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地味子に告白
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「は、話ってなに⋯⋯?」
ボリュームのある前髪とメガネの隙間から上目遣いで覗くハルミと目が合う。
一見垢抜けない彼女は、ちゃんと内面も内気で、いつも地面を見つめて歩いてるし話をしてる姿もそう見ない。
一言で言ってしまえば陰キャだ。だけどそんな彼女を俺は好きになってしまった。
「まあ、何というか、その⋯⋯。付き合って欲しい、俺と」
屋上に通じる扉の手前にある、ちょっとした物置きになっている空間。そこに呼び付けて告白。緊張はしたが何とか言えた。
「私と⋯⋯? 嘘だよね。罰ゲーム、とか?」
「いや違う。俺が、ちゃんとハルミのことを好きになったから告白した」
「⋯⋯り、理由は?」
理由か。包み隠さず話すか、耳障りの良い言葉で誤魔化すか。どっちがいい。
「えっと、本人に聞くことじゃないけど、どっちか選んで欲しい」
前者を選ぶと嫌な気分になる可能性を示唆して説明した。
「変な理由でも、ちゃんと聞きたい」
頷き、決心する。一度、咳払いをして口を開いた。
「まず、綺麗な目をしてる所。前髪の奥に潜むその純粋そうな目が、本当に純粋なのか確かめてみたいんだ。それだけじゃない、猫背な所。というか、猫背になってる理由の部分か。想像でしかないけど、その理由は大きい胸を隠そうとする心の防衛本能なんじゃないか? もしかすると前髪を伸ばしてるのも同じ反応じゃないかと俺は予想してる。ハルミを見てるとわかるんだ。自然と胸を隠せる状態、例えば移動教室で教科書を胸に抱えて歩いてる時は、そんなに怯えた感じはないんだけど、逆に体育の時なんかは一層周りの目を気にした感じになってるんだ。隠そうとする意思さえ隠したいから露骨に腕とかで隠さない。だから猫背になる。それが精一杯。その姿を見た時から好きになった。⋯⋯今、どんな心境をしてるのか、その都度考えるんだ。着ている制服と肌とが擦れる感触が、他人からの視線の感触と錯覚してるんじゃないか、とか色々。そんな妄想をする度に守りたさと虐めたさの欲が湧いてくる。この感情は、きっと見下しから来る感情ではある。尊重していたら出てこない感情だ。でもこれは、ただ気安いというだけで好意には変わらないんだ。純粋に好きだって気持ちに間違いはない」
一度そこで、言葉を区切る。
「性格に関しては何も知らない。でも俺の中にあるこの熱意がある内はどんな性格も丸ごと好きになれると思う。⋯⋯これが、俺の正直な気持ちだ」
ハルミの反応は薄い。感情を出す人じゃないからそれは当然かもしれないが、少なくとも罰ゲームで告白したとはもう思ってないだろう。
「わ、私は」
ぽつぽつと話し始めた。
「私に、そんな魅力はないよ⋯⋯?」
「でもこの熱意は本物だ」
「うん。でも私のうじうじした性格を知ったら嫌いになると思う。そのまま反転しちゃうと思う⋯⋯。わ、私は、そうなったら嫌だよ」
目を伏せて、諦めたように言う。
本当に反転するだろうか。それはあまりにネガティブ過ぎやしないか。それとも熱が冷めたら飽きるものなのか。
「それは、わからないだろ。だから、熱意が尽きるまで、まずは付き合って欲しい」
言って気付く。あまりに自分に都合が良すぎると。下に見ている証拠だ。
しかしハルミは控えめに笑った。
「じゃあ、試しに、お願いします」
何の疑う素振りもなく了承。
「い、いいの? 俺、凄く自分勝手なこと言ったけど」
「そう思ったけど、そのくらいが、ちょうどいいかなって⋯⋯」
自己肯定感の低さ故の納得。それをわかって言ってるなら、俺もそれに便乗する。
「じ、じゃあさ、一個やって欲しいこてがあるんだけど。前髪を上げてみて欲しい」
「⋯⋯うん」
ハルミは怖がっているように見えた。それでも俺の言うことを聞いて、手で額を晒した。
もう片方の手でメガネを外し、真っ直ぐに見上げてくる。
見る見るうちに顔が赤くなっていった。瞳も潤む程だ。
その姿に、やはり俺は興奮していた。手を取っ払ってしまいたいだろうに、俺の合図を待つかのように額に張り付けたままだ。
しばらく見て、満足した。
「ありがとう」
髪を下ろし、メガネをかける。
それを見届けた後、抱きしめた。
「えっ、えっ?」
「ごめん。やっぱり好きだなって」
「⋯⋯うん」
