転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第6章

第四十五話 借りを返したい二人

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「もしかして、以前ラウラリスさんとご一緒になられたことが?」
「まぁね。少し前に仕事で組んだんだけど、それで結構な借りを作っちゃってね」

 無意識に、アイルは自身の頬を触れた。

 刻まれているのは一筋の傷跡。己の心の弱さが招いたこの傷は、たとえ表面は癒えても一生彼女の心に残り続ける。

 けれども、ラウラリスがいなければその痛みすら感じない外道に成り果てていた。

「今はそいつを返す方法を考えている最中なんだけど、これがどうにも。今回の作戦で一緒に動けたらその一片ぐらいは返済できるかと思ってたんだけどさ」
「そうだったんですか……実は私もそうなんです。あの人には返しきれない恩がありまして」

 献聖教会はラウラリスに大きな借りがある。もし彼女の介入がなければ、教会は多いな損害を受けていたに違いない。加えて、誰かしらに口外できる内容ではないが、デュランもラウラリスには個人的な借りがあった。

「隊長さんも拠点の制圧作戦の方に加わりたかった口かい?」
「……街中の任務であれば、献聖騎士団が適任なのは重々承知していますが」

 部下達にも漏らさなかった内心の奥に押し込めていた本音を、アイルに漏らすデュラン。己の身体についてもだが、それと同等にラウラリスの恩返しについても彼女を悩ませていた。

「じゃぁ私たち、ちょっとだけ似たもの同士だね。同じ人物にデカい借りがあるわけだ」
「あの人は、私たちのこんな悩みなど笑い飛ばしてしまいそうですがね」
「あ、すごく目に浮かぶ」

 二人揃ってラウラリスの笑い声が脳裏に浮かんだのか、揃って忍び笑いを漏らしていた。

 デュランもアイルも、どうしてか互いに共感性シンパシーを感じていた。ほとんど初対面に近く、会話をしたのはこれが初めて。なのに、相手と己に通じるもの感じていた。

 それはひとえに、彼女達が互いの戦いぶりを目に見たからだ。

 本人達は未だに知る由もなかったが、両者の扱う剣技や体術の根幹は全身連帯駆動だ。アイルはそこから速度に特化した参式さんしきを。デュランのものは精密動作に特化した肆式よんしきが元となっている。

 いわば己の心身に刻まれた技の祖が同じなのだ。共通項を見出すのも当然であった。

「隊長さんとは友達になれそうだ。作戦が終わったらご飯でもどう?」
「デュランで構いませんよ。予定が許せば是非とも」
「そっか。じゃぁデュラン。機会があることを楽しみに待ってるよ」

 ──言葉を交わす二人を、物陰から暗い目で見据える男がいた。

 ハンターの追跡から逃れた亡国の信者であった。

 当初は街の外への逃亡を試みたが、使う予定であった逃走路は既にハンターが待ち構えており断念。正規ルートの門についても厳戒な検閲が敷かれており突破は不可能。

 一般人に紛れようとも、身体検査をされれば終わりだ。構成員や信者達は例外なく、亡国を憂える者たちの支えであるかつての帝国のシンボルを持っている。これは皇帝陛下への忠誠を示すものだ。どれほどの事情があろうとも、たとえ命を失おうとも手放すことはできない。

 完全に八方塞がり。

「デュラン隊長!」

 献聖騎士の一人が声を発すると、デュランの気がそちらに向けられる。釣られてアイルも同じ方に目がいく。

 ──その瞬間、信者は隠し持っていた短剣を腰溜めに構えて物陰から飛び出した。

 この状況で男が選んだのは、罷り間違っても投降ではなかった。捕まって生き恥を晒すのであれば、せめて敵の指揮官だけでも道連れにせんとする、破滅的な選択。

 突然現れた亡国の信者に、辺りを行き交っていた騎士たちも気が付く。しかし、誰もが咄嗟には反応しきれず、それらの間を突き抜け信者はデュランに向けて突進する。

「皇帝に仇なす者よ、覚悟ォッッ!」

 己に酔いしれた男の叫び声に、デュランがゆっくりと動き出す。素人でありながらも全身全霊で駆ける男に対して、あまりにも柔らかい動作だ。

 そして、必殺を確信した信者の切先はそのままデュランの側を横切った。命を指し貫くはずだった刃はただ空を貫くだけであった。

「残念ですが、私の命はあなた方の様な狼藉者にくれてやるほど、安くはありません」

 命を狙われたとは思えないほどに穏やかな口調だ。

 デュランは手にしていた双剣ツインブレードを僅かに動かし、突進の軌道をずらしたのだ。絶妙な匙加減での妙技に、男は自ら矛先を退けたようにすら感じられただろう。

 男は失敗を悟りながらも諦めきれず、なおもデュランを狙って反転するが。

「はい、二度目は無いよ」

 声が聞こえたのは背後から。それを認識した時には既に、彼の意識は途絶えていた。

 アイルは片刃剣を軽く旋回させてから納刀。デュランの隣にいた彼女であったが、即座に男の背後に回り込むと、その首筋に剣の峰を打ち込んだのだ。男は己が最後に何をされたのか認識すらできなかっただろう。

「お見事です」
「互いに、ね」

 デュランはアイルの超速に。アイルはデュランの妙技に賞賛を送った。

 二人とも、会話の途中から物陰に潜む存在には気が付いており、あえて隙を晒して出方を伺っていたのである。

「芝居に付き合ってくださり、ありがとうございます」
「どちらかというとハンターこちら側の見逃しだからねぇ。尻拭いさせて悪かったよ」

 騎士たちが慌てて倒れた男を縛り上げる中、二人は揃って頷きあった。

「私たちは私たちの責務を果たしましょう。それがラウラリスさんに報いる第一歩となるはずです」
「同感。やるからには徹底的にね」

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