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双星の落日
オブシディア
しおりを挟むそこは、光が死ぬ場所だった。
漆⿊の星、オブシディア。
硫⻩の⾵が吹き荒れ、地表には痩せこけた⾶⻯たちが、互いの⾁を⾷らい合って⽣き延びていた。
頭上に浮かぶ、あの憎らしいほど美しく輝く「⽩銀の星」を奪うことだ。
「王よ」
闇の中から、側近の影⻯(シャドウ・ドラゴン)が現れ、平伏した。
「次元の裂け⽬が広がっております。ティアマットの結界に、わずかな綻(ほころ)びが」
「……あのアマも、焦っているようだな」ブラックドラゴンは⼝元を歪めた。
嘲笑ではない。獲物を前にした獣の笑みだ。
「娘への継承を急ぐあまり、結界の維持がおろそかになっている。……そこが、我らの活路だ」
彼はゆっくりと⽴ち上がった。
その巨体が動くだけで、周囲の空間が歪み、悲鳴を上げる。
彼らにとって、これは侵略ではない。「移住」であり、「⽣存競争」だ。
強い者が⽣き、弱い者が喰われる。
それが宇宙の理(ことわり)。
ならば、喰われるべきは、あの温室で育ったひ弱な銀⻯どもだ。
「全軍、転移の準備をせよ」
王の号令が、死の星全⼟に轟いた。
「我らは光を奪う。……あの星を、我らの新たな餌場とするのだ︕」
「ハァ……ハァ……ッ︕」
銀⻯ティアマットの巨体が、ぐらりと揺らいだ。彼⼥の⽩銀の鱗は、すでに半分以上が剥がれ落ち、そこから流れる⻘い⾎が⼤地を濡らしていた。
周囲には、彼⼥が屠(ほふ)った数百万の⿊⻯の死骸が⼭となっていたが、空を⾒上げれば、まだその⼗倍の影が太陽を覆い尽くしていた。
(数が……違いすぎます……)
ティアマットは絶望的な演算を弾き出した。
彼⼥のマナは残りわずか。対して、敵の王――ブラックドラゴンは、⾼みの⾒物を決め込み、まだ⼀歩も動いていない。
「お⺟様︕もうやめて︕⼀緒に逃げましょう︕」
結界の中で、少⼥の姿のおしんが泣き叫んでいた。
だが、ティアマットは⾸を横に振った。
「逃げる場所などありません。この次元(セクター)は、すでに奴らの重⼒圏内です」
ティアマットは、震える⽖でおしんの⼩さな体を包み込んだ。
その瞳から、⼀筋の涙がこぼれ落ち、おしんの頬を濡らした。
「おしん、聞きなさい。……これからお前を、別の次元へ⾶ばします」
「い、嫌︕⼀⼈じゃ嫌︕」
「『地球』と呼ばれる、マナの枯渇した辺境の星です。そこならば、奴らもおいそれとは⼿を出せません」
均衡が崩れたのは、⼀瞬だった。
空が割れる⾳と共に、漆⿊の星から無数の「⿊い⾬」が降り注いだ。⾬ではない。それは億を超える翼を持った魔獣の群れだった。
「――来たか」
⺟ティアマットは、クリスタルパレスの最上階で翼を広げた。
全⻑数キロメートルに及ぶその銀⾊の巨躯(きょく)が、都市を覆う盾となる。
彼⼥が咆哮と共に放った**「光⼦ブレス(PhotonStream)」**は、空を埋め尽くす⿊⻯の群れを数万匹単位で蒸発させた。
だが、⿊い⾬は⽌まない。
焼かれても、焼かれても、次から次へと新しい影が湧き出してくる。
(数が……違いすぎる︕)
おしんは結界の中で震えていた。
ブラックドラゴンは動かない。
遥か上空の⽟座から、⾃分の配下たちがゴミのように焼かれていくのを冷ややかに⾒下ろしているだけだ。
彼にとって、部下は兵⼠ではなく、⺟の魔⼒を削るための「燃料」でしかなかった。
「お⺟様︕後ろ︕」
おしんの叫び声。
⺟が振り返った隙に、死⾓から数千の⾶⻯が彼⼥の背中に⾷らいついた。
美しい銀⾊の鱗が剥がれ、⻘い鮮⾎が舞う。
「……ぐぅッ︕」
⺟は悲鳴を上げず、ただ光を増幅させて周囲の敵を吹き⾶ばした。だが、その光は先ほどよりも確実に鈍っていた。
「チェックメイトだ」
上空から、脳髄を揺さぶる低い声が響いた。
ついに、王が動いた。
ブラックドラゴンが、隕⽯のような速度で降下してくる。
空間そのものを⾷い破りながら迫るその姿は、まさに絶望の具現化だった。
「おしん、⾏きなさい︕︕」
⺟は悟った。
この⼀撃は防げない。
ならば、せめて種⼦(たね)だけでも――。
⺟は残る全魔⼒を、攻撃ではなく「転送」に回した。おしんの⾜元に、幾何学模様の光陣が展開される。
「嫌︕お⺟様も⼀緒じゃなきゃ嫌︕」
「⽣きるのです。……⽣きて、いつか光を取り戻しなさい」
ドズンッ︕︕
ブラックドラゴンの⽛が、⺟の⾸に深々と突き刺さったのと同時だった。
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