を開けた。その前に校長の話とかはあったんだけど、多分、校長の話を一言でも覚えている生徒はいなかっただろう。
野球部、サッカー部、バスケ部。スポーツ推薦で成り立っている部活が、がしがしと賞を獲っていた。特に甲子園出場を果たした野球部は別格の扱い。
この夏、テレビやネットで何度も顔を見た主将が何十度目かもわからないインタビューを放送部から受けていた。夏の甲子園ベストエイト。県大会決勝では奇跡の逆転を果たし、甲子園では何度も優勝を果たしている強豪校を破った。翌日の新興校対決で敗北したものの、野球部の最高記録を更新した。
スポーツ推薦の表彰が終わると、実績は途端に慎ましくなる。県レベル以下の地区大会がある部活でお情けの入賞みたいな記録が続き、文化部がよくわからない名前の賞をもらって、そして次に呼ばれたのは富田だった。文化部のあとに呼ばれるのはよくわからないけれども、スポーツ推薦以外は創部順に呼ばれるのだと後から聞いた。
「表彰状、富田祐斗殿。あなたは……」
県の学年別大会でシングルスの三位。それが凄いことなのか、たいしたことないのか、俺には判断がつかない。
「三年生の先輩方が引退され、バドミントン部も新体制になりました。個人での受賞も嬉しいのですが、三年生の先輩方が遺されたものをしっかりと受け継ぎ、二年生の先輩方をしっかり支え、団体戦で勝てるようなチームづくりに少しでも貢献していけたらと思っています」
巨大な体育館の壇上でインタビューに答える富田を、俺は芝居でも見るみたいに眺めていた。どんなにテレビに出演していても、スポーツ推薦で出てくる野球部やサッカー部のやつらは遠い他人だし、ぽつぽつと明らかにしょぼい賞を獲っていた普通科の奴らも、普段は関らない遠い他人で、ただぼんやりと時間が過ぎていった。
でも、いつも寡黙な富田がはきはきとインタビューに答えているのは、俺を苛々させた。また、橋本、富田、田島だ。
「富田くん、表彰されてたじゃん」
橋本、田島と肩を並べて教室へと戻ってきた富田に、そう話しかけたのは高濱だった。
「たいしたことないんだけどね」
謙虚に苦笑する富田だったけれど、やや不愛想ともいえるいつもの態度とは違って、裏に嬉しさが隠れていることが如実にわかるような、素直な苦笑いだった。
「でも、県大会でしょ?」
「学年別だから、一年生だけだよ」
「じゃあ、県の一年生全員の中で三位ってこと?」
「まぁ、そうだけど」
そう言いながら、富田は橋本と田島を伴って自分の机へと向かう。同級生の受賞でこんなにも騒ぎ立てるのは、いかにも特進科らしいというか、高濱らしいところだった。「みんなでお祝いしようよ」なんて言いかねないほどテンションが高い。よくあれで中学校生活をやってこれたものだ。小学校にいるような、やたら正義感が強くて頑迷なタイプの女子をそのまま移植したような人物。
でも、この教室にはよく似合っていた。
加えて、橋本が合唱曲を替え歌にして、しかもいつの間にかラップ調にして歌っていたのには、天性の才能というものを感じざるを得なかった。
一年生の一学期はそうやって過ぎていった。俺たちは相変わらず教室で騒いでいて、その時だけは麻薬を打ったみたいに熱中できて、楽しかった。教室でそわそわしなくていいってやっぱりいいもんだ。いや、麻薬を使ったことはないのだけれど、天にも昇るような爽快感がそこにはあった。
そして、その期間だけが、俺たちにとって本当の栄光を享受できた時間だった。
夏休みが終わると、歯車が急激に動きだし、それは軋んだ音を立てて俺たちの列車を逆走させていった。
というか、夏休み中に、あるいはその前から歯車は動いていて、俺たちが気づかなかっただけだった。ぐだぐだとした夏休みを過ごしたあと、始業式は長い長い表彰で幕を開けた。その前に校長の話とかはあったんだけど、多分、校長の話を一言でも覚えている生徒はいなかっただろう。
野球部、サッカー部、バスケ部。スポーツ推薦で成り立っている部活が、がしがしと賞を獲っていた。特に甲子園出場を果たした野球部は別格の扱い。
この夏、テレビやネットで何度も顔を見た主将が何十度目かもわからないインタビューを放送部から受けていた。夏の甲子園ベストエイト。県大会決勝では奇跡の逆転を果たし、甲子園では何度も優勝を果たしている強豪校を破った。翌日の新興校対決で敗北したものの、野球部の最高記録を更新した。
スポーツ推薦の表彰が終わると、実績は途端に慎ましくなる。県レベル以下の地区大会がある部活でお情けの入賞みたいな記録が続き、文化部がよくわからない名前の賞をもらって、そして次に呼ばれたのは富田だった。文化部のあとに呼ばれるのはよくわからないけれども、スポーツ推薦以外は創部順に呼ばれるのだと後から聞いた。
「表彰状、富田祐斗殿。あなたは……」
県の学年別大会でシングルスの三位。それが凄いことなのか、たいしたことないのか、俺には判断がつかない。
「三年生の先輩方が引退され、バドミントン部も新体制になりました。個人での受賞も嬉しいのですが、三年生の先輩方が遺されたものをしっかりと受け継ぎ、二年生の先輩方をしっかり支え、団体戦で勝てるようなチームづくりに少しでも貢献していけたらと思っています」
巨大な体育館の壇上でインタビューに答える富田を、俺は芝居でも見るみたいに眺めていた。どんなにテレビに出演していても、スポーツ推薦で出てくる野球部やサッカー部のやつらは遠い他人だし、ぽつぽつと明らかにしょぼい賞を獲っていた普通科の奴らも、普段は関らない遠い他人で、ただぼんやりと時間が過ぎていった。
でも、いつも寡黙な富田がはきはきとインタビューに答えているのは、俺を苛々させた。また、橋本、富田、田島だ。
「富田くん、表彰されてたじゃん」
橋本、田島と肩を並べて教室へと戻ってきた富田に、そう話しかけたのは高濱だった。
「たいしたことないんだけどね」
謙虚に苦笑する富田だったけれど、やや不愛想ともいえるいつもの態度とは違って、裏に嬉しさが隠れていることが如実にわかるような、素直な苦笑いだった。
「でも、県大会でしょ?」
「学年別だから、一年生だけだよ」
「じゃあ、県の一年生全員の中で三位ってこと?」
「まぁ、そうだけど」
そう言いながら、富田は橋本と田島を伴って自分の机へと向かう。同級生の受賞でこんなにも騒ぎ立てるのは、いかにも特進科らしいというか、高濱らしいところだった。「みんなでお祝いしようよ」なんて言いかねないほどテンションが高い。よくあれで中学校生活をやってこれたものだ。小学校にいるような、やたら正義感が強くて頑迷なタイプの女子をそのまま移植したような人物。
でも、この教室にはよく似合っていた。
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