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第五話 平賀無双
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■空母赤城 士官室
『さて、何を聞かせてくれるのかな?』
テーブルの向かいに座るオーレリッヒを見る平賀の目は、まるで獲物を見つけた猫のように心底楽しそうだった。
対するオーレリッヒも傲慢さを隠しもせずに平賀を睨み返す。そして自信満々といった風で話を切り出した。
『閣下はユトランド沖海戦をご存じで?』
『もちろん。貴国の艦隊が優勢なイギリス艦隊を相手に勇戦した戦いだ。海軍で飯を食っている者に知らん奴はおらんだろう』
『ならばお判りでしょう!あの海戦で我がドイツの戦艦はイギリス戦艦を撃沈しました。一方、我が方の戦艦は砲撃では一隻も沈んでいない。つまり我々の設計がそれだけ優秀だったと言うことです!』
オーレリッヒが自慢げに胸を張る。
『くくっ、おっと失礼。なるほど、なるほど、君の自信の根拠はよーく理解した』
自信満々の理由聞いた平賀は思わず吹き出してしまった。
そのあからさまに人を馬鹿にした態度にオーレリッヒはムッとする。
『くくく……いやーすまない。それでこの赤城はどこが悪いと言うのかね?』
ようやく笑い抑えた平賀が先を促した。
どうせ下等な東洋人には理解できないだろうが。そう内心で侮蔑しつつオーレリッヒは老人に仕方なく教えを垂れてやることにした。
『コホン……貴国のこの赤城ですが、元は戦艦として設計されたと聞いております。そうですね?』
平賀を含め日本側の一同が頷く。
『しかし装甲配置が頂けない。お聞きした限りでは、水平防御の主体は空母化により撤去された上甲板にあったようですな。そうでしょう?』
ふたたび平賀が頷く。
『だが、それでは上甲板の装甲を抜かれた場合、艦内の被害を防げません。おそらくイギリス戦艦のように簡単に爆沈する事になるでしょう!』
オーレリッヒは完全に見下した顔で結論を述べた。
『なるほど、なるほど。ご高説痛み入る』
日本艦の設計を貶す言葉に皆が一様に不機嫌そうに顔を顰めている中、平賀一人だけが楽しそうだった。
彼はうんうんと頷くと、まるで何も知らないという顔で質問した。
『それで、その優秀な貴国の戦艦は沈まなかった訳だから、ユトランド沖でイギリス艦隊を追い詰め全て撃沈した訳だね?』
『いや、それは……』
平賀の質問にオーレリッヒは答えを言い淀んだ。当然平賀は追撃する。彼にこんな美味しい獲物を逃がすつもりなど更々なかった。
『おや?不思議な事だ。貴国の戦艦は敵の砲撃を凌いだわけだろう?ならば反撃してしかるべきだが?』
『その……敵が逃げたため……』
『それは変だな?私の記憶では撤退したのは貴国の艦隊の方だったはずだが』
『我が方の戦艦もそれなりに損害を受けたので……』
『君の言う優秀な装甲配置とやらで中甲板より下の被害は防いだのだろう?つまり機関と浮力は無事だったはずだが?』
『……そ、その上の砲や機器類が……』
平賀は追撃の手を緩めず、どんどんオーレリッヒを追い詰めていく。つい先ほどまで自信満々だったオーレリッヒは、あっという間にしどろもどろとなっていた。
彼は助けを求めるように同行者であるパウル・ヴェネッカー海軍中佐とヨアヒム・ケーラー空軍中佐の方を見た。
しかし頼みの二人は目を瞑り腕を組んでいる。どうやらドイツ側の二人の士官にオーレリッヒを助ける気は無さそうだった。
ヴェネッカーはもちろんのことケーラーも元は海軍士官である。彼らも自国の戦艦に何か思うところがある様子だった。
