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第4話 「ストーカー」包囲網
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-1-
「まるでストーカーだわね」
美絵は一連の写真を見ながら言った。
放課後、写真部部室。
まだ時間が半端なのか、部室にいるのは藍梨と美絵の二人だけだった。
特にする事もないので時間つぶしも兼ねて、一連の写真を藍梨が美絵に見せたところだった。
そこで出たコメントが、「ストーカー云々」だったという訳である。
「判りやすいコメント、どうもありがとう」
「ありがとう」と言う割には全然感謝していない口調で、藍梨が言った。
藍梨自身も誰かに相談するというのではなく、茶飲み話程度の話題として写真を見せているだけに過ぎない。
「で? ハラッチはどう思うの?」
美絵が聞くと、藍梨は
「この程度の写真だったらこんなセコい真似しないで、もっと堂々と撮れと言いたいね」
と答えた。
「…それだけ?」
「あー、あともう一つ。 『ラーメン』ばかりじゃ食べ飽きる。 たまには『きつねうどん』とか『カレーライス』も欲しいかなぁ」
「でもいいの、このままで? いくら本人が気にしてないって言っても、やっぱりねぇ…」
少し心配そうな口調で美絵が聞いたが、当の本人は、
「確かに気にしてないけどねー。 でもいい加減こんな『普通の写真』をこそこそ撮られ続けるのもしゃくだし… 何とかしますか」
どっこいしょ、と言いながら椅子から立ち上がり、どことなく自身ありげな口調で答えた。
「撮った奴のめぼしでもついたとか?」
美絵が聞くと、藍梨は、
「ついた… ってほどじゃないけど。 多分そいつにこんな写真を撮らせないようにする事はできると思う」
と答えた。
「何か気づいた事でもあるの?」
「絶対とは言えないけど… ね、悪いけどさ、今日からしばらくの間付き合ってくんないかな? お礼は弾むから」
財布の中でぎゅうぎゅう詰めになっているラーメンの食券を出しながら、藍梨は言った。
それから毎日、藍梨と美絵は閉門時間ぎりぎりまで残り、すっかり日が暮れてしまうような時間に下校するようになった。
そんな日が続くうち、やがて藍梨の「予言」どおり、下駄箱に写真が置かれる事は激減し、ペースで言えば以前の二割程度にまで減った。
それでも写真がゼロにならなかったのは、藍梨がわざと「撮らせている」のと、本当に油断していたので「撮られてしまった」のとが半々と言った所だった。
そしてその少ない枚数の写真を見ながら、藍梨は何かを確信したような表情を見せた。
そんな状態が続いたある日。
藍梨は校舎裏を歩いていた。
部活が始まるまでまだ少し時間があるので、ちょっと散歩…といった雰囲気で、カメラ片手にぶらぶらと歩いていた。
多分開始前のウォーミング・アップなのだろう、向こうの方からかすかに合唱部の発声練習が聞こえてくる。
そんな感じでぶらぶらと歩いていた藍梨だが、やがて立ち止まった。
何か気になる被写体でもあったのか、カメラを構えてファインダーを覗く。
そしてシャッターを切ろうとしたその瞬間、耳元に聞こえて来たかすかなその音を、藍梨は聞き逃さなかった。
「誰!?」
藍梨が大きな声を出して振り向くと、その声の先から誰かが走って逃げていく気配があった。
ただすぐ校舎の陰に隠れてしまったので、姿を見る事はできなかった。
だが藍梨は、まるで真犯人を見つけた探偵のような表情をしていた。
-2-
その晩。
「アイちゃーん、入るわよー」
そう言いながら陽子が藍梨の部屋に入ってきた。
「あ、陽子さん」
藍梨が迎えると、陽子は少し済まなさそうに
「ごめんねー、やっぱりダンナは手ごわいわ。 なかなかクチを割らないの」
と、唐辛子せんべいが山盛り入った器と梅昆布茶が入った茶碗を、文机に置きながら言った。
「あー、大丈夫陽子さん。 もうその件はOK」
せんべいを取りながら藍梨が言う。
「大丈夫…って、出所がわかったの?」
「明日わかる予定」
藍梨がそう答えると、陽子が
「すごーい、わかっちゃったの?」
せんべいを取りながら聞く。
「んー、まぁね。 多分間違いないと思う」
言いながら藍梨は、大口を開けて一気にせんべいをかじった。
「さすがねー。 やっぱり写真やってる人は細かいところまで気が付くのねー」
陽子は心底感心した口調で言った。
言いながら文机の上に視線を移すと、
「何か見てたの?」
と聞いた。
するとやはり辛かったのか、
「…犯人探しの、ヒント」
と答えると、耳と目を赤くしながら少し顔をしかめてそれを陽子に渡し、梅昆布茶を口に含んだ。
「…『夏の写真コンクール 部門別受賞者一覧』?」
「まるでストーカーだわね」
美絵は一連の写真を見ながら言った。
放課後、写真部部室。
まだ時間が半端なのか、部室にいるのは藍梨と美絵の二人だけだった。
特にする事もないので時間つぶしも兼ねて、一連の写真を藍梨が美絵に見せたところだった。
そこで出たコメントが、「ストーカー云々」だったという訳である。
「判りやすいコメント、どうもありがとう」
「ありがとう」と言う割には全然感謝していない口調で、藍梨が言った。
藍梨自身も誰かに相談するというのではなく、茶飲み話程度の話題として写真を見せているだけに過ぎない。
「で? ハラッチはどう思うの?」
美絵が聞くと、藍梨は
「この程度の写真だったらこんなセコい真似しないで、もっと堂々と撮れと言いたいね」
と答えた。
「…それだけ?」
「あー、あともう一つ。 『ラーメン』ばかりじゃ食べ飽きる。 たまには『きつねうどん』とか『カレーライス』も欲しいかなぁ」
「でもいいの、このままで? いくら本人が気にしてないって言っても、やっぱりねぇ…」
少し心配そうな口調で美絵が聞いたが、当の本人は、
「確かに気にしてないけどねー。 でもいい加減こんな『普通の写真』をこそこそ撮られ続けるのもしゃくだし… 何とかしますか」
どっこいしょ、と言いながら椅子から立ち上がり、どことなく自身ありげな口調で答えた。
「撮った奴のめぼしでもついたとか?」
美絵が聞くと、藍梨は、
「ついた… ってほどじゃないけど。 多分そいつにこんな写真を撮らせないようにする事はできると思う」
と答えた。
「何か気づいた事でもあるの?」
「絶対とは言えないけど… ね、悪いけどさ、今日からしばらくの間付き合ってくんないかな? お礼は弾むから」
財布の中でぎゅうぎゅう詰めになっているラーメンの食券を出しながら、藍梨は言った。
それから毎日、藍梨と美絵は閉門時間ぎりぎりまで残り、すっかり日が暮れてしまうような時間に下校するようになった。
そんな日が続くうち、やがて藍梨の「予言」どおり、下駄箱に写真が置かれる事は激減し、ペースで言えば以前の二割程度にまで減った。
それでも写真がゼロにならなかったのは、藍梨がわざと「撮らせている」のと、本当に油断していたので「撮られてしまった」のとが半々と言った所だった。
そしてその少ない枚数の写真を見ながら、藍梨は何かを確信したような表情を見せた。
そんな状態が続いたある日。
藍梨は校舎裏を歩いていた。
部活が始まるまでまだ少し時間があるので、ちょっと散歩…といった雰囲気で、カメラ片手にぶらぶらと歩いていた。
多分開始前のウォーミング・アップなのだろう、向こうの方からかすかに合唱部の発声練習が聞こえてくる。
そんな感じでぶらぶらと歩いていた藍梨だが、やがて立ち止まった。
何か気になる被写体でもあったのか、カメラを構えてファインダーを覗く。
そしてシャッターを切ろうとしたその瞬間、耳元に聞こえて来たかすかなその音を、藍梨は聞き逃さなかった。
「誰!?」
藍梨が大きな声を出して振り向くと、その声の先から誰かが走って逃げていく気配があった。
ただすぐ校舎の陰に隠れてしまったので、姿を見る事はできなかった。
だが藍梨は、まるで真犯人を見つけた探偵のような表情をしていた。
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その晩。
「アイちゃーん、入るわよー」
そう言いながら陽子が藍梨の部屋に入ってきた。
「あ、陽子さん」
藍梨が迎えると、陽子は少し済まなさそうに
「ごめんねー、やっぱりダンナは手ごわいわ。 なかなかクチを割らないの」
と、唐辛子せんべいが山盛り入った器と梅昆布茶が入った茶碗を、文机に置きながら言った。
「あー、大丈夫陽子さん。 もうその件はOK」
せんべいを取りながら藍梨が言う。
「大丈夫…って、出所がわかったの?」
「明日わかる予定」
藍梨がそう答えると、陽子が
「すごーい、わかっちゃったの?」
せんべいを取りながら聞く。
「んー、まぁね。 多分間違いないと思う」
言いながら藍梨は、大口を開けて一気にせんべいをかじった。
「さすがねー。 やっぱり写真やってる人は細かいところまで気が付くのねー」
陽子は心底感心した口調で言った。
言いながら文机の上に視線を移すと、
「何か見てたの?」
と聞いた。
するとやはり辛かったのか、
「…犯人探しの、ヒント」
と答えると、耳と目を赤くしながら少し顔をしかめてそれを陽子に渡し、梅昆布茶を口に含んだ。
「…『夏の写真コンクール 部門別受賞者一覧』?」
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