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2匹の侍
ジークフリート
しおりを挟む場所:小田家居城・謁見の間
重苦しい軍議の空気がまだ残る謁見の間に、南蛮渡来の外套を羽織った男が通された。
胸に十字架を下げた、異国の宣教師である。
彼は恭しく頭を下げると、真新しい鉄砲や南蛮の細工物を床に並べた。
小田家の家臣が、無言でずっしりとした砂金の詰まった革袋をいくつもその前に積む。
宣教師の青い瞳が、神に祈りを捧げる時以上に卑しく細められた。
たっぷりと黄金(きん)を懐に収め、いつもの取引を終えた宣教師は、城内に入ってからの違和感を感じ取っていた点について口を開く。
「小田様。近々、大きな戦でもなさるおつもりですか?」
「……お主には関係のないことだ」
小田が不機嫌そうに鼻を鳴らすと、宣教師はしたたかな笑みを浮かべた。
「もし、さらに黄金をご用意いただけるのであれば、その厄介な戦を確実に終わらせる『良き品』をご提供できますが」
宣教師が背後の襖に向かって合図を送ると、静かに一人の男が足を踏み入れた。
黄金の髪に、氷のように冷たく透き通る青い瞳。
異国の出であることは一目でわかるが、その体躯からは一切の隙が感じられない。
「お主、名は何という」
「…ジークフリート」
めんどくさそうに男は答える。
それを目にした小田の眼の奥は怒りが見えて取れた。
焦った宣教師は急いで付け加える。
「日ノ本には『一騎当千』という言葉があるそうですが……」
「こちらの品は、銃兵一万名分の価値がございます」
その場にいる全員が立ち上がる。
いまにも斬り捨てようという雰囲気だ。
しかし、上座の小田が手で家臣たちを制す。
鋭い鷹のような眼光で、無表情に佇むジークフリートの爪先から頭頂までをねめ回すように観察している。
「なるほどな…その度胸、偽りではなさそうだな」
「……銃兵一万の価値か…」
小田は顎で合図をした。
「まずは、その価値をみせよ」
すぐさま、小田家で最も腕の立つ先兵が呼ばれた。
互いに分厚い樫の木刀が渡され、中庭を案内される。
「始めい」
家老の号令とともに、先兵が裂帛の気合を発して踏み込んだ。
一瞬で間合いを詰め、ジークフリートの頭上から必殺の唐竹割りが振り下ろされる。
対するジークフリートは、表情一つ変えずに木刀をすり上げた。
ガァン!
木刀同士とは思えない重い衝突音が謁見の間に響く。
ガァン!
ガッ!!
攻める先兵に守るジークフリート。
ジークフリートは攻撃をする気配すらない。
「なんだ、口だけではないのか?」
家臣たちは口をそろえて言い放つ。
「よかろう。取引成立だ」
「殿っ!」
小田の鶴の一声が鳴り響いた。
「さすがでございます」
宣教師はさも当然と言った態度だ。
小田には見えていた。
ジークフリートが先兵の攻撃開始前、正確には着物の皺の発生と同時に防御に入っていたのを。
あるいは目線の動きから先回りで防御に入っていたことを。
(なかなか恐ろしい奴。この男なら…少なくとも「源蔵」とも渡り合える)
「出陣の準備をせよ!」
小田の号令により、すべてが動き出す。
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