味方にも見捨てられた形のオーレリッヒであったが、平賀はここで彼を許すつもりなど無かった。なにしろ遊びはまだ始まったばかりなのだ。馬鹿のせいで溜まったストレスはまだぜんぜん発散されていない。
『つまり中甲板の装甲を抜かれておらず、機関や浮力を維持していたにもかかわらず、貴国の戦艦は戦闘能力を失ったという訳だな』
『いえ……』
『なあ、一つ素人の私に戦艦の役割というものを教えてもらえんか?戦艦というのは戦場でただ浮いて逃げ回ることが仕事なのか?』
『うう……』
『黙っていちゃ話にならんな。ならばこの老人が教えてやろう。いいか、戦艦とは主力艦だ。戦場を支配し敵を撃滅するのが仕事だ。逃げ回るのが仕事じゃない。こんな事は小学生でも知ってる常識だろう?』
『……』
『おいおい何か答えてくれんか。中甲板で敵弾を止めれば、そりゃあ機関と浮力だけは保たれるだろう。だがその上はどうなる?中甲板と上甲板の間はぐちゃぐちゃに壊されるだろうが。主砲も副砲も潰されるな』
ここで黙っていたオーレリッヒは平賀の言葉に反撃の糸口を見つけた。それが罠とは知らずに。
『し、しかし!貴国の艦のように上甲板に防御を頼れば、そこを抜かれると全てが失われます!そうでしょう?』
『もちろん本艦は中甲板にも装甲を持っているが?』
『しかしそれは恐らく薄いはずです。上甲板の厚い装甲を抜けた砲弾に対しては無力に近い。破片防御程度にしか役立たないはずです』
『まぁ、その通りだな』
平賀は素直に頷く。
『そうでしょう!防御に問題があるの事は変わりありません。それに比べて我が国の戦艦は少なくとも沈むことはありません!』
オーレリッヒは再び傲慢な態度を取り戻し、勝ち誇ったように言い放った。
『なあ、ところで君たちの国では、敵の砲弾は常に真横か真上からしか来ないものなのかね?』
平賀はオーレリッヒにまるで憐れむような目を向けると、突然話題を変えた。
『さて、何を聞かせてくれるのかな?』
テーブルの向かいに座るオーレリッヒを見る平賀の目は、まるで獲物を見つけた猫のように心底楽しそうだった。
対するオーレリッヒも傲慢さを隠しもせずに平賀を睨み返す。そして自信満々といった風で話を切り出した。
『閣下はユトランド沖海戦をご存じで?』
『もちろん。貴国の艦隊が優勢なイギリス艦隊を相手に勇戦した戦いだ。海軍で飯を食っている者に知らん奴はおらんだろう』
『ならばお判りでしょう!あの海戦で我がドイツの戦艦はイギリス戦艦を撃沈しました。一方、我が方の戦艦は砲撃では一隻も沈んでいない。つまり我々の設計がそれだけ優秀だったと言うことです!』
オーレリッヒが自慢げに胸を張る。
『くくっ、おっと失礼。なるほど、なるほど、君の自信の根拠はよーく理解した』
自信満々の理由聞いた平賀は思わず吹き出してしまった。
そのあからさまに人を馬鹿にした態度にオーレリッヒはムッとする。
『くくく……いやーすまない。それでこの赤城はどこが悪いと言うのかね?』
ようやく笑い抑えた平賀が先を促した。
どうせ下等な東洋人には理解できないだろうが。そう内心で侮蔑しつつオーレリッヒは老人に仕方なく教えを垂れてやることにした。
『コホン……貴国のこの赤城ですが、元は戦艦として設計されたと聞いております。そうですね?』
平賀を含め日本側の一同が頷く。
『しかし装甲配置が頂けない。お聞きした限りでは、水平防御の主体は空母化により撤去された上甲板にあったようですな。そうでしょう?』
ふたたび平賀が頷く。
『だが、それでは上甲板の装甲を抜かれた場合、艦内の被害を防げません。おそらくイギリス戦艦のように簡単に爆沈する事になるでしょう!』
