伝説の英雄は復讐の旅路を行く

こぶたファクトリー

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傭兵

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「そんな無理を言っているつもりは無いんだがね。 …こうして住民たちも不安がっている事だし、ほんの数日滞在してもらえればいいだけだ。勿論、滞在費用と日当は約束するとも。 …それとも伝説の英雄はもう人助けも飽きたのかな…」

「町長…!」
 
 団長が聞き咎めて鋭く遮った。

「気を悪くしたならすまない。悪気は無いんだ。…ただ、困っている人が居たら助け合うのが世の常だと私は信じていたのだがね?」

「…受けないとは言っていないが」
 空の大皿が四列、ダイスの肩の胸元まで積み重なっていた。…更は綺麗に拭き取ったかと思う程、食べかす一つ、肉汁一つ残っていなかった。
 
「良かった!もちろん、英雄・ダイスならそう言ってくれると信じていたよ! ささ、蒸留酒かワインでもどうかね?」
 
 …だからといって引き受けるとも言っていないのだが…そう言わんばかりにダイスは首を傾げながらツラークを睨んだ。…しかし既成事実化して満足したのか、ツラークは見向きもせず、平然としている。
 …図々しく自分の利益を押し付けてくる男だが、その強引な強かさには恐れ入る物もあった。…きっとこの男の心臓にはカビでも生えているのだろう。

「滞在期間はとりあえず一週間…」
「…今日を除いて三日間だ。…こちらもやらねばならん事がある」
 ダイスは腕を組んだまま断固として言った。

「そんな薄情な…」町長が呆れたように手を上げた。

「…それなら代わりに、敵が現れない内はうちの団員達に指南をしてもらえないだろうか?…あの怪物を倒す効率的な戦い方など」
 シュミットが割って入った。
 
 ダイスはシュミットの目を見ながら頷いた。
「…どこまで応用できるか分からんが、協力しよう」
「感謝する」

「…まぁ、仕方ない。…英雄殿はこの町に滞在したことがありましたな?何か分からない事があれば住民を捕まえていつでも訊ねて下さい」

「…」

 食事を終え、ダイスは食堂を出ていった。トレーシーが後に続く。

「ダイスはこの町にもきてたんだね」
「…そうらしいな。 …何も思い出せんが」

 そう言いながら宿泊予定の宿を見た。
「立派な宿だね。なんか二階部分が一部色違いだけど」
「…そうだな」

 宿に入ると、暖炉のある石造りのロビーだった。…春とはいえ、高原地帯であるこの一帯はまだ薄ら寒い。窓から見上げる山奥には、依然として真っ白に染まったままの雄大な山脈が広がっていた。…暖炉には薪がくべられ、穏やかな火が揺らめいていた。

「お話は伺っています。どうぞ、お好きな部屋へ。 …五年前にはありませんでしたが、新しくお風呂も作りましたので、宜しければどうぞ」

 中年の女主人が愛想よく笑った。
「部屋、見に行こうよ。いざという時に見晴らしが良い方が良いだろうから、二階にしよ?」
「ああ」
「あの…」
 女主人がダイスに近寄った。
「五年前のあの時は助けていただき、ありがとうございました。…あの時は死を覚悟いたしましたから…その上お見舞いを頂いたり宿の修理までして頂いて…他の皆様もお元気ですか?」

「……すまないが、わからないんだ…」

「…そうでしたか。すみません、事情も知らずに」
「…いいんだ」
 
 トレーシーに腕を引かれ、二階手前…比較的村の全体が見渡せる部屋をトレーシーが、反対側の村の外側を広く見渡せる部屋にダイスが荷物を置いた。
 
「私、先にお風呂貰ってくるね」
「わかった」
「一緒に入っちゃう?」
 冗談めかしてからかうが…予想通り顔色一つ変えない。
「…? …構わんが」
「…冗談」



 コレではただの旅行だ…

 トレーシーは広場でシュミット立ち合いの元、自警団に訓練を指導するダイスを見守っていた。

 三日目…敵は現れず。特段観光地でもないスノーダリアの町中で春の雪解けとこの訓練風景を見守るだけの牧歌的な二日間を送っていた。後は今日一日滞在すれば、明後日の朝にはここを発つ。

「…繰り返すが、あの仮面を破壊できれば最も簡単だ。 …だが連中はあのように鈍重に見えて、並大抵の人間の反応速度では大抵、急所への攻撃は避けられてしまう。 …お前達も経験したはずだ」

 団員の何人かがこくこくと頷いた。
「…その場合、まずは防御してから攻めろ。奴らはガード…無抵抗に見える敵から襲う習性があるらしい。…死角からの攻撃に注意しつつ、十分な防御力のある盾や武具で触手による突きを防ぎ、それと同時に反撃に移れ。…至近距離からの反撃には連中の思考速度が追い付かんのか、対応が遅れる傾向にある」

 …ダイスは戦闘技術講座に関してはそこそこ饒舌で、立派に教官を務めていた。…いくら伝説の英雄とは言え、ポッと出のよそ者の不愛想な物言いを、自警団員達は真剣に聞き入っている。

 カローン カローンと、正午を告げる鐘が鳴り響いた。 団員達がダイスに挨拶してそれぞれの詰所へと戻っていく。

 …腹を空かせながらも手持無沙汰にしているダイスの下に駆け寄った。

「はい、お疲れ様。ここで食べる?…それとも宿で食べる?」

「ここでいい」

 …ダイナーでの食事を断り、町の食料品店で買い求めた食材を使った手製弁当を用意していた。
 …なぜダイナーでの食事を断ったかと言うと…外食に頼る事での栄養偏向を忌避したためだ。
 今はまだ若いから良いが、あと十年もすればダイスだってさすがに…

 そう、決して…決してダイナーのウェイトレスやダイナーに来た女性客、そしてダイナーの女店主がダイスにこれでもかと「サービス」をするからではない。 …これは都会の方で流行り出した、店員が異性に自腹で料理や飲み物をサービスして好意を伝える新手のナンパだ。 

 …同じテーブルでそんなものを見せられてはこちらとて食欲が失せてしまう。
 
 …しかもダイスは予想通り、「…何かの間違いでは無いのか?」などと相手を見上げた後、相手に間違いでは無いと言われて素直にそれを平らげてしまうのだ。…勿論、出されたサービスを平らげようが、その好意に応じるか否かは選ぶ方の自由だ。モテる男・女の代表格などはそれを平らげた後、論評めいた言葉まで残して行くのだから信じられない。
 …ダイスをそんなイカレポンチな連中と同族にさせる訳には行かない。 …これは必要な保護なのだ。

「…また弁当か?」
「…何、不満?」
 …ダイナーで私以外の色んな子にちやほやされたいか?

「…料理を考えるのも作るのも大変だろう。…俺にはどちらもできないから…」

 …これがアンタが自警団に教えてるカウンターってやつか? …ズルいぞ。

「…いいの、あたしだって今はやる事ないし。…黙って食べなさい」
「…」
 …本当に黙々と食う奴があるか。

「…何か言って」
 自分で黙れと言っておきながら、自棄になって更に無茶を言ってしまった。
「…美味い」

 …あたしってこんな涙もろかったっけ?

 …ダイスさえ良ければ…このままこんな時間が続くのも悪くないかな、などと思い始めていた。

 …ダイスが急に表情を険しくさせ、火の見櫓から警鐘が鳴らされるまでは。
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