転生先はパラレルワールドだった

こぶたファクトリー

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62話 力試し

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 ブレメルーダに到着し、隣国であるシバ領領主の家来…タルパなる小男を引き立て、ヤーナを連れてリノーシュの元へと帰還した。…ファミリーネームは「愚民共に名乗る名など無い」と頑なに拒否して名乗らなかった。

「こ、国王陛下、ダイス様がご帰還されました!お部屋にお通ししても!?」
 衛兵が慌ててリノーシュに許しを伺った。
「あ、ああ!通してくれ」

「ダイス、ヤーナ…その男は…」

 衛兵たちからも顔パスで通された大淵がただならぬ様子で男を歩かせながら執務室に入ってきたため、リノーシュも慌てて腰を浮かした。

「リーデの村でモンスター…ナイトメアに、住民のマナを喰わせていました。…住民は無傷ですが、ダイス様たちがお助け下さらねば、いずれは死人が…いえ、村ごと滅びていたでしょう」

「…隣国の家臣とは言え、人類に対する反逆だ。…貴公、たった今告発された所業は真か?」

 リノーシュから大淵とヤーナへの信頼は明らかだった。端正な顔に険しい鋭さが宿り、暗に「何か言いたいことはあるか」と最後の弁解の時を与えていた。

「そちらこそお分かりですかな、陛下? …シバ家一等騎士である私をこのように扱う事…それは我らシバ軍全てを敵に回す事になりますぞ?…海軍力では貴国には敵う国など御座いませんでしょうが、陸では…」

「…それは肯定と受け取って良いのだな?」

「…」
「…城の牢に拘束する。衛兵、丁重にお連れしろ」

「これでお前達はお終いだ、蒼の牝…」
 大淵にまた秘孔を突かれたか、その場で声も無く海老反りしながら悶絶し始めた。
「…彼の持病のようだ。命には別条ないので安心していい」 
 澄ました顔で言ってのけ、タルパを衛兵に引き渡した。

「…ご苦労だったね、ヤーナ。 …村の事だが、我が軍の兵を駐屯させる。…必要とあらばここへ避難させるから、何も心配はいらない。 君はゆっくり休んで、また明日からいつも通り勤めてくれ」

「は、はいっ」

 ヤーナは小さな頭を下げると、執務室を下がった。

「…シバ家ってのは、そんなに敵対的なのか?」
 二人きりになり、大淵は気兼ねなくリノーシュに訊ねた。

「…父王の時から確執があったらしい。それでもお互いに不干渉を決め、これまでは特に大きな戦もなく過ごして来た。…だが今回はそうも行かないかな」
 リノーシュは棚から酒瓶を取るとグラスを二つ取り、それらに洋酒を注いだ。一つを大淵に進め、それを大淵も受け取った。
「…あの家来の家柄は知らんが、品は良く無さそうだったが」

「…鷹の勲章があった。彼はシバ家の経済・外交を司る部署の高級幹部だ。護衛も無しにリーデに居た理由は分からないが…」

「…護衛…」
 あのオークが…まさかな。

「しかし君は本当に何でもそつなくこなしてくれるね。親友としても鼻が高いよ」
「ふん、誰かさんが次々厄介ごとを依頼してくれるお陰で慣れちまったよ」
「そうなのかい?その誰かさんには感謝しないとね」
 …皮肉返しなのか素なのか分からない、輝くような笑顔でグラスを傾けた。

 …だめだ、コイツは黒島とはまた違った厄介さがある…
 グラスを傾け、足早に去ろうとする大淵をリノーシュが呼び止めた。

「素敵な何でも屋さんに、僕からプレゼントだ」

「…これは?」
 手渡されたのは赤地に…例のオルカ勲章がアクセントとして縫い込まれたスカーフだった。
「我が国の職人に縫わせた一品だよ。お守りと思って受け取ってくれ」
「…なんか高そうで受け取り辛いな…」
「そんな事ないよ、ほら、よく見ると少し古めかしいだろう?」

 言われて見れば、モノ自体が立派で気にならないが、少し日に褪せたようにも見える。
「これまでのささやかなお礼だと思ってさ」
「…わかった。ありがたく頂くよ」

 スカーフを受け取って出ていく大淵と入れ替わりに、側近の一人が顔を青褪めさせながら執務室に入ってきた。
「へ、陛下…まさか」
「うん、あげちゃった」
 曇りない笑顔に側近は呆気にとられて黙り込んだ。
「代々伝わる家宝も、飾られて眠っているより、勇者と共に旅をしたいだろう。僕の身代わりさ。…それより、先に心配すべきことがあるだろう?」
「は、はっ!…シバ家へ向け、今回の家臣拘束に関する詳細とリーデ村と村民の没収に関して、ブレメルーダ王の書状を使者に持たせます。…サインを」

