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剣鬼と案山子
白い肌
しおりを挟むその日、源蔵は苛立っていた。
滝の飛沫(しぶき)が冷たい。
愛刀「無銘」を幾度振るっても、滝は一瞬逆流するだけで、すぐに元の濁流に戻ってしまう。
やはり、水は斬れない。
村人たちの「あいつは頭がおかしい」という陰口が、幻聴のように耳に残っている。
「……ふん。凡人には分からんさ」
源蔵は独りごちて、刀についた水滴を血振(ちぶ)りの要領で払った。
女も、酒も、出世もいらない。俺に必要なのは、この切っ先が「理(ことわり)」に届く瞬間だけだ。
そう自分に言い聞かせ、彼は再び刀を構えた。
その時だった。
ズズズンッ……!!
滝の音が消えた。
いや、もっと巨大な「何か」が空気を叩き潰した音にかき消されたのだ。
源蔵が反射的に空を見上げると、そこにはあり得ない光景があった。
雲ひとつない青空に、黒い亀裂が走っている。
そしてその裂け目から、一筋の**「銀色の流星」**が吐き出された。
「……なっ!?」
隕石か。天狗の仕業か。
源蔵の動体視力が、落下してくる物体の輪郭を捉える。
それは岩ではない。
人だ。
長い銀髪をたなびかせ、白い肌を露わにした人間が、真っ逆さまに滝つぼへ落ちてくる。
ドッパァァァァァァン!!
巨大な水柱が上がり、源蔵はずぶ濡れになった。
滝つぼの水面が激しく波打つ。
だが、落ちてきた「それ」は浮かんでこない。
「……おいおい、死体遺棄かよ」
源蔵は舌打ちした。関わりたくない。面倒ごとは御免だ。
だが、武士の情けというやつもある。見捨てて夢見が悪くなるのも癪(しゃく)だ。
彼は渋々、着流しを脱ぎ捨て、冷たい滝つぼへ飛び込んだ。
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