13 / 14
傭兵
しおりを挟む「そんな無理を言っているつもりは無いんだがね。 …こうして住民たちも不安がっている事だし、ほんの数日滞在してもらえればいいだけだ。勿論、滞在費用と日当は約束するとも。 …それとも伝説の英雄はもう人助けも飽きたのかな…」
「町長…!」
団長が聞き咎めて鋭く遮った。
「気を悪くしたならすまない。悪気は無いんだ。…ただ、困っている人が居たら助け合うのが世の常だと私は信じていたのだがね?」
「…受けないとは言っていないが」
空の大皿が四列、ダイスの肩の胸元まで積み重なっていた。…更は綺麗に拭き取ったかと思う程、食べかす一つ、肉汁一つ残っていなかった。
「良かった!もちろん、英雄・ダイスならそう言ってくれると信じていたよ! ささ、蒸留酒かワインでもどうかね?」
…だからといって引き受けるとも言っていないのだが…そう言わんばかりにダイスは首を傾げながらツラークを睨んだ。…しかし既成事実化して満足したのか、ツラークは見向きもせず、平然としている。
…図々しく自分の利益を押し付けてくる男だが、その強引な強かさには恐れ入る物もあった。…きっとこの男の心臓にはカビでも生えているのだろう。
「滞在期間はとりあえず一週間…」
「…今日を除いて三日間だ。…こちらもやらねばならん事がある」
ダイスは腕を組んだまま断固として言った。
「そんな薄情な…」町長が呆れたように手を上げた。
「…それなら代わりに、敵が現れない内はうちの団員達に指南をしてもらえないだろうか?…あの怪物を倒す効率的な戦い方など」
シュミットが割って入った。
ダイスはシュミットの目を見ながら頷いた。
「…どこまで応用できるか分からんが、協力しよう」
「感謝する」
「…まぁ、仕方ない。…英雄殿はこの町に滞在したことがありましたな?何か分からない事があれば住民を捕まえていつでも訊ねて下さい」
「…」
食事を終え、ダイスは食堂を出ていった。トレーシーが後に続く。
「ダイスはこの町にもきてたんだね」
「…そうらしいな。 …何も思い出せんが」
そう言いながら宿泊予定の宿を見た。
「立派な宿だね。なんか二階部分が一部色違いだけど」
「…そうだな」
宿に入ると、暖炉のある石造りのロビーだった。…春とはいえ、高原地帯であるこの一帯はまだ薄ら寒い。窓から見上げる山奥には、依然として真っ白に染まったままの雄大な山脈が広がっていた。…暖炉には薪がくべられ、穏やかな火が揺らめいていた。
「お話は伺っています。どうぞ、お好きな部屋へ。 …五年前にはありませんでしたが、新しくお風呂も作りましたので、宜しければどうぞ」
中年の女主人が愛想よく笑った。
「部屋、見に行こうよ。いざという時に見晴らしが良い方が良いだろうから、二階にしよ?」
「ああ」
「あの…」
女主人がダイスに近寄った。
「五年前のあの時は助けていただき、ありがとうございました。…あの時は死を覚悟いたしましたから…その上お見舞いを頂いたり宿の修理までして頂いて…他の皆様もお元気ですか?」
「……すまないが、わからないんだ…」
「…そうでしたか。すみません、事情も知らずに」
「…いいんだ」
トレーシーに腕を引かれ、二階手前…比較的村の全体が見渡せる部屋をトレーシーが、反対側の村の外側を広く見渡せる部屋にダイスが荷物を置いた。
「私、先にお風呂貰ってくるね」
「わかった」
「一緒に入っちゃう?」
冗談めかしてからかうが…予想通り顔色一つ変えない。
「…? …構わんが」
「…冗談」
コレではただの旅行だ…
トレーシーは広場でシュミット立ち合いの元、自警団に訓練を指導するダイスを見守っていた。
三日目…敵は現れず。特段観光地でもないスノーダリアの町中で春の雪解けとこの訓練風景を見守るだけの牧歌的な二日間を送っていた。後は今日一日滞在すれば、明後日の朝にはここを発つ。
「…繰り返すが、あの仮面を破壊できれば最も簡単だ。 …だが連中はあのように鈍重に見えて、並大抵の人間の反応速度では大抵、急所への攻撃は避けられてしまう。 …お前達も経験したはずだ」
団員の何人かがこくこくと頷いた。
「…その場合、まずは防御してから攻めろ。奴らはガード…無抵抗に見える敵から襲う習性があるらしい。…死角からの攻撃に注意しつつ、十分な防御力のある盾や武具で触手による突きを防ぎ、それと同時に反撃に移れ。…至近距離からの反撃には連中の思考速度が追い付かんのか、対応が遅れる傾向にある」
…ダイスは戦闘技術講座に関してはそこそこ饒舌で、立派に教官を務めていた。…いくら伝説の英雄とは言え、ポッと出のよそ者の不愛想な物言いを、自警団員達は真剣に聞き入っている。
カローン カローンと、正午を告げる鐘が鳴り響いた。 団員達がダイスに挨拶してそれぞれの詰所へと戻っていく。
…腹を空かせながらも手持無沙汰にしているダイスの下に駆け寄った。
「はい、お疲れ様。ここで食べる?…それとも宿で食べる?」
「ここでいい」
…ダイナーでの食事を断り、町の食料品店で買い求めた食材を使った手製弁当を用意していた。
…なぜダイナーでの食事を断ったかと言うと…外食に頼る事での栄養偏向を忌避したためだ。
今はまだ若いから良いが、あと十年もすればダイスだってさすがに…
そう、決して…決してダイナーのウェイトレスやダイナーに来た女性客、そしてダイナーの女店主がダイスにこれでもかと「サービス」をするからではない。 …これは都会の方で流行り出した、店員が異性に自腹で料理や飲み物をサービスして好意を伝える新手のナンパだ。
…同じテーブルでそんなものを見せられてはこちらとて食欲が失せてしまう。
…しかもダイスは予想通り、「…何かの間違いでは無いのか?」などと相手を見上げた後、相手に間違いでは無いと言われて素直にそれを平らげてしまうのだ。…勿論、出されたサービスを平らげようが、その好意に応じるか否かは選ぶ方の自由だ。モテる男・女の代表格などはそれを平らげた後、論評めいた言葉まで残して行くのだから信じられない。
…ダイスをそんなイカレポンチな連中と同族にさせる訳には行かない。 …これは必要な保護なのだ。
「…また弁当か?」
「…何、不満?」
…ダイナーで私以外の色んな子にちやほやされたいか?
「…料理を考えるのも作るのも大変だろう。…俺にはどちらもできないから…」
…これがアンタが自警団に教えてるカウンターってやつか? …ズルいぞ。
「…いいの、あたしだって今はやる事ないし。…黙って食べなさい」
「…」
…本当に黙々と食う奴があるか。
「…何か言って」
自分で黙れと言っておきながら、自棄になって更に無茶を言ってしまった。
「…美味い」
…あたしってこんな涙もろかったっけ?
…ダイスさえ良ければ…このままこんな時間が続くのも悪くないかな、などと思い始めていた。
…ダイスが急に表情を険しくさせ、火の見櫓から警鐘が鳴らされるまでは。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる