千物語

松田 かおる

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お釣りの出る賽銭箱

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「お賽銭を入れるとお釣りの出る神社がある」
という噂を小耳にはさんだ。

最初に聞いた時は「お賽銭にお釣りなんて」と思ったけど、どうやら冗談ではなさそうだった。
そんな噂を聞いてしまっては気になるので、実際に行ってみることにした。

電車とバスをいくつか乗り継いで、半日がかりでその神社がある山のふもとまでたどり着いた。
ここから先は歩きで行くしかないので、目の前にある長い石段をゆっくり登り始める。
季節は夏だけど、山あいという場所柄や石段自体が木に覆われて日差しが遮られているおかげで、思った以上に涼しい。
その代わり石段は結構な段数があって、登りきる頃には少し息が上がってしまった。

参道の入口で少し息を整えて拝殿に向かうと、目的の賽銭箱があった。
ただし賽銭箱には蓋がしてあって、蓋の上に
「お賽銭はこちら」
と書いてある、矢印付きの看板があった。
矢印の先を見てみると、スーパーの自動精算レジのような機械が置いてあった。
一円玉から一万円札まで使用できて、なかなか高性能そうだ。
早速お賽銭を入れてみることにした。
お賽銭の定番「五円玉」を一枚投入口に入れると、
「オツリガデマス」
という音声とともに、返却口にお釣りが出てきた。
数えたら「25円」あった。
まさか本当にお釣りが出るわけがないと思っていたので少しびっくりしていると、
「どうかされましたか?」
と声をかけてくる人がいた。

声の方を振り返ると、初老の男性が立っていた。
「この神社の宮司」だそうだ。
今起こったことを話すと、宮司さんは
「驚かれたでしょう」
と言いながら、「お釣り」のいきさつを話してくれた。

宮司さんが言うには…

ここはいわゆる「縁切り神社」で、様々な縁を切りたい方が参拝してくる。
でも、切りたい縁はそんなにあるものでもない。
なのでもうここに来ることがないよう、願掛けの意味を兼ねてお賽銭の額に関係なく、参拝者へ「お釣り」を渡すようにした。
金額は一律「25円」、「二度とご縁がないように」

…とのことだそうだ。

「機械仕掛けなので味気ないかもしれませんが…」
本気か冗談かわからない口調で宮司さんはそう言うと、にこりと笑った。

でも、宮司さんの気持ちもわかる気がする。
あまり縁は軽々しく切るものでもないだろうし、何度来られても神様だって困ってしまうだろう。

妙に納得が行ったので、もう二度と来ないで済むように改めて25円分のお賽銭を機械に入れたら、25円お釣りが出てきた。
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