転生先はパラレルワールドだった

こぶたファクトリー

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69話 紫苑不忘

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 午前4時

 眠たい眼を擦りながらも、兵たちがブレメルーダから見渡せる平原を睨み続ける。

「…来たぞ!」

 ブレメルーダとリーデ方面の間に流れるロナレ川の河口。その上流部は柔らかい地層の上に岩石質の分厚い地層が覆いかぶさって天然橋となり、その下の柔らかい地層をロナレ川の水が海に流れ込んでいる。
 その幅50メートルにもなる天然橋を大軍団が駆け抜けて来る。 先遣隊か、一万程の軍勢が隊列を組み、堂々と進撃していた。…ブレメルーダから橋までは1.5キロメートル程。…軍艦の砲撃なら届くが、天然橋はブレメルーダとしても失いたくはない戦略価値・経済価値を持つため、そこでは素通りさせ、敵が陣形を整えるのを待つ。

 可能な限り敵戦力の多くを入り込ませ、一網打尽にしてしまうのだ。 攻め手であるシバ・ハルトンの攻撃的な性格かそれとも短期決戦でケリをつけられると思っているのか、敵軍は恐れた様子もなく続々と橋を渡って我が物顔で軍団毎に隊列を整えていく。

距離は一キロほど。敵の方がやや高地に立っている為、地の利はやや相手に軍配が上がる。
 だが敵には例の兵器以外、大型武器は数えるほどの大砲くらいしかない。総合火力は完全にブレメルーダに軍配が上がっている。


 正面の塀の上から大淵と共に敵陣営を睥睨するリノーシュの元に、参謀が駆け寄った。
「諜報者からの情報を照らし合わせ、彼我の戦力差を算出しました」
 
 リノーシュが紙片を受け取り、大淵にも見せた。
「純粋な戦闘要員だけに絞り、こちらの総兵力1万3000に対し、敵は三万か」
「これに加えて僕達はまだ戦艦を十一隻保有している。…君の提案だが、戦艦を陸上攻撃に使うとはね」

「島を攻める時や敵が攻めて来てくれなきゃ使い辛い戦法だが、こうしてノコノコ来てくれたんだ。…例のふざけたオモチャを使わせる前にカタをつけられれば一番楽なんだが」
「うん。…敵には気の毒だが、あんなものを使った以上、慈悲は必要ない。…可能な限り引き込んで、余計な真似をさせない内に終わらせてしまおう」

 と、一騎の使者がやってきた。

「ほぉ…人の使者は殺しかけておいて…勇敢なのか、自分達は殺されない根拠でもあるのか…」

「まぁ、話くらいは聞いてやろうか」

 使者は城門前まで辿り着くと、向けられた弓や銃に怯むことなく堂々と…というより傲然と書状を読み上げた。

「ブレメルーダ女王・リノーシュに告ぐ!シバ家家臣タルパ・ア・プォンタン男爵を即時解放し、リノーシュ女王の投降を命ず。さすれば双方とも無用な血は流されずに済むであろう!」

「訂正を命ずる。我はリノーシュ王なり。…そして人間を食人鬼に変える悪辣外道な兵器を用いる外道共に従う理は無い。逆に命ずる。ハルトン・シバと件の兵器の開発者の出頭を命ず。さすれば双方とも無用な血は流されずに済むであろう!」

 拡声器いらずの、リノーシュの涼やかで凛とした声が戦場全体に響き渡った。

「…重ねて告ぐ。ブレメルーダ女王…」
 一条の矢が使者の兜を掠め、悲鳴が上がった。
「ははは、ご苦労。帰って良いぞ」

 起き上がった使者の髪は…リバースモヒカンとでも言おうか…その凄まじい一撃で一文字に頭頂部が禿げ上がり、微かに焦げていた。…恐ろしい事に、それだけの芸当をして血は一滴も流されていないという神業だ。 

「ど、どうなっても知らんからな!?」
「こちらのセリフだ。…家族が惜しい者は今からでも帰るのだな!」

 使者が悪態を吐きながら引き返して行く。

 その間にも続々と敵の後続が続き、天然橋の上には天幕が張られた。

「…アレが総大将かね?」
「おそらく、ハルトン・シバだろうね。…あんなにこれ見よがしに橋の上に立てて、囮の可能性も捨てきれないけど」

「…ともあれ、役者は揃ったようだ。…始めようぜ」

「ああ」
 リノーシュは短銃を持つと、空へ向けて放った。オレンジ色の信号弾。「クラッカー弾による艦砲射撃」を意味する合図だ。

 湾に浮かぶ旗艦・キングオブノーチラス含め十一隻の軍艦から、凄まじい一斉砲撃が行われた。それぞれの砲撃座標は予め割り振られている。直径20センチにもなる砲弾は弧を描いて悠々と王国の頭上を飛び越え…敵陣の只中で次々と炸裂した。

