7 / 12
7
しおりを挟む
「うんうん、問題なく倒せたね! リーヒアから見て、対応成長度はどれぐらいだった?」
ナリアはにこりと花の咲くような笑顔を浮かべて二本の指をサニャに立て返し、リーヒアにちらと視線を移した。
「これなら二十はいけますね。重唱魔術も過不足なかったですし、なにより種族のおかげもあって身のこなしがいいです。対一で戦うのであれば私より優秀でしょうね」
「おー、リーヒアが言うならそうなんだろうね。よし! じゃあ次はシェリフくんだ!」
ナリアは感心したようにサニャを見つめて小さく頷いた。そしてその視線は滑るようにシェリフへと移動する。
「本当に僕も戦うんですか? 戦闘用の技能もありませんけど……」
ナリアの期待の視線を受けてシェリフは苦笑いを浮かべた。戦った経験も方法もないシェリフにとって、戦闘は避けるべき物でしかないのだ。
「もちろん! そもそも戦闘用の技能がないなんてありえないからね。戦職だよ? 戦うための職なんだから、技能はあって当然!」
ナリアはビシッとシェリフに指を突きつけて真剣な表情をした。
「だから、それが何かを見つけてあげる! というわけで『戦闘態勢について』! 《指令》!」
剣を掲げたナリアから明確な指令が発せられる。それは本来ならばただの言葉。だがそれを勇者が放つことで意味は大きく変わる。
勇者の放つ指令は、対象を指令に適応した状態に強化するのだ。
「これは……。変な感じですね」
初めて受けた戦闘指令にシェリフは眉を寄せた。
まず感じたのは純粋な身体の強化。それはまだいい。続いて起きた変化がシェリフにとっては違和感が大きかった。
それは技能の強化だ。解体技能が強化されているのをシェリフは感じ取っていた。
「たしかに解体技能なら戦闘に使えなくもないですけど……。素材がダメになりますよ?」
「シェリフくんが倒す分の素材程度気にしないで大丈夫! とりあえずそれで戦ってみようか!」
「ナリア、この先進んだところに一匹の魔物がいますよ」
「じゃあ、それで!」
ビシッと洞窟の先を指差してナリアはシェリフを見つめた。
言外に行けという意思を感じ取り、シェリフは深く呼吸をする。
「戦わないと……。戦えないと、ダメなんだ」
自分が追放された原因を思い出してシェリフは覚悟を固めた。冒険鞄から調理師の唯一の武器となる包丁を取り出し、構える。
魔物に向かうとシェリフは一歩を踏み出した。
まさにその時のことだ。
「待って……。魔素が、おかし-ー」
誰よりも先に異常に気がついたサニャの言葉がそこで途切れた。
その原因は、唸るような地響きを伴った地面の揺れ。
あまりに濃い魔素が周囲に満ちる感覚にサニャが口を押さえて倒れこんだ。
「気持ち、悪い……」
「これは、嘘でしょう……? そんな馬鹿は話が! また、また私は!」
魔素に関する感覚が強いサニャとリーヒアが途端に冷静さを失った。その様子と既視感に、ナリアとシェリフも少し遅れて何が起きているかを把握する。
魔境の誕生。かつて故郷を奪われた記憶と結びついた感覚が、その発生を確信させた。
「落ち着いて、リーヒア!」
「サニャも、大丈夫だから」
ナリアはリーヒアに、シェリフはサニャに駆け寄る。異常事態においては冷静さを保つことが何より大切だと二人は知っていたのだ。
「シェリフ、怖い……よ」
「大丈夫。僕も、ナリアさん達もいるから」
身体を震わせるサニャの背中をシェリフは優しく撫でる。
顔を上げたサニャは縋るようにシェリフにしがみついた。
「魔境内に魔境が誕生するなんて、ここ数十年もなかったはずなんです! ナリア! どうして私はこんな!」
「うん、そうだね。あたし達は不幸だよ。でも、大丈夫。あたし達、強くなったでしょ?」
半狂乱のリーヒアに優しく微笑みかけたナリアは剣を掲げる。
幼く見える姿ながらに揺らがない信念の滲むその風貌は、人々の勇気の源。まさに勇者そのものだった。
「ナリア……。そう、ですね。ごめんなさい。私達が、シェリフさん達を守らないといけないのに」
動揺はまだ抜けきっていないものの多少の落ち着きを取り戻したリーヒアがナリアと強く手を繋ぎ、シェリフの方へと顔を向ける。
辺りに満ちる魔素が集約し、今にも爆発しそうになっていた。
「シェリフさん、おそらく私達は新たな魔境に飲まれます。できるだけ側に寄ってください。その後の話は、飲まれてからです!」
その声に、シェリフはしがみつくサニャを連れてリーヒアまで向かう。ナリアもまたリーヒアの手を握ったままにシェリフに駆けた。
揺れる地面に足を取られながら必死に歩き、シェリフは必死に手を伸ばす。
跳んだナリアの手がシェリフの手まで伸び、触れ合った。
集まった魔素が爆発するように光に変わり洞窟を埋め尽くす。見る間に光に取りこまれたシェリフの視界で、絵を描くように世界が塗り替えられた。
ナリアはにこりと花の咲くような笑顔を浮かべて二本の指をサニャに立て返し、リーヒアにちらと視線を移した。
「これなら二十はいけますね。重唱魔術も過不足なかったですし、なにより種族のおかげもあって身のこなしがいいです。対一で戦うのであれば私より優秀でしょうね」
「おー、リーヒアが言うならそうなんだろうね。よし! じゃあ次はシェリフくんだ!」
ナリアは感心したようにサニャを見つめて小さく頷いた。そしてその視線は滑るようにシェリフへと移動する。
「本当に僕も戦うんですか? 戦闘用の技能もありませんけど……」
ナリアの期待の視線を受けてシェリフは苦笑いを浮かべた。戦った経験も方法もないシェリフにとって、戦闘は避けるべき物でしかないのだ。
「もちろん! そもそも戦闘用の技能がないなんてありえないからね。戦職だよ? 戦うための職なんだから、技能はあって当然!」
ナリアはビシッとシェリフに指を突きつけて真剣な表情をした。
「だから、それが何かを見つけてあげる! というわけで『戦闘態勢について』! 《指令》!」
剣を掲げたナリアから明確な指令が発せられる。それは本来ならばただの言葉。だがそれを勇者が放つことで意味は大きく変わる。
勇者の放つ指令は、対象を指令に適応した状態に強化するのだ。
「これは……。変な感じですね」
初めて受けた戦闘指令にシェリフは眉を寄せた。
まず感じたのは純粋な身体の強化。それはまだいい。続いて起きた変化がシェリフにとっては違和感が大きかった。
それは技能の強化だ。解体技能が強化されているのをシェリフは感じ取っていた。
「たしかに解体技能なら戦闘に使えなくもないですけど……。素材がダメになりますよ?」
「シェリフくんが倒す分の素材程度気にしないで大丈夫! とりあえずそれで戦ってみようか!」
「ナリア、この先進んだところに一匹の魔物がいますよ」
「じゃあ、それで!」
ビシッと洞窟の先を指差してナリアはシェリフを見つめた。
言外に行けという意思を感じ取り、シェリフは深く呼吸をする。
「戦わないと……。戦えないと、ダメなんだ」
自分が追放された原因を思い出してシェリフは覚悟を固めた。冒険鞄から調理師の唯一の武器となる包丁を取り出し、構える。
魔物に向かうとシェリフは一歩を踏み出した。
まさにその時のことだ。
「待って……。魔素が、おかし-ー」
誰よりも先に異常に気がついたサニャの言葉がそこで途切れた。
その原因は、唸るような地響きを伴った地面の揺れ。
あまりに濃い魔素が周囲に満ちる感覚にサニャが口を押さえて倒れこんだ。
「気持ち、悪い……」
「これは、嘘でしょう……? そんな馬鹿は話が! また、また私は!」
魔素に関する感覚が強いサニャとリーヒアが途端に冷静さを失った。その様子と既視感に、ナリアとシェリフも少し遅れて何が起きているかを把握する。
魔境の誕生。かつて故郷を奪われた記憶と結びついた感覚が、その発生を確信させた。
「落ち着いて、リーヒア!」
「サニャも、大丈夫だから」
ナリアはリーヒアに、シェリフはサニャに駆け寄る。異常事態においては冷静さを保つことが何より大切だと二人は知っていたのだ。
「シェリフ、怖い……よ」
「大丈夫。僕も、ナリアさん達もいるから」
身体を震わせるサニャの背中をシェリフは優しく撫でる。
顔を上げたサニャは縋るようにシェリフにしがみついた。
「魔境内に魔境が誕生するなんて、ここ数十年もなかったはずなんです! ナリア! どうして私はこんな!」
「うん、そうだね。あたし達は不幸だよ。でも、大丈夫。あたし達、強くなったでしょ?」
半狂乱のリーヒアに優しく微笑みかけたナリアは剣を掲げる。
幼く見える姿ながらに揺らがない信念の滲むその風貌は、人々の勇気の源。まさに勇者そのものだった。
「ナリア……。そう、ですね。ごめんなさい。私達が、シェリフさん達を守らないといけないのに」
動揺はまだ抜けきっていないものの多少の落ち着きを取り戻したリーヒアがナリアと強く手を繋ぎ、シェリフの方へと顔を向ける。
辺りに満ちる魔素が集約し、今にも爆発しそうになっていた。
「シェリフさん、おそらく私達は新たな魔境に飲まれます。できるだけ側に寄ってください。その後の話は、飲まれてからです!」
その声に、シェリフはしがみつくサニャを連れてリーヒアまで向かう。ナリアもまたリーヒアの手を握ったままにシェリフに駆けた。
揺れる地面に足を取られながら必死に歩き、シェリフは必死に手を伸ばす。
跳んだナリアの手がシェリフの手まで伸び、触れ合った。
集まった魔素が爆発するように光に変わり洞窟を埋め尽くす。見る間に光に取りこまれたシェリフの視界で、絵を描くように世界が塗り替えられた。
0
あなたにおすすめの小説
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい
夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。
しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。
リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。
一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。
これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる