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ひとりぼっちふたりぼっち(仮完結
しおりを挟むお休みの日、おじいちゃんと近くのスーパーに買い出しです。
スーパーは遠いので、少し錆びたピンク色の軽自動車で行きます。
おばあちゃんが好きだったピンク色の軽自動車です。
スーパーの駐車場に着くまではゆりちゃんの隣にいたもふもふさまの姿が見えません。
ゆりちゃんはトートバッグを持っておじいちゃんとスーパーに入ります。
「あ、ゆりちゃんだ~」
スーパーでクラスの女の子、カナちゃんと会いました。
とても良い子です。
お父さんとお母さんと弟と来ているようで、おじいちゃんと一緒に挨拶しました。
「そのぬいぐるみ可愛いね! これがコンコン?」
ゆりちゃんのトートバッグから顔を出しているのは、二匹の狐のぬいぐるみでした。
「うん、コンコン」
「でも、もう一匹いる……こっちは?」
「こっちは……えっと……モフモフ」
「可愛い~双子みたいだね」
「えへへ、そうなの」
「今度うちにも遊びに来て! 木村君達も誘うから」
「木村君?」
「うん。木村君さ、ゆりちゃんのこと好きみたいだよ」
こっそり耳打ちされました。
「えっ」
「うふふ、じゃあねぇ」
先に惣菜売り場に行ってしまったお母さん達をカナちゃんは追いかけていきました。
今の話を聞かれていないかな? とゆりちゃんは心配になりましたが、ぬいぐるみは何も言いません。
「ゆり? 行くよ」
おじいちゃんに、ゆりちゃんも呼ばれて慌てておじいちゃんの元へ行きました。
「いなり寿司食べたいぞ」
二人に聞こえる声がぬいぐるみから聞こえます。
「おじいちゃん、どうしよう」
「じゃあ油揚げを買って帰ります」
「頼むぞ爺」
ゆりちゃんはドッキドキでした。
帰りの軽自動車のなか、もふもふさまは元の姿に戻って二人で歌を歌いながら帰りました。
もふもふさまは童謡しか知らないのかと思っていたら何故かどこかで聞いたような昔のヒット・ソングを歌ってくれました。
「よっこいしょ」
やっと家に着いてみんなで大荷物を運びます。
もふもふさまは頭にも尻尾に器用に載せて運べます。
いつもはお昼にフードコートでおじいちゃんと二人でハンバーガーやうどんを食べるのですが、もふもふさまが可哀想なのでテイクアウトしてきました。
心地よい風が吹いているので、縁側で食べることにします。
袋を開けると、香ばしい油の匂いにもふもふさまの耳と尻尾がパタパタ揺れます。
もふもふさまはなんでも食べるし最近はチーズトーストも好きなので大きなチーズバーガー。
ポテトは大きなサイズです。
「うまそうだ」
「うん、すっごくおいしいよ。おじいちゃん、フィッシュバーガーはい」
「ありがとう」
おじいちゃんは、フィッシュバーガーひとつだけです。
ゆりちゃんともふもふさまには、大きなカップのサイダーもあります。
「しゅわしゅわ~~」
「しゅわ~~しゅわわ~~」
初夏の爽やかな風が気持ち良いです。
家庭菜園の緑もどんどん色濃くなって、木漏れ日もキラキラしています。
ピーマンが採れるのも、もうすぐかな。
青い空の雲ももくもくとしてきました。
「美味しいね」
「うん、うまい。この芋はうまい」
もふもふさまはフライドポテトがすごく気に入ったようでした。
おなかいっぱいはしあわせいっぱい。
食べたあとは、縁側でいつの間にか二人で寝てしまいました。
もふもふさまは、尻尾に抱きついても、いつの間にか枕にしてても全然怒りません。
あったかくて、風も心地よくて、しあわせです。
いつの間にかタオルケットがかかっていて、夕方におじいちゃんに起こされました。
おじいちゃんは夕飯の支度をしていたようで、お味噌汁の香りがします。
二人で手を繋いで台所に行きました。
「あ~……ゆり、お父さんがな。心配していたよ。メール見ていないかい?」
「き、気付かなかった」
「元気だからって言っておいたけど、返事してやったらいいよ」
おじいちゃんは、こういう時に『返事をしなさい』というような言い方はしません。
「あとで……する」
「あぁ、それでいいよ」
もふもふさまが鼻をヒクヒクさせています。
