勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし

文字の大きさ
5 / 11

第五話 平賀無双

しおりを挟む
■空母赤城 士官室

『さて、何を聞かせてくれるのかな?』

 テーブルの向かいに座るオーレリッヒを見る平賀の目は、まるで獲物を見つけた猫のように心底楽しそうだった。

 対するオーレリッヒも傲慢さを隠しもせずに平賀を睨み返す。そして自信満々といった風で話を切り出した。

『閣下はユトランド沖海戦をご存じで?』

『もちろん。貴国の艦隊が優勢なイギリス艦隊を相手に勇戦した戦いだ。海軍で飯を食っている者に知らん奴はおらんだろう』

『ならばお判りでしょう!あの海戦で我がドイツの戦艦はイギリス戦艦を撃沈しました。一方、我が方の戦艦は砲撃では一隻も沈んでいない。つまり我々の設計がそれだけ優秀だったと言うことです!』

 オーレリッヒが自慢げに胸を張る。

『くくっ、おっと失礼。なるほど、なるほど、君の自信の根拠はよーく理解した』

 自信満々の理由聞いた平賀は思わず吹き出してしまった。

 そのあからさまに人を馬鹿にした態度にオーレリッヒはムッとする。

 『くくく……いやーすまない。それでこの赤城はどこが悪いと言うのかね?』

 ようやく笑い抑えた平賀が先を促した。

 どうせ下等な東洋人には理解できないだろうが。そう内心で侮蔑しつつオーレリッヒは老人に仕方なく教えを垂れてやることにした。

『コホン……貴国のこの赤城ですが、元は戦艦として設計されたと聞いております。そうですね?』

 平賀を含め日本側の一同が頷く。

『しかし装甲配置が頂けない。お聞きした限りでは、水平防御の主体は空母化により撤去された上甲板にあったようですな。そうでしょう?』

 ふたたび平賀が頷く。

『だが、それでは上甲板の装甲を抜かれた場合、艦内の被害を防げません。おそらくイギリス戦艦のように簡単に爆沈する事になるでしょう!』

 オーレリッヒは完全に見下した顔で結論を述べた。

『なるほど、なるほど。ご高説痛み入る』

 日本艦の設計を貶す言葉に皆が一様に不機嫌そうに顔を顰めている中、平賀一人だけが楽しそうだった。

 彼はうんうんと頷くと、まるで何も知らないという顔で質問した。

『それで、その優秀な貴国の戦艦は沈まなかった訳だから、ユトランド沖でイギリス艦隊を追い詰め全て撃沈した訳だね?』

『いや、それは……』

 平賀の質問にオーレリッヒは答えを言い淀んだ。当然平賀は追撃する。彼にこんな美味しい獲物を逃がすつもりなど更々なかった。

『おや?不思議な事だ。貴国の戦艦は敵の砲撃を凌いだわけだろう?ならば反撃してしかるべきだが?』

『その……敵が逃げたため……』

『それは変だな?私の記憶では撤退したのは貴国の艦隊の方だったはずだが』

『我が方の戦艦もそれなりに損害を受けたので……』

『君の言う優秀な装甲配置とやらで中甲板より下の被害は防いだのだろう?つまり機関と浮力は無事だったはずだが?』

『……そ、その上の砲や機器類が……』

 平賀は追撃の手を緩めず、どんどんオーレリッヒを追い詰めていく。つい先ほどまで自信満々だったオーレリッヒは、あっという間にしどろもどろとなっていた。

 彼は助けを求めるように同行者であるパウル・ヴェネッカー海軍中佐とヨアヒム・ケーラー空軍中佐の方を見た。

 しかし頼みの二人は目を瞑り腕を組んでいる。どうやらドイツ側の二人の士官にオーレリッヒを助ける気は無さそうだった。

 ヴェネッカーはもちろんのことケーラーも元は海軍士官である。彼らも自国の戦艦に何か思うところがある様子だった。

 味方にも見捨てられた形のオーレリッヒであったが、平賀はここで彼を許すつもりなど無かった。なにしろ遊びはまだ始まったばかりなのだ。馬鹿藤本のせいで溜まったストレスはまだぜんぜん発散されていない。

『つまり中甲板の装甲を抜かれておらず、機関や浮力を維持していたにもかかわらず、貴国の戦艦は戦闘能力を失ったという訳だな』

『いえ……』

『なあ、一つ素人の私に戦艦の役割というものを教えてもらえんか?戦艦というのは戦場でただ浮いて逃げ回ることが仕事なのか?』

『うう……』

『黙っていちゃ話にならんな。ならばこの老人が教えてやろう。いいか、戦艦とは主力艦だ。戦場を支配し敵を撃滅するのが仕事だ。逃げ回るのが仕事じゃない。こんな事は小学生でも知ってる常識だろう?』

『……』

『おいおい何か答えてくれんか。中甲板で敵弾を止めれば、そりゃあ機関と浮力だけは保たれるだろう。だがその上はどうなる?中甲板と上甲板の間はぐちゃぐちゃに壊されるだろうが。主砲も副砲も潰されるな』

 ここで黙っていたオーレリッヒは平賀の言葉に反撃の糸口を見つけた。それが罠とは知らずに。

『し、しかし!貴国の艦のように上甲板に防御を頼れば、そこを抜かれると全てが失われます!そうでしょう?』

『もちろん本艦は中甲板にも装甲を持っているが?』

『しかしそれは恐らく薄いはずです。上甲板の厚い装甲を抜けた砲弾に対しては無力に近い。破片防御程度にしか役立たないはずです』

『まぁ、その通りだな』

 平賀は素直に頷く。

『そうでしょう!防御に問題があるの事は変わりありません。それに比べて我が国の戦艦は少なくとも沈むことはありません!』

 オーレリッヒは再び傲慢な態度を取り戻し、勝ち誇ったように言い放った。



『なあ、ところで君たちの国では、敵の砲弾は常に真横か真上からしか来ないものなのかね?』

 平賀はオーレリッヒにまるで憐れむような目を向けると、突然話題を変えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

東亜の炎上 1940太平洋戦線

みにみ
歴史・時代
1940年ドイツが快進撃を進める中 日本はドイツと協働し連合国軍に宣戦布告 もしも日本が連合国が最も弱い1940年に参戦していたらのIF架空戦記

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...