128 / 191
第6章
第四十三話 面倒くさくなってるらしい
しおりを挟むラウラリスの呪具から発せられた合図を受けて、別働隊であるケイン・ヘクトらも行動を開始していた。
「せーのッ──ふんっっっ!!」
鋭い気迫と共にヘクトが振り下ろした斧槍が、頑なに閉じられていた門を閂ごと粉砕した。
「病み上がりにしては調子が良さそうだな」
「冗談。これでも結構一杯一杯だよ。いちちち……」
手近に迫っていた敵を切り捨てたケインが声をかけると、斧槍を地面に突き刺したヘクトは顔を顰めながら自身の肩に手を置く。泣き言を漏らしながらも、戦闘慣れした人間が数人がかりでもビクともしなかった門を一撃で破壊できる辺りは流石であろう。
彼らの周辺では、門を守衛していた亡国の勢力と、ケインとヘクトが率いる獣殺し、傭兵の混成部隊の激しい戦闘を繰り広げていた。
傭兵は対人戦に特化したプロ集団だ。この場にいるのは、レヴン商会が独自に契約を結んだ精鋭。中には、わざわざハンター組合を脱退してから契約を結ぶものもいる。戦乱が無くなって久しくなった世ではあるが、やはりこうした人間を相手にする職というのは無くならないのである。
獣殺しの刃の構成員は、表向きには王国の騎士という立場。作戦に参加する上でもその身分を名乗っていたが、全員が一律に黒塗りのコートを纏っており誰がどう見てもまともな騎士には見えないであろう。ただし、それに異を唱える者は誰もいなかった。触れれば火傷する手合いが同盟に混ざっている事を察してのことだ。
ラウラリス達が隠密性を重視しているのに対し、こちらの部隊にはそうした制約はない。むしろ騒がしく攻め立てるのが役割であった。派手に動いてこちら側に注意を惹きつければ、それだけラウラリス達の部隊が楽に動ける。
亡国の中にはそうした目論見を看破するものもいるだろうが、だからと言ってこうも大立回りを見せつければ無視のしようがない。放置すれば甚大な被害が及ぶのは明らかだからだ。
「しかし本当に残念だったね。愛しのラウラリスちゃんじゃなく僕なんかと組まされてさ」
「その話題をいつまで擦るつもりだ。誰が愛しのだ阿呆」
クキクキと首を鳴らし調子を確かめながら斧槍を引き抜くヘクト。彼の軽口にケインは険のある視線を向ける。切れ味のある眼差しながらも、向けられる当人にはさほど効果もなくむしろ忍び笑いが返ってくる始末だ。
この話題は王都で合流してからというもの何度も繰り返されている。ヘクトからしてみれば、口にするたびにあからさまにケインがしかめ面を浮かべるのが楽しくて仕方がないのだろう。
「ラウラリスちゃんは強い男が好みだからねぇ。あの近衛騎士の隊長さん、ちょっとしか見てないけど、立ち振る舞いからして雰囲気がヤバいもん。おたくの総長さんとは何回か顔を合わせたことがあるけど、結構いい勝負するんじゃない?」
「ノーコメントだ。それよりも、無駄口を叩いて死んでたら本当に笑い話だぞ」
「この程度が相手なら、無駄口叩きながらでも問題ないよ」
己に迫っていた剣を斧槍の一振りで弾き飛ばし、空手になった剣の持ち主の胸ぐらを片手で掴み上げると力任せに投げ飛ばした。彼に追撃しようと構えていた亡国の一員は、飛んでくる人間を避けられず巻き込まれて昏倒する。
万全とは言い難くとも、全身連帯駆動・弐式によって発揮される超馬力は常人のそれを遥かに超えている。武器を合わせても百キロを超えない人間など、片手で持ち上げるなど容易いことである。
「君こそ、ラウラリスちゃんのことが気になりすぎて剣が疎かにならないか心配だよ」
「いい加減しろ! しつこいぞ貴様!」
激昂しながら、ケインは亡国の構成員が振るった剣を叩き割り持ち主の胴に蹴りを見舞っていた。しかもヘクトを睨みつけながらの片手間。喰らった相手は少し哀れであった。