「くんくん、油揚げの煮た匂い」
「初めて作ったんですがね……どうでしょうかねぇ」
お鍋にはたっぷりの油揚げが茶色の煮詰まったおつゆにつかっていました。
「油揚げにご飯つめるの、やってみたい」
「なるほど、これに飯をつめるのか知らなんだぁ」
「いっしょにやろう~」
「うむ、やろう~」
おじいちゃんが煮付けてくれた油揚げに、すし酢をかけて冷ました酢飯を入れていきます。
白ごまも混ぜました。
「あれご飯入れすぎた、やぶれた~」
「うむ、よいしょ」
「よいしょ、できた」
二人でスプーンでよいしょよいしょとつめていきます。
酢飯の良い香りがたまりません。
「うむ、うまい」
「あ、もふもふさまずるい~」
もふもふさまペロリとつまみぐい。
ゆりちゃんも、おじいちゃんも一つずつつまみぐいして、二十個もできました。
おばあちゃんのお仏壇に二個備えて、お味噌汁と一緒に食べました。
砂糖と醤油の甘じょっぱい油揚げのおつゆが酢飯にじゅわっと染み込んで、お狐様じゃなくても最高に美味しいです。
白ごまが、ここでは名脇役。豪華な気持ちにしてくれます。
「最高じゃっ! うまい!」
「最高じゃ~! おじいちゃん、私も今度煮るとこもやりたい」
「そうしようか、そしたら二人でいつでも作れるな」
「うん!」
夕飯のあとは、三人で芸能人が田舎へ行くテレビを見て笑いました。
「あの子さ『信じられましぇ~~ん!!』だって、きゃはは」
「信じらましぇ~~~ん、きゃはは」
「そら、ずっと食べてるものが東京じゃ知らん言われたら驚くなぁ」
「私も、ここ来てびっくりしたのある~」
「ほう、なんじゃゆりゆり」
楽しい時間でした。
そして夜は更けて、おじいちゃんはおばあちゃんのいる仏壇のある部屋で寝ます。
ゆりちゃんが来てからは、ゆりちゃんの部屋で一緒に寝ていたのですが
おじいちゃんはずっと、おばあちゃんが亡くなってからずっと、仏壇のある部屋で寝ています。
「ゆりゆり……」
お布団の中でもふもふさまの尻尾を抱きしめながら、またさっきのテレビの話をしていると
もふもふさまがキラキラのおめめで、ゆりちゃんに尋ねてきました。
「どうしたの? もふもふさま」
「木村君の好きって……なんじゃ?」
ぽつり、ぽつり、と家庭菜園の野菜達には待ち望んだ雨が空から降ってきました。
「え……」
「すーぱーで言ってたじゃろ」
「き、聞こえてたんだ……」
「うむ……」
「木村君はクラスの子だよ」
「おとこのこどもか」
「そう」
「そのこどもは、ゆりゆりが好きなんだなぁ」
「ち、違うよ!」
つい、大きな声で言ってしまいました。
嫌なドキドキがします。
激しい雨音のように、心臓が変に動きます。
「違うのか」
「わ、私は私はひとりぼっちだもん……ひとりぼっちなの、絶対ひとりぼっちなの」
「ひとりぼっちはさびしいよな」
「そうだよ、だからね、だからね」
ゆりちゃんはもふもふさまの尻尾を抱きしめました。
もしかしたら痛いかも。でも強く抱きしめました。
「だから、もふもふさまは一緒にいてくれないとダメなの。また痛くなっちゃうもん」
「ゆりゆりが痛いと泣くのはいやじゃの」
「うん……だから」
ゆりちゃんの目もうるうるしてキラキラです。
「いっしょにいてね」
「……うん」
尻尾から離れて、ゆりちゃんはもふもふさまに抱きつきました。
もふもふさまもゆりちゃんを抱きしめてくれます。
あったかくて、もふもふさまは陽だまりの匂いがしました。
「もふもふさまだいすき」
「もふもふさまも、ゆりゆりがだいすきじゃ」
「もふもふさま……うん」
じんわりと、あたたかい涙がゆりちゃんのほっぺに流れてきました。
それは嬉しさの涙でした。
世界でいちばん好きなもふもふさまがいてくれるなら、ゆりちゃんはずっとひとりぼっちでいいと思います。
「これだと……ふたりぼっちじゃ」
「……ふたりぼっち……うん」
「くふふ」
「くふふ」
ひとりぼっちはさびしい言葉だけど、ふたりぼっちはうれしい言葉。
ゆりちゃんはずっと、もふもふさまと一緒にいたいと思いました。
明日も明後日も明々後日も――ずっとずっと。
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