 着弾地点から半径十メートル以内の生存はほぼ絶望的だ。そこから半径三十メートル以内の敵は怪我か大怪我か、運が悪ければ死亡する。

 本来は海賊相手に使う事を想定されたもので、殺傷よりかは敵に大量の負傷者を量産して戦意を削ぐための砲弾だった。

 報復とばかり、敵の砲が発射された。

「射方!」

 大淵が命ずると、塀の上に据え付けた20㎜ガトリング式機関砲座から射方がスキル・超視力を利用しながら敵砲弾を幾つか破壊した。それでもすり抜けて来る砲弾は大淵の風神騎槍で吹き飛ばし、敵陣内で爆発した。

 それでも全ては防げず、幾つかは外壁を削ったが、この時点で人的被害は敵とは比べ物にならない。せいぜいが重傷者一、二名だ。

「ファランクスを撃て!」

 それこそあの兵器と似たような物だった。専用大砲から二百本の鉄の矢が放たれ、例の兵器の周りに鉄の雨となって降り注いだ。
「オーガハンマーを!」
 リノーシュは容赦せず、再装填の間に次の兵器を発射させた。
 
 これは直径10~20㎝の岩石を大量に投げ飛ばす恐ろしい投石砲だった。さすがに砲というには無理があり、スキル恩恵は低めだが、それでも十分な殺傷力と確実な対物ダメージがある。

 例の兵器の殆どが集中的に攻撃を受け、操作者は逃げ出し、箱は粉々に打ち砕かれた。

「…正直に全てをあそこに陳列していると思うか?」

 戦場を見据えたまま風神騎槍ストームランスを肩に担ぎ、リノーシュに意見を求めた。



「僕だったらそうはしないかな。…恐らくハルトンもそうはしないだろう。所謂脳筋だけど、戦への駆け引きでは人並の知恵と獣並の勘を持っている。だから平民の出でありながら体一つだけで一国の主になったんだ」

 周囲を見回しつつ、大淵は声を潜めた。
「…あのタルパ・アンポンタンとかいう奴と言い、お前の素性を知っているようだったが、広く知られている事なのか?」

 リノーシュは男装しており、顔こそ迷うほどの絶世の美形だが、体のラインも徹底的に隠している。…フェロモンでも嗅ぎ分けられる野生動物並の嗅覚でもなければ見破る事は限りなく不可能な筈だ。

「君は初対面で見抜いていただろう?…あの時の驚き方ですぐに分かったよ」

「ああ、そういえば…声でな」

「…なるべく低い声を出そうとしているんだけどね、やはり誤魔化し切れないか。 それでも君みたいに一発で見抜かれる事はあまりなかったんだけど。…まぁ彼には野性的な嗅覚も備わってるのかもしれないけど。…彼とは周辺の領主や王族との会合で会ってね。彼にもすぐに見抜かれて、そうしたら僕を王としてではなく女として扱った上に求婚までしてきた。…勿論蹴ったけどね。でもそれ以来、元々ぎくしゃくしていたのが余計に根に持たれちゃったけどね」
 
 球根なだけに、とつまらないギャグを思いつきながらかぶりを振った。







「…あ~…」

 銀色頭はタリエラの山頂から軍用高性能単眼鏡を投げ捨て、頭を抱えた。

「いやぁ~最悪ですなぁ…これは所謂テンションダダ下がり…マジねーわ、ですぞ…ねぇ、ダイス様ッ!?」
 
 折角下手な芝居までして仕込んだ、鬱屈とした負の感情の種が綺麗に消えている。…顔を見ただけで分かる。「無菌室育ち・無農薬・有機栽培の大淵大輔」に逆戻りしていた。

「こ・れ・は~…お隣のフロイライン…いや、ケーニギン・ベイエッジ様の仕業ですなぁ~!? …ッたく、余計な事をなさって下さる! 私は今、激激おこおこぷんぷん丸ですぞッ!」

 …見た目はこれでも内心は常人には理解しがたい程の激情と復讐心に燃え狂っていた。

 あの女王を衆人環視の中…磔にしてこちょこちょのくすぐり刑にして笑い狂わせた上、ご自慢のコバルトブルーのロングヘアーを真っ赤なヘビメタモヒカンにした挙句、月までロケットで飛ばしてやりたいくらいには。

