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セクハラ会社
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夜。道端でばったりと昔の同級生に会った。
話は弾み、近くの居酒屋へと直行。しばらく飲み交わし、互いに酔いが程よく回って来た頃合いのこと。
「そういえばさあ、あんたって何の仕事してんだっけ?」
ああ、出てしまった。今何の仕事してるの、の質問。
いつもなら困ってしまう質問。でも酒が入ってる今なら大丈夫かもしれない。
「セクハラを研究してる会社」
「セク、ハラ?」
「ほらあ、そうなるだろ? あんま言いたくなかったんだよ」
相手は女。これが男だったらまだ話が続いてたかもしれないのに。
「いや気にしなくていいよ! 私そういうの慣れてるし」
「え、慣れてるの?」
「そういう話がってこと。私はされたことないから。⋯⋯何々、どんなことしてんのよ」
おお。意外にも興味津々だ。でも逆に話しづらい。
「多分想像通りのことだよ」
「想像って、今私変な想像してるけど?」
「じゃあ合ってる」
「え、マジ? 念の為言ってよ」
「実際に女性社員にセクハラしてる」
ポカンとした顔が返って来た。
「ホント何だって。そういう会社なんだよ」
「いやでも、女性社員は嫌がるでしょ」
「乗り気も乗り気よ。何なら男より率先してセクハラされに行ってんだから」
「へぇー⋯⋯。あんたもしてるの?」
「仕事だからな。成績もそこそこだ」
「成績って何よ」
そりゃあ、より上質なセクハラをしたら良くなるヤツだよ。
「あんた、顔悪く無いのにそこそこなんだね」
「逆なんだよ。太ってたり体毛が濃かったりしてた方がポイントが高いんだ」
「ポイントぉ?」
「反対に、イケメンの先輩はこの前、女の方が好きになっちゃってセクハラがセクハラじゃなくなってクビになったからね」
「ええ、クビとかあるの⋯⋯」
「そうなんだよ」
セクハラってのは、忌避されなきゃならない。受け入れられてたらそれはセクハラとは言えない。
「ねえ」
「ん?」
「私にやってみてよ」
「⋯⋯何を?」
「セクハラ」
耳を疑い顔を見ると、悪戯っぽく笑ってる。
まじかよ、こいつ。
「実はもうしてるんだよね」
「え?」
「さっきお前、トイレいっただろ? その間に箸とコップの飲み口をしゃぶっといた」
「は? 何してんの?」
「そりゃあ、セクハラだろ」
何か苦いものを食べたかのような顔。それは遠慮ない忌避感が滲んだ顔だ。
想定外のリアクションだった。当然のリアクションだと遅れて気付いた。
「何よ」
「え、ああ。意外な反応だったから」
「えー、そりゃあ私がやってみてって言ったからやったんだろうけど、意外ってことはないでしょ。普通にキモいわ」
「そう、だよな。あ、ちなみに、嘘な? 何もしてないよ」
「あ、そうなの。信じちゃった」
いや、でも、たしかにこれが普通だよな。
普段セクハラを仕掛ける女性社員は、嫌がるんじゃなく評価してくるから忘れてたな。
セクハラとは嫌がってこそだった。
「私、なんかえっちなヤツを想像してた」
「ああ。それはそれでやったりするけどな」
「女性社員に⋯⋯?」
「うん」
「ふーん」
一度目を伏せ、そして
「じゃあ、それを私にやってみてよ」
「お、お前に?」
「そ。いつもやってるんだったらできるでしょ?」
「そうだな⋯⋯」
何故か抵抗感がある。
何故だ。こいつは美人だしどっちかって言えばテンションが上がるタイプなのに。
顔を赤くして、もじもじしたこいつを見てると、する気が起きない。
「いや、違うな」
する気が起きないんじゃない。慎重になってるんだ、この俺が。
まあでも、やるか。やれと言われてるんだから、やらなきゃ。
俺はおもむろに手を伸ばす。頭を撫でた。
「かわいいね」
「っ、ち、違うでしょ」
「え? 何が」
手を引っ込め考える。違うとは何だ。
「いつもはもっと、踏み込んだこと、やってるでしょ」
「あー、うん」
目を逸らし肯定する。
「じゃあそれを、いや、それ以上のことをやって」
「それ以上のことって⋯⋯」
何だってこの女は、そんなことを要求するんだ。瞳を潤ませる程に恥ずかしいくせに。
「いや、俺にはできないな」
「⋯⋯なんでよ」
「ここじゃできない。から、俺ん家に来ない?」
こくん、と頷いてくれた。内心ほっとする。
「まあ、これじゃあセクハラとは言えないけどな」
「お互いに、でしょ?」
「うん」
