龍血の系譜

盤上の観察者

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新世界

静寂

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 ――それは少し前のこと。
 おしんを縛っていた400年の長きにわたる封印は、完全に解けた。

「だれ……?」

 果てしない闇の中で、不意に何かの気配を感じ取ったおしんは、声のする方向へと問いかけた。
 深く、底知れない闇の中から、恭しい声が返ってくる。

「……商人でございます。シルヴァードラゴン女王に、良いものをお持ちしました」

 ***
「立ちなさい! シンジ」

 凛とした、しかし慈愛に満ちた母の声が戦場に響き渡った。
「お父様との共闘、覚えているでしょう?」

 シルヴァードラゴンは上空からその強大な魔力を解放し、ブラックドラゴン王を中心とした一帯に極めて強力な重力磁場を作り出す。
 王の巨体が大地に縫い付けられ、その動きが鈍る。

 シンジの脳裏に、かつての記憶がフラッシュバックした。
 あの日――父である源蔵と、母であるシルヴァードラゴンが、並び立ち、息を合わせてブラックドラゴンに立ち向かっていたあの光景。

「次は、私に合わせなさい!!」
 おしんの鋭い檄が飛ぶ。

 身動きを制限されたブラックドラゴン王は、空のシルヴァードラゴンを睨み上げ、地響きのような声で嘲笑した。
「何を馬鹿な……。貴様も、あの黒き戦士の後を追うつもりか!」
「いいえ」
 おしんは一切の怯みなく、断言した。
「あの子(シンジ)は、あなたを討つ!」

 その言葉が引き金だった。
 虫の息だったはずのシンジの瞳に、強烈な光が宿る。
 シンジは限界を超えた精神力で『心眼』を開き、ブラックドラゴンの巨体から、今この瞬間に攻撃すべき「唯一の地点」を特定する。
 それは、分厚い鱗の隙間――暗雲の切れ間から差し込む月光が、ただ一筋だけ届いている絶対的な急所。

 その一瞬を、母は見逃さなかった。
 重力磁場を巧みに操作し、シンジの身体を押し出すための推進力へと変換する。

 それは、一朝一夕の訓練で得られるようなものではない。
 かつて源蔵とおしんの二人でさえ最後まで成し得なかった、完全なる奇跡とも呼べるコンビネーションだった。

「チィッ……!」
 脅威を悟ったブラックドラゴン王が、即座に魔法無効化のスペルを発動させる。

 ――間に合わない。

 魔法が展開されるよりほんの僅かに早く、極限の速度で射出され、緑のオーラを纏った弾丸と化したシンジが、月光の射す急所を真一文字に斬り裂き、突き抜けていた。

 崩れ落ち、その巨体が光の粒子となって消えゆく瞬間。
 ブラックドラゴン王は、わずかに口角を上げたように見えた。
 最期に何かを伝えようとするかのようなその穏やかな微笑みを、シンジだけが確かに見届けていた。

 やがて、戦場に静寂が訪れる。
 激闘の気配を察知した綾たちが、息を切らして戻ってきた。
 彼女たちの目に映ったのは、膝をつくシンジと、その傍らに佇む巨大な銀のドラゴンだった。

 光に包まれ、シルヴァードラゴンはその身を縮めると、人形態――おしんの姿へと戻る。
 おしんは、駆け寄ってきた綾たちを静かな微笑みで出迎えた。

「……綾さんね」
 母は優しく目を細め、深く頭を下げた。
「シンジを、よろしくお願いいたします」
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