千物語

松田 かおる

文字の大きさ
84 / 94

街の占い師さん

しおりを挟む
小さい頃から「少し先の未来を見る能力」があったわたしは、その能力を活かして「占い師」で生計を立てていた。
未来が見えるのだから、当然わたしの占いはよく当たった。
ただ、占いの結果を伝える時は「いいこと」ばかりではなく、「悪いこと」「よくないこと」も一緒に伝えていた。
「見えている」のだから、それを伝えないのはフェアではないと思うからだ。
もちろん脅すような言い方ではなく、「こういうことに気を付けろ」程度のニュアンスで、だ。
そのおかげでわたしの占いは「いいことも悪いこともしっかり当たる」と評判になり、その評判を聞きつけたたくさんの人がわたしのもとを訪れてきた。

この街での占い仕事は順調だと思っていた。



ところがある頃から、風向きが変わりはじめた。
「わたしの占いは『わるいこと』ばかりが当たる」と言う噂が流れ始めたのだ。

その人に起こった「いいこと」は、わたしの占いのおかげではなく「当然のように起こったこと」。
そして起こってしまった「悪いこと」は「わたしの占いのせい」。
そう考える人が現れ始めたのだ。
「自分に都合の悪いことは他人のせいにする」という考えを持たれてしまった。

一度そんな話が出ると、噂は大きな尾鰭をつけて瞬く間に広がり始める。
わたしもできる限り、その噂を打ち消す努力はした。
けどそれは「悪事を隠している」という、さらなる悪評になってしまった。
そしてついに、一度も途絶えることのなかった客足がぱったりと途絶えてしまった。
そうなるともう、占い師なんてやっていられない。

-この街でも、占い仕事はそろそろ潮時かな-
そんなことを考え始めたある日、「それ」は起こった。



「魔女は出ていけ!」

ある日突然、見知らぬ子どもからそんな言葉を投げつけられた。
「魔女?」
わたしがその子を問いただすと、
「みんな言ってるぞ!お前は街に災厄を招き入れる『魔女』だって!だからこの街から出ていけ!」
憎しみと怒りに満ちた口調と表情で、吐き捨てるように言った。

そこまで言われて、この街に留まっている必要はない。
「…わかったよ、この街から出ていくね」
その子にそう言いながら、心を決めた。
-結局、またこうなるのか-



街を離れる日。
もちろん、わたしを見送るような人なんて一人もいない。
「まぁ、いつものことだし」
誰にともなく呟いて、わたしは独り街を後にした。

ただ、昨日見えた「この街に起こる大災厄」を伝えられなかったのは、少し心残りだったけど…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...