互いに笑って確認する。店を出て、二人で俺の家へ向かった。
後日、俺は会社を辞めた。
話は弾み、近くの居酒屋へと直行。しばらく飲み交わし、互いに酔いが程よく回って来た頃合いのこと。
「そういえばさあ、あんたって何の仕事してんだっけ?」
ああ、出てしまった。今何の仕事してるの、の質問。
いつもなら困ってしまう質問。でも酒が入ってる今なら大丈夫かもしれない。
「セクハラを研究してる会社」
「セク、ハラ?」
「ほらあ、そうなるだろ? あんま言いたくなかったんだよ」
相手は女。これが男だったらまだ話が続いてたかもしれないのに。
「いや気にしなくていいよ! 私そういうの慣れてるし」
「え、慣れてるの?」
「そういう話がってこと。私はされたことないから。⋯⋯何々、どんなことしてんのよ」
おお。意外にも興味津々だ。でも逆に話しづらい。
「多分想像通りのことだよ」
「想像って、今私変な想像してるけど?」
「じゃあ合ってる」
「え、マジ? 念の為言ってよ」
「実際に女性社員にセクハラしてる」
ポカンとした顔が返って来た。
「ホント何だって。そういう会社なんだよ」
「いやでも、女性社員は嫌がるでしょ」
「乗り気も乗り気よ。何なら男より率先してセクハラされに行ってんだから」
「へぇー⋯⋯。あんたもしてるの?」
「仕事だからな。成績もそこそこだ」
「成績って何よ」
そりゃあ、より上質なセクハラをしたら良くなるヤツだよ。
「あんた、顔悪く無いのにそこそこなんだね」
「逆なんだよ。太ってたり体毛が濃かったりしてた方がポイントが高いんだ」
「ポイントぉ?」
「反対に、イケメンの先輩はこの前、女の方が好きになっちゃってセクハラがセクハラじゃなくなってクビになったからね」
「ええ、クビとかあるの⋯⋯」
「そうなんだよ」
セクハラってのは、忌避されなきゃならない。受け入れられてたらそれはセクハラとは言えない。
「ねえ」
「ん?」
「私にやってみてよ」
「⋯⋯何を?」
「セクハラ」
耳を疑い顔を見ると、悪戯っぽく笑ってる。
まじかよ、こいつ。
「実はもうしてるんだよね」
「え?」
「さっきお前、トイレいっただろ? その間に箸とコップの飲み口をしゃぶっといた」
「は? 何してんの?」
「そりゃあ、セクハラだろ」
何か苦いものを食べたかのような顔。それは遠慮ない忌避感が滲んだ顔だ。
想定外のリアクションだった。当然のリアクションだと遅れて気付いた。
「何よ」
「え、ああ。意外な反応だったから」
「えー、そりゃあ私がやってみてって言ったからやったんだろうけど、意外ってことはないでしょ。普通にキモいわ」
「そう、だよな。あ、ちなみに、嘘な? 何もしてないよ」
「あ、そうなの。信じちゃった」
いや、でも、たしかにこれが普通だよな。
普段セクハラを仕掛ける女性社員は、嫌がるんじゃなく評価してくるから忘れてたな。
セクハラとは嫌がってこそだった。
「私、なんかえっちなヤツを想像してた」
「ああ。それはそれでやったりするけどな」
「女性社員に⋯⋯?」
「うん」
「ふーん」
一度目を伏せ、そして
「じゃあ、それを私にやってみてよ」
「お、お前に?」
「そ。いつもやってるんだったらできるでしょ?」
「そうだな⋯⋯」
何故か抵抗感がある。
何故だ。こいつは美人だしどっちかって言えばテンションが上がるタイプなのに。
顔を赤くして、もじもじしたこいつを見てると、する気が起きない。
「いや、違うな」
する気が起きないんじゃない。慎重になってるんだ、この俺が。
まあでも、やるか。やれと言われてるんだから、やらなきゃ。
俺はおもむろに手を伸ばす。頭を撫でた。
「かわいいね」
「っ、ち、違うでしょ」
「え? 何が」
手を引っ込め考える。違うとは何だ。
「いつもはもっと、踏み込んだこと、やってるでしょ」
「あー、うん」
目を逸らし肯定する。
「じゃあそれを、いや、それ以上のことをやって」
「それ以上のことって⋯⋯」
何だってこの女は、そんなことを要求するんだ。瞳を潤ませる程に恥ずかしいくせに。
「いや、俺にはできないな」
「⋯⋯なんでよ」
「ここじゃできない。から、俺ん家に来ない?」
こくん、と頷いてくれた。内心ほっとする。
「まあ、これじゃあセクハラとは言えないけどな」
「お互いに、でしょ?」
「うん」
互いに笑って確認する。店を出て、二人で俺の家へ向かった。
後日、俺は会社を辞めた。
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