 リノーシュは書類を受け取り、迷うことなく署名した。

「…頼んだよ。使者は腕利きの軽騎兵だと尚好ましい」
「…手配いたします」





「…皆、ハードな任務をぶっ続けでご苦労だったな。とりあえず今日明日は休みにしよう。プライベートを満喫して、次の任務に備えてくれ」
 小隊が間借りしている王城の騎士小隊室で、大淵は全員に告げた。
「因みに次の任務は何か予定されているのか?」
 藤崎が至極もっともな質問を返した。
「実は決まっていない。…というのも、日本政府との連絡手段が無いんだよな…まともな船が無いから、海底ケーブルも引けんし…」
 無線のリレー中継ではたかが知れていた。…そもそも衛星どころか、中継アンテナといった通信インフラすら満足に整備されていない。

「…星村の奴、寂しがってねーかな」
 黒島が心配そうに呟いた。…長期活動になる事と、高校生活を取り戻させるために星村は留守番として残して来た。
「…学校の友達と楽しく青春やってるさ」
 
 …本来、俺らみたいに歳の離れた奴らと一緒に仕事している方が異常なのだろう…
 
 しかし、この不便さは何とかしたい。…せめて、通信だけでも確保できれば…

「…そういう訳で、俺達は現在宙ぶらりんだ。まぁ、リノーシュ王ともパイプを作れたし、仕事は最低限以上果たしている筈だ」

(…一国の、それもこの世界で唯一であろう海軍力を有する王と親密になっておいて、最低限も糞もあるかよ…)
 黒島は相変わらず自身の価値を理解していない大淵に呆れ果てながらかぶりを振った。

 とはいえ、小隊員に休日を与えるのは有意義だと思う。…中には個人的に帰りたいものもいるかもしれないが、その気が紛れ、ストレスを緩和できるだろう。

「そんじゃ、御金蔵番の出番だな。全員に現地通貨を配っておく。隊長のお達しだ、二日間ゆっくりしてきてくれ。王城の外に出て冒険するのも自由だが、その場合は俺か大淵に行き先を教え、必ず明後日中に帰還してくれ。…でないと他隊員を巻き込んだハイパー隠れんぼをする羽目になる」



 大淵はこっそりとその場から抜け出していた。
 
 …実に下らない事だが、自分の今の実力を試してみたくなっていた。

 闘技場へ行ってみよう。…身分を隠して。
 こんなくだらない事に現を抜かす姿を小隊員…特に桜や日菜子に見られるのが嫌で、黒島の話の最中に隙を見て抜け出して来たのだ。 
 
『こら、ダイス!どこへ行った!?』

 無線機から大声で怒鳴るマオの声が響き、城内を警衛していた兵がビクりとして大淵を凝視した。

「まーまー、そっとしといてやれよ、大淵だって男だ。…今頃は綺麗なおねーちゃんを捜し求めて狼…いや、ハイエナのように…」
 無線機を切り、リディーネの頃から使用しているマントを羽織り、町へと繰り出した。

 闘技場の場所は分かっている。軽い足取りで向かうと、今日は闘技場の中から歓声が聞こえてこない事に気付いた。
「…今日は休みか?明日明後日なら…」
 出入口ホールの掲示板には、次の開催が三日後である旨の告知が張り出されていた。
(まぁ、そう毎日毎日やらないか)

 出鼻を挫かれ、はたと困ってしまった。まだ昼過ぎで、今から飲んでも仕方がない。

(商店街にでも行ってみるか)

 立ち去ろうとする大淵に声が掛けられた。
「お兄さん、お兄さん…」

 怪しげな男…今の自分も人の事を言えたものでは無いが、襤褸布を纏った浮浪者風の男が話しかけていた。
「腕試しがしたかったのかい?…表の闘技場は子供のスポーツさ。本当の腕試しをする度胸はあるかい?」
「…そんなものがこの立派な国にあるのか?」
「当り前さ。…汚さと美しさは表裏一体、切り離せないモンだよ。…この海だってそうさ。平時はこうして美しいが、一度荒れれば何の罪もない船だろうが沈めて人を殺す……お兄さんにだって思い当たる節が、自分にも他人にもあるだろう?」

「…で、場所は?」
「…ついてきな」

 繁華街へと進むと、怪しい雰囲気が一層強まってきた。…女は勿論、気の弱い男では、路地裏に引きずり込まれて二度と出てこられないかもしれない。石造りのバーや…女を商品とする店が幾つも並び立つ。

