【ひっそり】たたずむ効果屋さん

龍尾

文字の大きさ
11 / 51

シロ(3-7)

しおりを挟む
「『加速』!」

「おや?」

 加速途中の方向転換に加えて重ねがけで発動した加速により、シロの身体はクロの手前からグリエロの前まで一瞬の間に移動した。

 シロの標的はクロだろうと眺めていたグリエロはその急激な移動に対応できない。

「ふっ!」

 構えた右手の短剣をグリエロの首に突き立てようと、魔力を纏わせ振り下ろす。

「おっ、と。危ないですね」

 反応が遅れながらもシロの攻撃に気がついたグリエロが軽く手を振るった。それだけで何かに弾かれたように右の短剣が押し返される。短剣ごと弾かれたシロは魔力を通した左の短剣でグリエロの右手を切り払いながら後ろに吹き飛ばされた。

「高速の移動で不意を突いて僕を殺そうとするとは。剣気に気がつかなければ危ないところでした。ですが、残念。呪具の前には貴女の速さも無力でしたね」

「無力なんかじゃない」

 くつくつと笑うグリエロを睨みながら、シロは少しずつ後退る。

「無力ですよ。今のは僕を殺す最初で最後の機会だった。それなのに傷つけたのは僕の右手だけ」

 冷たい視線でグリエロはシロを見つめ返して小さく鼻で笑うと、傷つけられた右手から滴る血を舐め取った。そこでグリエロは初めて気がつく。右手の人差し指に着けた指輪が壊れていたのだ。

「なっ……。これが目的だったわけですか」

「それでクロを操ってた。違う?」

 グリエロに飛びかかったシロが狙っていたのは初めから指輪だった。クロに異変が起きていた時に光った指輪をシロは確認していたのだ。

「彼女を導いていたのは確かにこの指輪です。けれど、この指輪を壊すくらいならやはり貴方は僕を殺すべきだった。呪具に負けたクズを助けたところで意味がない」

「殺せたなら、殺してる」

 クロを馬鹿にされ、シロが苛立ち混じりに吐き捨てる。実際、囮の一撃とはいえシロは殺す気で魔力を纏った短剣を首に叩きこんだのだ。それほどでないと、呪具に対するグリエロの意識を逸らせなかった。その上で、【ひっそり】と音もなく振り払った短剣でようやく指輪を一つ破壊することができたのだ。

 呪具を使いこなすグリエロは、手が読めない点も含めてシロにとって戦い難い敵だった。

「いえ、完全に油断してましたから殺せましたよ。つまり貴方は好機を無駄にしたわけです。クロミャウラさんも呪具一つ扱えないことが判明しましたから、もういいでしょう。貴方達は導くに値しない。ウォーリさん、二人とも始末してください」

 グリエロがウォーリに左手を向けると、その中指にはまった指輪がぼんやりと光る。その光を受けて、ウォーリは顔を歪めた。

「くそっ、悪いな嬢ちゃん達。これも約束なんでな」

 出入り口に陣取って動かなかったウォーリが剣を構えて戦意を滾らせる。それだけでズンッと押し潰すような圧迫感がシロに襲いかかった。

 勝てない。そう感じさせる威圧感に、けれどシロは挫けない。この場にいるのはシロ一人だけではなかったから。

「『クロ、合わせられるよね?』」

 蹲ったままのクロに、シロはウォーリ達には理解できないように猫人族の言葉で声をかける。一人では無理でも二人なら。よく知るクロとならばウォーリも超えられるとシロは信じていた。

「『もう少し、時間くれてもいいじゃない』」

 クロが立ち上がり、杖を構える。自らの想いをグリエロに弄ばれたクロは怒りに毛を逆立たせていた。

「『呪具は使わないで。魔法でウォーリーをグリエロの側に誘導して』」

 それだけを告げ、シロは地を蹴るとウォーリの視界から外れるように横に跳ぶ。ウォーリの視線はシロを追いかけようとはしなかった。

「見えなかろうと関係ねぇぜ。俺の命に関わる攻撃なら気がつくからなぁ」

 認識外から飛びかかってきたシロの一撃をウォーリは容易く剣で弾く。反撃で振り払われた腕に、シロの身体が吹き飛ばされた。

「『からころ鳴れや礫の楽団』」

 その隙にクロが魔法の一節を唱える。高まる魔力にウォーリは視線を向けて不敵に笑うと、クロに向けて駆けた。

「魔法使いからヤるのは定石だよなぁ!」

 一歩一歩が地を揺るがすウォーリの力強い走りにクロは少し後退る。しかしクロはピクリと耳を震わせると、真っ向から立ち向かうようにウォーリを見つめ詠唱を続けた。

「『巌も貫くーー』」

「おせぇ!」

 クロの詠唱が終わる直前。踏み込み終えたウォーリの剣がクロに迫った。

「させない!」

 ガンッと鈍いを音を響かせ、ウォーリの剣が弾かれる。跳びこんだシロが剣を横から蹴ったのだ。

「『ーー雨となれ』!」

 弾かれた剣につられて体勢を崩すウォーリに、小石の弾丸が降り注ぐ。咄嗟に崩れた姿勢のままに重心を落としウォーリは地面を転がった。破砕音を響かせ横を通り過ぎる小石を見つめ、ウォーリは獰猛に笑う。

