千物語

松田 かおる

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お月見に行こう!

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「お月見に行こう!」
そう言ってあいつは、こっちの都合なんてお構いなしに俺を家から引きずり出した。

連れてこられたのは、近所の高台にある公園。
あいつが言うには「絶好のスポット」なのだそうだ。
「おー、よく見えるねぇ」
あいつは公園に着くなり月を見上げて、嬉しそうにそう言った。
俺が
「そうだな」
と一言だけ言うと、
「あれ、楽しくない?あーわかったお腹空いてるんでしょ?ほい、お月見団子」
あいつはそう言って、一口サイズのすあまを俺の口に放り込んできた。
-そうじゃないし、そもそも団子じゃないだろう、これ-
という反論の言葉は、すあまのせいで口に出すことができなかった。



「うーさぎうさぎ、なに見てはねる♪はい!」

俺がすあまで口をモゴモゴさせている中、あいつは突然童謡を一節歌って俺に続きを促した。
「…十五夜お月様見て跳ねる」
何とか口の中のすあまを片付けて返すと、あいつは
「はい、よくできました」
にっこりと笑って手を叩きながら、小さい子を褒めるような口調で言った。
「でも」
俺は口を開き、
「そもそも今日は十五夜じゃないし、うさぎは月を見て跳ねる訳じゃないぞ?」
そう続けると、あいつは
「わかってるよそんなの。気分よ、き・ぶ・ん」
そう言って少し頬を膨らませた。
…こうして見るとかわいいんだよな
そんなことを考えていたら、あいつは俺の顔を覗き込んで
「なあに、考え事?」
と聞いてきた。
一瞬ドキッとしたが、それを悟れないように
「だだだ大体今日は十六夜だし、それに月とうさぎは日本や中国に限定された話だし、外国はワニだったりライオンだったり、それに月の模様そのものだってクレーターが…」
俺が少し早口でまくし立てると、あいつは
「ちょちょちょちょちょ!」
俺の言葉を遮って、
「キミが博学なのはよく知ってるから落ち着きなよ。で?キミは月を見てそんなことしか思いつかないの?」
と聞いてきた。
「そうだなあ…こうして改めて見直してみると、『月が綺麗だな』って思うよ」
率直な感想を言うと、あいつは一瞬キョトンとした表情を見せてから、
「…そうだね。こんなにきれいな月をキミと一緒に見られるなんて、最高かもね。いっそこのまま、『もう死んでもいい』って気持ちになっちゃうかもしれないなあ」
と、なぜか少し顔を赤くしながら言った。

「おいおい、月見ごときで死ぬなんてもったいないぞ」
俺がそう返すと、

「そういうところだよっ!」

あいつはさらに顔を赤くしながら怒鳴った。
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