男装の二刀流令嬢・ヴァレンティーナ!~婚約破棄されても明日を強く生き!そして愛を知る~

兎森りんこ

文字の大きさ
24 / 36

二刀流令嬢・ラファエルの村を見学する・2

しおりを挟む
「まず、畑と川の増水具合を見に行く」

「あ、あぁ」

 朝に、稽古した時にも体格差は感じた。
 お互いに精一杯の力を出しての稽古だと心から楽しかったが……今は彼の腕に抱かれていると……やはり手加減されていたのかと思う。

「オレンジが……ここの……」

 広大なオレンジ畑。

 ラファエルの後ろから聞こえる声。
 雨の中だし、カッパ越しだ。
 それなのに、耳に優しく響く声。

 心地よい、響き。
 ずっと聞いていたくなる。

「ヴァレン?」

「あ、あぁ!」

「だからオレンジの精油を、是非……なぁ、なんかそんな縮こまってたら体勢辛くないか?」

「えっ」

「俺に、もたれても大丈夫だぞ」

 優しく左手で抱き寄せられる。
 いや、それはただ……もたれていいとの合図で……そう思っているのに、また胸の動悸が。
 冷たい雨が、熱くなる頬に落ちた。

 ラファエルの村は畑もとても綺麗に整備されていて、用水路も手の込んだ作りで平等に水が分配されるようになっていた。
 早めに水の調整機を作動させたので氾濫する事はなさそうだ。

「此処は、ラファエルが統治しているのか?」

「あぁ。爵位を剥奪された時に、代わって統治することになった辺境伯が此処はお前で管理していいと言ってくれたのさ。まぁ当時の村人の反発もあってね。代わりに税金は収めているが、余裕はあるよ」

「素晴らしいな」

 雨の中でも、村の家々もしっかりとした作りで花壇がある家もある。
 人々の幸せが伺えた。

「学校にも行ってみるか」

「学校?」
 
「あぁ。できたばかりの学校なんだ。ヴァレンにも見せたい」

「こんなに雨が降っているのに?」

「雨が降っていても、学校はやるさ」

「そ、そうか。ルークはいる?」

「ルークは今日は、手伝いだ。みんな行ける時に行く」

「なるほど」

 ヴァレンティーナは当然、家で何人もの家庭教師によって教育された。
 学校とは無縁だった。
 父は特に女に教養など無駄だと考えていたので、ヴァレンティーナが更に詳しく学びたいという願いも一蹴した。

「剣も大切だけど、これからはきっと勉強も大切だろ? 子供も立派な働き手だけど、将来の事は大人が考えて導いてやらないと」

「あぁ。そう思う」

 無邪気に笑う男の、深い考えにヴァレンティーナは感動を覚えた。
 今まで話してきた男達は、自分の狩猟がどうの、自分の買ったワインがどうの、高い閲覧席で見た劇がどうの、自分が手に入れた値打ちの高い宝石が……そんな話ばかりで……もっともっと話が聞きたいと思ったのは初めてだった。

 少しだけ覗こうとした学校は、小さな家のようでラファエルを見つけた子供達がはしゃいで大騒ぎになった。
 先生に謝りながら、ラファエルは子供達の相手をにこやかにする。
 
「わぁかっこいい人がいる!」「王子様?」「どこから来たの?」「剣を持ってる!」「ラファエル様より強いの!?」「お兄ちゃん、これ見て!」
 
 逆に小さな子供とはあまり接した事のないヴァレンティーナは、少しタジタジだ。
 だが、黒板に書かれた算数に戸惑っている子を見つけたヴァレンティーナ。
 わかりやすいように、優しく教えるとその子の目が輝き出す。

「わかったーー! すごい先生!」

「諦めない君の努力の結果だよ」 
 
「ヴァレン先生ありがとう!」

 子供達が飛び跳ねて『ヴァレン先生!!』と連呼する。
 
「とんでもない、私は……」

「教えるのがとてもお上手なんですね。ラファエル様、もしかして一緒に教える新しい先生にと連れてきてくださったんですか?」

 若い女の先生は、元気いっぱいの子供達に少々疲れ気味のようだ。
 一人では確かに大変だろう。

「あ、いやヴァレンは……旅の途中のようで」

「そうなんです。私は全くの、はい……数日経てば出て行く身です」

 先生も子供達も残念そうな顔をしたが、ラファエルも寂しそうな顔をした。
 それを見て、ヴァレンティーナの心もチクリと痛む。

 授業を途中で騒がせた事をラファエルは謝り、雨が酷くなれば屋敷に来るようにと皆に伝えた。
 最後に、先生が気を利かせてラファエルへのハッピバースデーソングを子供達が歌ってそれはそれは可愛らしかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

処理中です...