オーレリッヒは完全に見下した顔で結論を述べた。
『なるほど、なるほど。ご高説痛み入る』
日本艦の設計を貶す言葉に皆が一様に不機嫌そうに顔を顰めている中、平賀一人だけが楽しそうだった。
彼はうんうんと頷くと、まるで何も知らないという顔で質問した。
『それで、その優秀な貴国の戦艦は沈まなかった訳だから、ユトランド沖でイギリス艦隊を追い詰め全て撃沈した訳だね?』
『いや、それは……』
平賀の質問にオーレリッヒは答えを言い淀んだ。当然平賀は追撃する。彼にこんな美味しい獲物を逃がすつもりなど更々なかった。
『おや?不思議な事だ。貴国の戦艦は敵の砲撃を凌いだわけだろう?ならば反撃してしかるべきだが?』
『その……敵が逃げたため……』
『それは変だな?私の記憶では撤退したのは貴国の艦隊の方だったはずだが』
『我が方の戦艦もそれなりに損害を受けたので……』
『君の言う優秀な装甲配置とやらで中甲板より下の被害は防いだのだろう?つまり機関と浮力は無事だったはずだが?』
『……そ、その上の砲や機器類が……』
平賀は追撃の手を緩めず、どんどんオーレリッヒを追い詰めていく。つい先ほどまで自信満々だったオーレリッヒは、あっという間にしどろもどろとなっていた。
彼は助けを求めるように同行者であるパウル・ヴェネッカー海軍中佐とヨアヒム・ケーラー空軍中佐の方を見た。
しかし頼みの二人は目を瞑り腕を組んでいる。どうやらドイツ側の二人の士官にオーレリッヒを助ける気は無さそうだった。
ヴェネッカーはもちろんのことケーラーも元は海軍士官である。彼らも自国の戦艦に何か思うところがある様子だった。
味方にも見捨てられた形のオーレリッヒであったが、平賀はここで彼を許すつもりなど無かった。なにしろ遊びはまだ始まったばかりなのだ。馬鹿のせいで溜まったストレスはまだぜんぜん発散されていない。
『つまり中甲板の装甲を抜かれておらず、機関や浮力を維持していたにもかかわらず、貴国の戦艦は戦闘能力を失ったという訳だな』
『いえ……』
『なあ、一つ素人の私に戦艦の役割というものを教えてもらえんか?戦艦というのは戦場でただ浮いて逃げ回ることが仕事なのか?』
『うう……』
『黙っていちゃ話にならんな。ならばこの老人が教えてやろう。いいか、戦艦とは主力艦だ。戦場を支配し敵を撃滅するのが仕事だ。逃げ回るのが仕事じゃない。こんな事は小学生でも知ってる常識だろう?』
『……』
『おいおい何か答えてくれんか。中甲板で敵弾を止めれば、そりゃあ機関と浮力だけは保たれるだろう。だがその上はどうなる?中甲板と上甲板の間はぐちゃぐちゃに壊されるだろうが。主砲も副砲も潰されるな』
ここで黙っていたオーレリッヒは平賀の言葉に反撃の糸口を見つけた。それが罠とは知らずに。
『し、しかし!貴国の艦のように上甲板に防御を頼れば、そこを抜かれると全てが失われます!そうでしょう?』
『もちろん本艦は中甲板にも装甲を持っているが?』
『しかしそれは恐らく薄いはずです。上甲板の厚い装甲を抜けた砲弾に対しては無力に近い。破片防御程度にしか役立たないはずです』
『まぁ、その通りだな』
平賀は素直に頷く。
『そうでしょう!防御に問題があるの事は変わりありません。それに比べて我が国の戦艦は少なくとも沈むことはありません!』
オーレリッヒは再び傲慢な態度を取り戻し、勝ち誇ったように言い放った。
『なあ、ところで君たちの国では、敵の砲弾は常に真横か真上からしか来ないものなのかね?』
平賀はオーレリッヒにまるで憐れむような目を向けると、突然話題を変えた。
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