「まっ、良いでしょう!」
 パン、と手を打ち鳴らし、華麗なる盆踊りを踊って荒れた気を静めた。

「一度刻んだ傷ですから、遅かれ早かれふとしたスイッチでまた傷が開くでしょう!体の傷はともかく、心の傷を完全に癒せる事は決して無いのですからねぇ」

 これはコレでいつ自分に有利に動くか分からない、びっくり箱を仕掛けたようなものだ。そう考えると怒りどころかあのケーニギン…いや、ケニグ・ベイエッジ様に感謝したくもなる。

「…そうですなぁ、次は誰か親しい方と悲劇的な別れなどして頂くと一気にダイス様の灰汁が深まりますかなぁ…闇落ち騎士と化したダイス様…嗚呼なんと甘美ながら苦々しい暗黒騎士でしょうか…灰汁からしか摂取できない栄養素があるのですよ、この世には! …おやぁ?」

 ターンを決め、そのまま遥か5キロ彼方の壁上を見つめると…ケニグ…いや、ワイザー・ベイエッジ様が険しい表情で確かにこちらを睨みつけていた。…隣のダイス様すら私に気付いて下さらないというのに!
 
「ムキーッ!私こそがダイス様ファンクラブ第一号ですぞーッ!? この千里眼持ちの泥棒猫ーッ!」
 自らのハンカチを噛むジェスチャーをしつつ、地団駄を踏んで威嚇した。







「…大輔、君は本当に呆れるほど、色んなモノに好かれているね」
 遠くを見つめ…いや、睨みつけながらリノーシュが呟いた。
「…藪から棒になんだ?…何か見えるのか?」
 リノーシュが睨みつける方向を凝視するが、何も見えない。なだらかな岩山が見えるだけだ。
「…まさか銀ピカ頭か?」
「…だろうね。僕も気配だけで流石に姿は見えないが、心当たりがあるなら間違いない。…あれはとびっきり良くないモノだ。…多分、長い付き合いになるだろうから覚悟した方がいい」

「…上等だ。捕まえたら五分刻みに叩ッ切ってやる」
 
 大淵の体から凄まじい殺気が放たれる。 …勘の良い騎士達が何事かと振り返ってしまうほどに。

「ダメダメ! そういうのがアレの好物なんだから。…ほら、こういう風にしてやらないと」

 腕に思い切り柔らかな感触があり…更に頬に暖かな感触があり…大淵はフリーズした。

「…な、な何すんだ、いきなり!?」
「そうそう!その調子その調子!」

「ファーーック!!!」

 ここまではっきり聞き取れる程に凄まじいシャウトがリノーシュの睨んでいた山から轟いた。

「あははは、ほら、ね?もう一回やっちゃう?」
「や、やらねーよ!!」

「だ、ダイス様…リノーシュ様と…」

 …事情も、リノーシュの正体も知らないままのクロエが昇降階段から顔を出して頬を真っ赤にして震えている…

 だから何でお前は毎回いるんだよッ!?

「ええい、とにかくここは任せたぞッ …この城の兵器と艦砲射撃の威力を逆算してみたが、俺なら直撃してもまず死にはしない。俺は敵が隠し持っている例のクソ兵器を探しつつ、あの天幕にお邪魔して紅茶でもご馳走になってくるから、俺の仲間達にもそう伝達して待機するよう命じておいてくれ!」

「…うん、わかった。…僕との約束を忘れないでくれよ? …そうすれば、君は絶対に大丈夫だ」

 片手を上げて応じると、収納から取り出したバイクに跨って城壁から飛び降りた。

 (600メートル圏内には見当たらない…どのタイミングで出すつもりだろうか…?)