「やるじゃねぇか! お返しだ!」

 立ち上がると同時に吠えたウォーリは魔力を纏わせた剣を掬い上げるように一閃。石畳の床が剣により砕け、礫となってクロに降りかかる。

「『堅体』」

 慌てることなく自己強化魔法によりクロは自分の周囲を魔力の壁で覆って堅くすると、守りの姿勢をとった。難なく礫を受けられると確信したその刹那、何かに弾かれたようにクロの身体が吹き飛び宙に浮く。憎しみをこめてクロが視線を一瞬移した先、グリエロが嫌らしい笑みで手を振りかざしていた。

 その隙を見逃すウォーリではない。構える剣に荒れ狂う魔力を纏わせて、ウォーリは横薙ぎの一閃を放った。

「あっ……」

 死ぬのだと、ゆっくりに進む世界でクロは確信する。

 叶うなら冒険をしたかった。里の誰も知らないことを知って。里の誰も持っていない物を手に入れて。そして、里のみんなに認めてもらいたかった。いつもピリピリと怒ったように見てくる友達シロが『凄いね』と笑う顔をただクロは見たかったのだ。

 でも、それも叶わず終わる。クロは諦めて目を閉じようとした。その瞬間ーー。

「『誘導、ありがとう』」

 クロを突き飛ばしてシロが剣の前に踊り出る。グリエロもウォーリも凝視していたその場所に飛びこんだシロは、手のひらで顔を覆ってフェクトから買った指輪に魔力を通した。

 瞬間、【カッ】と激しい光が爆発しウォーリとグリエロの視界を白で塗り潰す。

「うぉっ! なんだ、何も見えねぇ!」

「何をしたんです!?」

「『ちょっと、何これ!?』」

 目を押さえて、シロ以外の全員が蹲った。

「『ウォーリを抑えて』!」

 シロは一言叫び、グリエロに向けて駆ける。目が眩んだ状態のグリエロはシロを認識できていないはずだ。しかしそれは隙を突いた前回と変わらない。

 正面から首を突くか、背面から刺すか。どの攻撃ならば通じるのか。悩む間すらも惜しいとシロは駆けた。

「『加速』っ!」

 安全に使える使用回数を超えて魔法を使用し、速度を上げたシロはグリエロの首に向けて左手の短剣を投げる。

 投擲と同時に地を強く蹴り、短剣と同じ速度でシロはグリエロに迫った。グリエロを超えて右手の短剣を構えるシロの横で投げた短剣が弾かれる。

 ならばと背後に回ったシロは握りしめた短剣をグリエロへと振り下ろした。

「残念ですね」

 背中に突き刺さる直前、何かに握られたように短剣が動きを止めて吹き飛ばされる。振り返ったグリエロは勝ち誇った笑みを浮かべていた。

「残念なのは貴方」

 鮮血が舞う。グリエロの左手、その手首から先がゴトリと落ちた。視点の定まらない瞳を見開いてグリエロは左腕を押さえ、痛みに震える。

「何故っ! もう、武器はないはず!」

 未だ眩しさに見えない目でグリエロはシロを睨みつけて叫んだ。その間に、グリエロの右手までもが切り離される。

「貴方は殺さない。でも、呪具は全部外す」

 グリエロは何をされているかもわからないまま、ただ呪具が身体ごと切り落とされていくのを感じた。そして全ての呪具がなくなった頃、ようやく取り戻した視界でグリエロはシロを見つめて武器の正体を知る。

「アタシ達がまだ行商人から武器を買っていなかった頃、それでもアタシ達は里で魔物を狩っていた。猫人族自慢の爪でね」

「魔爪。魔物を狩るために生み出された、わたし達の技術」

 シロの爪を延長するように纏われた魔力。それがグリエロを切り裂いた武器の正体だった。

「これで、目標達成」

 グリエロを無力化したシロは、床に落ちていた『結界』の魔道具を拾うとグリエロとウォーリを結界に閉じこめた。こうしてシロは奴隷の保護に成功したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。 (2月15日記) 連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。 一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (当面、月、水、金、土、日の更新)

処理中です...