「…」
 知らず足を速めたが、一人の女に捕まった。

「遊んでかない?」
 艶めかしく引かれたリップと、香水の甘ったるい匂いが腕から絡みついてくる。
 柔らかな物を胸に押し当てられても、大淵は寒気を覚えるだけだった。

 …これまで、自分には勿体ないほど素晴らしい女性に恵まれ過ぎた。
 そのせいで女性に対する免疫がある意味で弱まっていた。どんなに魅力的な顔でも体でも、そこに好意が無ければ自然と体が拒否反応を起こしてしまう。

「…申し訳ないが、急いでいるので」
 丁重に女性を離し、男の後を追った。

 男は一つの風俗店の前で止まり、店の前で客引きをしている女と何やら言葉を交わしていた。
 女は気の毒そうに大淵を見て肩を竦めた。

 
 途端に耳を圧する大歓声が聞こえてきた。

(闇闘技場ってやつか…) 
 若い男女が中心の観衆に囲まれ、鎖が貼られた八角形のリングの上で男と女が異種格闘で戦っていた。男は拳闘士で、勝気そうな女は汎用剣士だった。…体格差は圧倒的だったが、ステータスは男が若干有利な程度。
 リングは一般的な剣道や柔道の試合範囲より、八角形の分やや広い程度。
(剣道三倍段とは言うが…この世界には当てはまるのだろうか?)

 だが、男の方が優勢な気がした。今はどちらが勝っているかなど、明白な差は無いが、大淵の戦闘経験からそんな感があった。
 そしてそれは正しかった。女の息は崩れ、男にクリンチを許してしまった。止めるレフェリーも居らず、組み敷かれた女の顔面に拳が容赦なく叩き込まれた。
 女が武器を落として顔面を守っていても、誰も止めない。
 …自身の内臓から熱いものが広がっていくのを感じた。アドレナリンの放出を感じながらもリングへ向かって大股に動き出した大淵を、それまで歓声を上げて見ていた男が止めに掛かった。

「お、オイオイ、何をする気だよ!?」
「勝負はついている。止める」
「止めるかどうかは勝者の勝手だよ!」
「じゃあ俺が勝てば文句はあるまい」
「そんな無茶な…」 

 リングに乱入した大淵に観客が大ブーイングを発した。ブーイングに気付いた男が振り返り、気の抜けた顔を見せた。

「おいおい、どこの坊やだ?ママはどこに行った?」
「勝負はあったろう。もう止めてやれ」

 ハッ、と笑うと、男は再び女に向き直り、拳を振り上げた。
 
 …気を失ったのか、もうノーガードだ。
 渾身の拳が叩き込まれた。
 
 リングの石が削れ、周囲に破片が転がった。

 …女剣士は大淵に抱えられていた。

「…人の獲物を横取りするとはふざけた野郎だ…」
「それに関しては謝罪しよう。…何分、堪え性が無くてな」
 大淵は一枚の金貨を床に滑らせて男の足元に送った。

(…というかこいつ、俺のステータスが見えていないのか…?)
 さすが、日頃から生死を賭けた実戦に慣れているだけあって、この世界の戦士達のステータスは現代戦士の倍近くある。…しかし自分のステータスはこの世界の戦士…目の前の男の三倍以上隔たっているというのに、こちらを恐れる気配もない。

「…お前、俺が怖くないのか?」
「馬鹿かお前!? やることといい、イカレてんのか?何でお前なんぞにビビる必要があるってんだ?」

 頭に血が上っているとはいえ、自分のステータスの三倍以上の相手を前に啖呵を切るとは…口は汚くとも、その蛮勇は称賛に値する。 

「まぁ、確かに馬鹿でイカレているいるかもな。…おい、大丈夫か?」

 リングを降り、女を介抱し始めた大淵に堪忍袋の緒が切れたか、男はリングを飛び越えて大淵に飛び掛かった。
「うおっ、良く飛ぶな!?」
 空中でキャッチし、例の秘孔を突いた。途端に男が悶絶し、その隙に大淵は女を担いで男の元に戻った。
「出よう」

「…出られないよ。一度リングに乱入して上がった奴は、優勝するか死ぬまで出られない。アンタはその女の代わりになったんだよ」

 男は残念そうに大淵に告げた。

「勝ちゃいいって、啖呵切ったんだろ?だったらやってきなよ」

「…それもそうだな。 …なら、この娘を頼むぞ。何かしたらお前の歯を圧し折るからな」
「はいよ」
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