 600メートル圏内にあるのは回収もされず、増え続けていく死屍累々たる死体だけだ。

「…まぁ良い、あれだけの砲撃を掻い潜って持ってくるなんて、手品でもなければ無理だろう…」

 なら、直接本人に訊ねてみるのが一番か。…本物か影武者かは知らんが…


 敵を無視して河口へと向かった。交通の要衝である天然橋の上にこれ見よがしに建てられた、豪華な飾りのついた天幕…

(…レトロゲーのボスだってこんな場所には普通陣取らないが…)

 天幕の周りには流石に親衛隊は百人ほども居り、武器を身構えて立ちはだかった。…全員が若く美しい女の騎士…

(ああ、こりゃ本物だろうな…)
 ほぼ確信しながらバイクを停め、騎兵銃を背負ったまま空間からスタン・ガンを取り出した。

「下がれ、痴れ者!シバ・ハルトン様に無礼を働くつもりか!?」

「俺の親友に無礼を働いた痴れ者にお話を伺いに来ただけだよ。…お仕置きもするがな」
 フォアエンドをスライドし、不敵に笑って見せた。

「戯言を!」
 槍で突進してきた娘の胸に一発。即座に痺れ、その場に倒れた。
 
 生身であれば肋骨が折れ、下手をすると心臓や臓器に刺さって死に至る事もあるが、これはステータス弱体化させた上、鎧に当てて麻痺効果で痺れさせているだけだ。

「お、おのれ!」

 勇猛にも、目の前で味方が難なく倒されても次々と掛かってくる。
 立て続けに七発、七人の少女を動けなくさせるが、弾も切れた。

「勇敢さは良いが、まだまだだな。…俺の教え子たちはもっと賢くて強いぞ…ところでハルトン殿はおねむの時間かな?」
 スタン・ガンに再装填しつつ、会話で気を逸らさせた。

「おうとも。…ただし、大人のおねむの時間だがな」

 天幕のカーテンをはだけ、上半身裸に胴鎧、大剣持ちの男が出てきた。赤茶けた髪にその190近い長身から来るのか、自信に満ちた顔。…リノーシュからは30代と聞いていたが、とてもそうは見えない。…自信と覇気に溢れる持つ者が若々しいエネルギーを維持できるのかも知れない。
 カーテンの隙間からは一瞬、ベッドと女が見えた。…親衛隊と言い、全く豪儀な奴だ…
 
 ステータスは高位騎士で…HP…5000…!? 力…900…耐久…1200…スピード…500…

 …クソバケモンじゃねぇか…!?
 …バイクの音が聞こえて振り返ると、斎城とアリッサが駆けつけてきた。

「あっ、お前ら待機しろって言ったのに!」
「だって一人で勝手に行くんだもん」
「イクンダモーン!」

「…上等な土産の女を二人も連れて来るとは殊勝な事だ。…俺の親衛隊を容易に倒す腕と言い、腕も立つようだ。…お前、俺の新しい国の家臣くらいにはしてやっても良いぞ?」
「…新しい国?」
「あのブレメルーダこそ俺の新しい国と、王妃が待っているのよ」
「…頭は大丈夫か?お前の軍団はもう一万はやられているぞ。高々あと二万の軍勢が居た所で何になる。…そんな事より、あの糞兵器をどうやって手に入れた?」

「ああ、あの串砲の事か?悪趣味ではあるが素晴らしい兵器だ。売り手は約束故教えてやらんがな」
「ふざけやがって…仮にブレメルーダをあれで食人鬼だらけにしたとして、テメーらだって殺し尽くすのに苦労するぞ。…せいぜい、良くて相打ちだろうが」

「殺す…?まさか、グールを殺したのか、この馬鹿め!勿体ない!いいか、グールは俺の命にだけ忠実にできるのだ!」
 そう言って金の腕輪を見せつけた。
「ネクロマンサーの金輪よ。これを持つ者の命だけは永遠に守り続ける。…金も飯もいらない、不老忠実な軍隊の出来上がりという訳よ!」

「…」

 こんな奴の為に…俺は… 

 宿屋で自分を丁寧に扱ってくれた大隊長や騎士達…
 助けられなかった将兵たち…
 大切な家族を失ったセイガ…
 怒りのあまり俺を目の敵にしてしまった哀れな騎士達…

 こんな奴の為に…皆…

「さぁ、貢物の女達を渡せ。土産物の礼として上級騎士くらいにはしてやる。…それとも欲を張って、俺の女共の世話係がいいか?」

「…最低」
「大淵!こんな奴ケチョンケチョンに…」



 すまねぇ、リノーシュ…

  俺、ちょっとダメだわ



 トン、と大淵が天幕の前に立っていた。

「なんだぁ…?その女が欲し…」

 振り向こうとしたハルトンの体が倒れ込む。…両足がそのまま、足首から切り落とされていた。

「な、何ッ…」

「這いずって来いよ」

 大淵が冷たく見下ろしていた。

「食人鬼はそうなっても飛び掛かってきたぜ?」

「こ、この…クソ野郎が!」

「糞はテメーだろうが。ほら来い。待っててやるから」
 
 騎兵刀を冷たく光らせ、大淵は笑った。








「マンダァームッ!! トレビアーンヌッ ッでございます、ダイス様アァァ!!」
 銀色頭は頭からシャンパンを被って狂喜乱舞した。 

 やはりやはりやはり、彼は「やさしいマジメ君」なんかより「ワイルドなDV男」を選んだ!えぇ、えぇ、女も男も、みーんなDV男が大好きなんですよ、心の底では!
 