「これでも僕なりに心配してるんだよ。真面目なくせに煽り耐性が低い君が、いつそれでやらかすかが」
「調子に乗りすぎた挙句に全身をバキバキにされた奴が言っても何の説得力ないわ!」
「それを言われちゃうと本当に何も返せないんだよな」
これでも王国が威信を掛けて召集した同盟においての大事な初戦。失敗は許されない最初の一手にも関わらず、ケインとヘクトは雑に会話を続けてた。本来であれば誰かしらが苦言を告げるところであるが、それができない理由は二つ。
一つは、両者がそれぞれの部隊を率いる隊長格であること。そしてもう一つは、何よりもこの二人が言葉を投げ合っている最中であっても、向かってくる亡国の戦闘員達を容赦なく叩き伏せていからだ。ふざけ合っている様に見えて、一番の戦果を上げているなら文句を言いたくても言えないだろう。
程なくして、門の辺りにいた亡国の人員は全てが無力化された。
正面から挑んだけあり乱戦となり、同盟側にも少しばかりの負傷者は出ていたが死者は出ておらず、ほぼ完勝と言っても差し支えないだろう。
ただ、これは前哨戦に過ぎず、本番は中に入ってからだ。
「手筈通りだ。中には一般人が紛れている可能性が高い。やむを得ない場合を除いて、できる限りは殺すなよ」
門の近くに構えていたのは、亡国の構成員の中で戦闘に特化した人員。少なくとも素人の一般人が剣を振り回している様子はなかった。
だが、建物の中であれば突発的に亡国の構成員と遭遇することもあるだろう。その中には、連れ去られ薬物によって洗脳され強引に信者にされた一般人もいると考えられている。
とはいえ、どれほど一般人が紛れているか。そうした者達と亡国の信者や構成員を区別できるほどの情報はない。故に、拠点内に攻め入る場合はなるべく不殺で敵を無力化する様に同盟部隊には命じられていた。
これは何も人道云々に収まらない。今後にも同盟が亡国打倒を掲げる上で、民衆に対して悪感情を及ぼさない様にするために必要な事でもあった。
「その辺りはご心配なくだ。ちゃんと、得意な人員を選んでもらったからね。それよりも、さっきの繰り返しじゃ無いけどさ。真面目な話、やっぱりラウラリスちゃんのことが気になってる?」
改めて指摘されてケインはムッとなるが、ヘクトからは揶揄う気配は無い。どうやら当人が思っている以上に態度に出ていたのだろう。
ケインは息を吐くと、偽りない本音を漏らす。
「……あの女が妙な事をやらかさないかが、気掛かりといえばいちばんの気掛かりだ。相手が王妃付きの近衛隊ともなればな」
「あぁーー……自分の中で結論出たらほとんどノータイムで実行しちゃうからねぇ。慣れてないと本当に付いていけないだろうなぁ」
決断力がありすぎるというのも問題だ。本人の中では歴然とした筋道があろうとも、周りの人間がついていけるとは限らない。ケイン達は実際にそれらを味わってきただけに実感がこもっていた。
「万が一にあいつが突拍子も無い事をやらかしたら……今回は、あの隊長殿に請け負ってもらうほかあるまいが。そうなった時の後を考えると、少しばかり気が重い」
身近にいれば気を揉むが、かと言って目の届かぬところで暴れられるとそれはそれで気になって仕方がない。全くもって面倒な女だと、ケインは内心にぼやいた。そして、ヘクトに「今日のこいつ、ちょっと面倒くさいなぁ」と生ぬるい視線を向けられていることに気がついていなかった。
「とは言え、あいつにばかりかまけていても仕方がない。近衛騎士の隊長殿にあの女の制御は任せて、俺たちは俺たちの仕事をするぞ」
「了解。他の部隊の活躍も期待しつつ、僕らも頑張りましょうか」
940
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。