一つ、熱意を消化した。それでもまだ気持ちに変わりはない。
やっぱり嫌いになることはないだろう。いや、仮に将来なったとして、それでも、その上で好きで居続けるのだと俺は理解した。
ボリュームのある前髪とメガネの隙間から上目遣いで覗くハルミと目が合う。
一見垢抜けない彼女は、ちゃんと内面も内気で、いつも地面を見つめて歩いてるし話をしてる姿もそう見ない。
一言で言ってしまえば陰キャだ。だけどそんな彼女を俺は好きになってしまった。
「まあ、何というか、その⋯⋯。付き合って欲しい、俺と」
屋上に通じる扉の手前にある、ちょっとした物置きになっている空間。そこに呼び付けて告白。緊張はしたが何とか言えた。
「私と⋯⋯? 嘘だよね。罰ゲーム、とか?」
「いや違う。俺が、ちゃんとハルミのことを好きになったから告白した」
「⋯⋯り、理由は?」
理由か。包み隠さず話すか、耳障りの良い言葉で誤魔化すか。どっちがいい。
「えっと、本人に聞くことじゃないけど、どっちか選んで欲しい」
前者を選ぶと嫌な気分になる可能性を示唆して説明した。
「変な理由でも、ちゃんと聞きたい」
頷き、決心する。一度、咳払いをして口を開いた。
「まず、綺麗な目をしてる所。前髪の奥に潜むその純粋そうな目が、本当に純粋なのか確かめてみたいんだ。それだけじゃない、猫背な所。というか、猫背になってる理由の部分か。想像でしかないけど、その理由は大きい胸を隠そうとする心の防衛本能なんじゃないか? もしかすると前髪を伸ばしてるのも同じ反応じゃないかと俺は予想してる。ハルミを見てるとわかるんだ。自然と胸を隠せる状態、例えば移動教室で教科書を胸に抱えて歩いてる時は、そんなに怯えた感じはないんだけど、逆に体育の時なんかは一層周りの目を気にした感じになってるんだ。隠そうとする意思さえ隠したいから露骨に腕とかで隠さない。だから猫背になる。それが精一杯。その姿を見た時から好きになった。⋯⋯今、どんな心境をしてるのか、その都度考えるんだ。着ている制服と肌とが擦れる感触が、他人からの視線の感触と錯覚してるんじゃないか、とか色々。そんな妄想をする度に守りたさと虐めたさの欲が湧いてくる。この感情は、きっと見下しから来る感情ではある。尊重していたら出てこない感情だ。でもこれは、ただ気安いというだけで好意には変わらないんだ。純粋に好きだって気持ちに間違いはない」
一度そこで、言葉を区切る。
「性格に関しては何も知らない。でも俺の中にあるこの熱意がある内はどんな性格も丸ごと好きになれると思う。⋯⋯これが、俺の正直な気持ちだ」
ハルミの反応は薄い。感情を出す人じゃないからそれは当然かもしれないが、少なくとも罰ゲームで告白したとはもう思ってないだろう。
「わ、私は」
ぽつぽつと話し始めた。
「私に、そんな魅力はないよ⋯⋯?」
「でもこの熱意は本物だ」
「うん。でも私のうじうじした性格を知ったら嫌いになると思う。そのまま反転しちゃうと思う⋯⋯。わ、私は、そうなったら嫌だよ」
目を伏せて、諦めたように言う。
本当に反転するだろうか。それはあまりにネガティブ過ぎやしないか。それとも熱が冷めたら飽きるものなのか。
「それは、わからないだろ。だから、熱意が尽きるまで、まずは付き合って欲しい」
言って気付く。あまりに自分に都合が良すぎると。下に見ている証拠だ。
しかしハルミは控えめに笑った。
「じゃあ、試しに、お願いします」
何の疑う素振りもなく了承。
「い、いいの? 俺、凄く自分勝手なこと言ったけど」
「そう思ったけど、そのくらいが、ちょうどいいかなって⋯⋯」
自己肯定感の低さ故の納得。それをわかって言ってるなら、俺もそれに便乗する。
「じ、じゃあさ、一個やって欲しいこてがあるんだけど。前髪を上げてみて欲しい」
「⋯⋯うん」
ハルミは怖がっているように見えた。それでも俺の言うことを聞いて、手で額を晒した。
もう片方の手でメガネを外し、真っ直ぐに見上げてくる。
見る見るうちに顔が赤くなっていった。瞳も潤む程だ。
その姿に、やはり俺は興奮していた。手を取っ払ってしまいたいだろうに、俺の合図を待つかのように額に張り付けたままだ。
しばらく見て、満足した。
「ありがとう」
髪を下ろし、メガネをかける。
それを見届けた後、抱きしめた。
「えっ、えっ?」
「ごめん。やっぱり好きだなって」
「⋯⋯うん」
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