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決意
新婚旅行
しおりを挟む転移の光が収まると、そこは灰色の世界だった。
空には、不吉な赤と紫が混じった二つの月が浮かんでいる。
かつて「シルヴァードラゴン」たちが平和に暮らしていた浮遊島や神殿は、無残に崩れ落ち、黒い煙を上げていた。
美しいと聞いていた花畑は焼け焦げ、マナの枯渇した大地はひび割れている。
「……これが、私の故郷です」
人間の姿に戻ったおしんは、力なく立ち尽くしていた。
分かっていたこととはいえ、現実は残酷だった。
村の仲間たちの気配は一つもない。
風に乗って聞こえてくるのは、遠くで暴れる魔獣(ブラックドラゴンの手下)の咆哮だけだ。
「ごめんなさい、源蔵様。……こんな、何もない場所に連れてきてしまって」
おしんは唇を噛んだ。
本当なら、満開のクリスタル・フラワーを見せたかった。
空を泳ぐ光の魚たちを見せたかった。
けれど、今はただの墓場だ。
「……何もない、か」
源蔵は、足元の瓦礫を拾い上げ、ふっと鼻で笑った。
その表情に、失望の色は微塵もなかった。
「上等じゃないか。これなら、遠慮なく暴れられる」
彼は荒野を見渡し、まるで新しい家の下見でもするかのように堂々と言った。
「それに、俺は観光に来たんじゃない。お前の『敵』を殺しに来たんだ。……敵の城が立派すぎると、壊すのに気が引けるからな。これくらい荒れてる方が好都合だ」
強がりではない。
源蔵にとって、ここは「悲しむべき故郷」ではなく、これから愛する女のために征服すべき「戦場」なのだ。
その揺るぎない覚悟が、おしんの胸を熱くした。
「源蔵様……」
おしんは、源蔵の背中にそっと寄り添った。
世界は死んでいる。
希望なんてどこにもない。
けれど、この温かい背中がある。
それだけで、彼女の心は満たされていた。
(ああ、私は幸せ者だ……)
かつての仲間がどうなったのか、母がどこで散ったのか。
その悲しみは消えない。
けれど、この人と一緒なら、地獄の底だって「愛の巣」になる。
「さあ、行くぞおしん。案内しろ」
源蔵が歩き出す。
「はい、あなた」
廃墟の風に吹かれながら、二人は手を繋いで歩き出した。
それは、世界で一番過酷で、世界で一番愛に溢れた新婚旅行の始まりだった。
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