93 / 94
ラスト・ステージ
しおりを挟む
「中止!?」
今日開催されはずの「引退ライブ」の楽屋で、あたしは思わず大声を出してしまった。
今日はあたしの「引退ライブ」が開催される日だったのだが、開場まで2時間ほどになったタイミングで急に施設管理者から、
「観客席で防災設備上の大きな問題が発生した」
という理由で急にライブ中止を言い渡されたのだ。
「最後の最後でやられたな…」
マネージャーが絞り出すような口調で言う。
そう、あたしは今まで何度となく、とある筋から「いやがらせ」を受け続けてきたのだ。
「とある筋」とは、あたしが前に所属していた事務所だ。
そしてその理由は至って簡単、前の所属事務所の「拝金主義」のやり方に猛反発して、事務所と大揉めに揉めたのだ。
連中はそれを根に持っていて、事あるごとにあたしに嫌がらせをしてきたのだ。
ある時はSNSでの悪評、ある時は「迷惑客」の乱入と、大小さまざまな嫌がらせをしてきた。
それでもファンの協力のおかげで大事にならずに済んでいたが、あたしは引退することになった。
その理由も簡単で、マネージャーと結婚して家庭に入るためだ。
これもファンのみんなには、好意を持って受け入れてもらえた。
本当にファンはありがたいと心底感じた。
そんな気持ちを持ちながら、今日の「引退ライブ」も楽しくできると思っていた矢先の出来事だった。
さすがに当日の開始直前にやられると、手の打ちようがほとんどなくなってしまう。
「どうする?」
マネージャがさすがに心配そうに聞いてくる。
ファンのみんなも入り口で「ライブ中止」を告げられて、中に入れずにいる。
これではファンのみんなの力も借りられない。
「…『観客席』っていう話なら、ステージは大丈夫なのよね?」
あたしが言うと、マネージャーは
「まぁ、観客席以外なら」
と答える。
少し考え、そして思いつく。
…まだ手はある。
あたしはスタッフに向かって、「あるもの」を用意するよう声をかけた。
二時間後。
「引退ライブ」を無事スタートさせることができた。
手持ちのスマホを使って、動画配信サイトでのライブ配信に切り替えたのだ。
会場の外の様子を見に行ったスタッフ曰く、
「開始前から盛り上がってますよ」
とのこと。
さすがにこんな展開になるとは思っていなかったが、こういうのもあたしらしいかもしれない。
きっとみんなの思い出に残るライブになるだろう。
そんなことを考えながら、一台のスマホの向こうの「何万人もの客」に向かって一曲目を歌い始めた…
今日開催されはずの「引退ライブ」の楽屋で、あたしは思わず大声を出してしまった。
今日はあたしの「引退ライブ」が開催される日だったのだが、開場まで2時間ほどになったタイミングで急に施設管理者から、
「観客席で防災設備上の大きな問題が発生した」
という理由で急にライブ中止を言い渡されたのだ。
「最後の最後でやられたな…」
マネージャーが絞り出すような口調で言う。
そう、あたしは今まで何度となく、とある筋から「いやがらせ」を受け続けてきたのだ。
「とある筋」とは、あたしが前に所属していた事務所だ。
そしてその理由は至って簡単、前の所属事務所の「拝金主義」のやり方に猛反発して、事務所と大揉めに揉めたのだ。
連中はそれを根に持っていて、事あるごとにあたしに嫌がらせをしてきたのだ。
ある時はSNSでの悪評、ある時は「迷惑客」の乱入と、大小さまざまな嫌がらせをしてきた。
それでもファンの協力のおかげで大事にならずに済んでいたが、あたしは引退することになった。
その理由も簡単で、マネージャーと結婚して家庭に入るためだ。
これもファンのみんなには、好意を持って受け入れてもらえた。
本当にファンはありがたいと心底感じた。
そんな気持ちを持ちながら、今日の「引退ライブ」も楽しくできると思っていた矢先の出来事だった。
さすがに当日の開始直前にやられると、手の打ちようがほとんどなくなってしまう。
「どうする?」
マネージャがさすがに心配そうに聞いてくる。
ファンのみんなも入り口で「ライブ中止」を告げられて、中に入れずにいる。
これではファンのみんなの力も借りられない。
「…『観客席』っていう話なら、ステージは大丈夫なのよね?」
あたしが言うと、マネージャーは
「まぁ、観客席以外なら」
と答える。
少し考え、そして思いつく。
…まだ手はある。
あたしはスタッフに向かって、「あるもの」を用意するよう声をかけた。
二時間後。
「引退ライブ」を無事スタートさせることができた。
手持ちのスマホを使って、動画配信サイトでのライブ配信に切り替えたのだ。
会場の外の様子を見に行ったスタッフ曰く、
「開始前から盛り上がってますよ」
とのこと。
さすがにこんな展開になるとは思っていなかったが、こういうのもあたしらしいかもしれない。
きっとみんなの思い出に残るライブになるだろう。
そんなことを考えながら、一台のスマホの向こうの「何万人もの客」に向かって一曲目を歌い始めた…
0
あなたにおすすめの小説
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる