千物語

松田 かおる

文字の大きさ
52 / 94

恋愛小説

しおりを挟む
「わたしのことをこっぴどく振ってくれないかい?」



「え?今なんて?」
「わたしのことを振ってほしいとお願いしたんだよ」
「振る?君を?僕が?」
「そうだよ。さぁ、思い切りこっぴどく振ってくれないか?」
「ずいぶん突然だなぁ」
「こういうのは思い切りも大切だからね。さぁ」
「ていうか、付き合ってもいないのに僕が君を振るの?」

「…えっ?」
「…えっ?」



「…状況を整理しようか」
「そうだね」
「わたしは今、『恋愛小説』のプロットを考えている」
「うん」
「今回は、『相手に振られた主人公が立ち直っていく』というストーリーを考えている」
「うん」
「こういうのは体験することが大切だ」
「努力家だねぇ」
「で、わたしはきみに『振ってほしい』とお願いした」
「その通り」
「ここまでは認識が一致しているね」
「大丈夫、ちゃんと一致しているよ」
「だが、きみは『付き合ってもいない』という」
「そうだね」
「そこが問題だ」
「確かにこれは結構な問題だね」
「…」
「…」


「わたしたち、付き合っていなかったのかい?」
「特にお互い、『付き合おう』とも『付き合ってくれ』とも言ってないしねぇ」
「でも、映画を一緒に見に行ったり…」
「僕も見たい映画だったからね」
「飲みに付き合ってくれたり…」
「仕事が大変で愚痴が言いたいんじゃないかと思って、聞くくらいだったら」
「こうしていつも一緒にいてくれることで、勝手に『付き合っている』と思っていたよ」
「幼なじみということもあるし、つい一緒にいがちにはなっていたねぇ」
「一体どこで、お互いの見解が違ってしまっていたんだろうか」
「お互いの確認不足…?」
「確認することではなかったのかもしれないが、そこかもしれないな」



「それにしても、ちょっと困ったな…」
「前提が成り立たない状態になっちゃったからねぇ」
「編集には『恋愛小説を書く』って言ってしまっているしな」
「今から変えるのは難しいの?」
「できないことはないんだが、頭の回路がすっかり『恋愛小説』モードになってしまっていてね…」
「恋愛脳だね」
「何か違う気がするが、そんな感じかもしれないな」
「なんかごめんな。僕のせいで」
「気にすることはないよ。わたしも悪かったのだから」



「で、これからどうするの?」
「プロットを変えることにしたよ。『恋愛を始める主人公』の話にしてみようかと思う」
「どんな感じになるの?」
「あぁ、こんなセリフで始まるんだ」



「『ねぇ、わたしと付き合ってくれないかい?』」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...