 いや、DV男なんてチンケな社会ゴミのビョーキ野郎なんかと並べて申し訳ございませんでした、ダイス様!ダイス様は殺戮と拷問の天才…いや、神でしたね!?…何せ陸上生物の癖に海の死神勲章を受けてしまわれる程でしたから!

 ダイス様がこれまた最高なのはアレを、未だにレイスくんだけの戦果だと思っちゃっているチャーミングでおっちょこちょいな所ですよね!途中で飽きちゃったレイスくんに変わられて、15から50までは貴方が海洋モンスターを追いかけ回して殺っちゃってたのに。
 …けどやさしいマジメ君なつもりだから「これは僕がやったんじゃない!」って言い訳するあたり、いかにもナード君な発想なところがギャップ萌えがあってなおヨシ!

 …ふと、城壁の上に目を戻した。 リノーシュが大淵を見て絶句している。
 おやおや、絶望している場合ではございませんよ、ワイザー…いや、マドモアゼル。まだあの、見掛け倒しステータスボスこと道化役のターンは終わった訳では無いのですよ?



「このクソがッ…」
 ハルトンは這いつくばり、腰の雑嚢から…なんと無線機を取り出した。
「おい、やれッ」
 そして無線機を放り投げると、腕に付けていた指輪を岩に叩きつけ、粉々に破壊した。
「これであの国はお終いだ!牝王諸共グールの王国になればいい!」
 
 大淵は黙ってその両手を切り捨てた。
 
…悲鳴を無視して見下ろすと、600メートル圏内の地下からあの箱が掘り出され、死体に偽装していた頑強なモンスターや小型モンスターが、串砲の発射準備を始めていた。

 城から赤の信号弾が放たれ、より強力な砲弾による艦砲射撃・ファランクス・オーガハンマー・そして狙撃が行われるが、生き残った一基の串砲が放たれた。



「フィナーレでございますッ、ダイス様ッ!グールとなった親友達に救済をッ そして闇落ちするのですッ!!」


 

 …だからって、元凶のお前の思い通りにはならねーよ、クソ銀玉野郎  



 …何の悪魔だか知らねーが、そんなのに執着されるくらい俺が大した存在なら、このくらい出来る筈だ

 天に手をかざす。 

 …何も星の歴史を書き換えようってんじゃない。…高々千本の鉄串の因果律を改竄してやるだけだ。

 …何に変えるか…
 …そうだ、アイツがくれたスカーフの裏に…多分、アイツがこっそり縫い付けていた花の刺繍…あれはたしか、パープルハートの隊花でもある…

 オーバースキル…アレンジ。

  この鉄串は千本の…
  
 
 立ち尽くすリノーシュ達の眼前で、不意にそれは花に変わった。 顔に掛かった花をそっと摘まみ上げて見た。薄い菫色の花弁が咲き、その中に黄色い筒花が咲いている。…あまりに見覚えのある花だった。
「紫苑……大輔…君は…」

 
 …あの時、お前はそんな俺が好きだと言ってくれたが…俺はそんなお前がもっと好きだ。…だから忘れなかった。…お前のお陰で、こうして戻って来れたよ、リノーシュ。

 
 …SPは辛うじて30残っていた。

 
 …未だ足元でヒィヒィ泣き叫ぶデカブツの顎に蹴りを入れて黙らせた。

「…本当に最後まで台無しにしてくれるクソ野郎だったぜ」

「…トドメはささなくていいの?」
 斎城が腰に手を当て、悪戯っぽく冷やかした。
「…殺す価値もないよ。良ければ譲るぜ。…まぁ、死んだ方がマシだと思うかも知れんが、自業自得だ」
「我が軍の大勝利デスねぇ!帰りマショウ!」








「ムッキィイイ~!!」

 …性懲りもなく、銀色頭はハンカチを噛むフリをしながら地団駄を踏んだ。

「こんな安っぽいフィナーレ、私は受け容れません。受け容れません、勝つまでは!ダイス様、再見でございますッ!!」

 …そうして掻き消えていった。
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