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告白
黄色い声援
しおりを挟む数日後の午後。じりじりとした日差しが照りつけるグラウンド。
体育の授業は男女別で行われていた。グラウンドの端からアップテンポなビートが響いてくる。女子はヒップホップダンスのカリキュラムだ。
一方、男子はグラウンドの中央でサッカーのミニゲームを行っていた。
「おいシンジ! 前出ろ、前!」
味方のディフェンダーが怒鳴るが、シンジはゴールポストに背中を預け、半分まぶたを閉じていた。キーパーグローブすらつけていない。
「ちょっとシンジ! ゴールキーパーでしょ、真面目にやりなさいよ!」
グラウンドの脇、休憩していた女子の集団の中から、ポニーテールを揺らした綾の声が飛んだ。
呆れたような声だが、その視線はただ真っ直ぐにシンジ一人に向けられている。
シンジは欠伸を噛み殺し、頭を掻いた。
だが、綾のその声に、明確に反応した男がもう一人いた。
相手チームのセンターフォワード、背番号『10』の天童だ。
天童は味方からのパス要求も無視し、単独でドリブルを仕掛け、ディフェンダーを次々と抜き去っていく。その速度と踏み込みは、普段の彼からは想像もつかないほど暴力的だった。
天童がペナルティエリアに侵入する。
シンジは半開きの目のまま、その姿を見据えていた。
脳内で、右手が柄を握る。
迫るボールの軌道。その中心にある「芯」を、見えない刃で両断するシミュレーション。
天童が右足を大きく振りかぶる。
シンジと天童の視線が交差した。
ドンッ。
鈍い衝撃音と共に、ボールがネットを揺らした。
「ゴール!!」「すげえ、天童!」
歓声がグラウンドに響き渡る。綾が「もう、シンジのバカ……」とため息をつくのが見えた。
シンジは、一歩も動いていない。
脳内ではボールの芯を両断する軌道が引かれていたが、現実の肉体はただゴールポストに寄りかかったままだ。
足元に転がってきたボールを見下ろし、ゆっくりと顔を上げる。
シュートの姿勢を残したままの天童と、視線が交差した。
天童は、爽やかに笑っていた。
だが、ボールをインパクトしたその刹那。
天童の瞳孔が、光を一切反射しない「黒」に塗り潰されていたのを、シンジは見ていた。
シンジは何も言わない。
表情も変えない。
ただ、足元のボールを拾い上げ、無造作に天童に向かって投げ返した。
パァン、と天童がボールを受け取る。
シンジはそのまま背を向け、再びゴールポストに寄りかかって、半分まぶたを閉じた。
「まじめにやれ!シンジ!!」
綾の声は学校中に響き渡っていた。
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