転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第八話 ババァの忠臣が残した言葉

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「アベル、お疲れ様でした」
「母上!」

 歩み寄ってくるセディアに、アベルはパッと晴れのような笑みを浮かべた。

 息子の肩に手を置いたセディアは、優しく微笑みかける。

「少しばかり過保護であったかもしれません。以降も励みなさい。ですが、無理は禁物ですよ。躰を壊してしまっては意味がないのですから」
「はいっ、ありがとうございます!」

 疲れているだろうに嬉しそうに元気よく返事をするアベル。母親に良いところを見せようと張り切っていたところもあったのだろう。彼女の笑みを見て、成果を発揮できた事を喜んでいた。

「さっ、躰の汚れを落としてきなさい。王子たる者、いつまでもそんな姿でいるのではありませんよ」
「あっ! ……わ、わかりました。では、これで失礼します」

 母親に諭され、己の状態にようやく気が回ったようで、慌てたように頭を下げるとアベルは去っていった。王子仕えの者も王妃とラウラリスに向けて一礼をすると、アベルの後を追う。

 見送った後に、セディアが改めて口をひらく。

「ラウラリスさん、この後のご予定はおありで?」
「今日は一日中空いてますよ」
「でしたら、お茶と菓子を用意させましたので、どうぞあちらへ」

 セディアは己が先ほどまで座っていたテラス席を示す。ラウラリスは手近な兵士に長剣を預けると、セディアに伴われて用意された席に腰を下ろした。

「改めて、お疲れ様でした。私の突然の我儘に付き合っていただきありがとうございます」
「私は大して動いちゃいないですよ」

 謙遜を述べてから、茶器に注がれた湯気立つ芳しいお茶を口に含む。疲労は無いが、動いて少しだけ熱った躰が落ち着くような味わいだ。上等な品質の茶葉を達者な者が淹れたのだろう。

「いいえ、私も見る目はそれなりにあるつもりですが、あなたほど完璧に己の躰を支配している人間というのは滅多におりませんでしょうね。アイゼンが認めるのも納得できます」
「……まさか、王子への指導は建前で、本題はそっちでしたか?」
「それこそまさかです。ただ、その思惑もあったのも否定はしませんよ」

 クスリと笑ってから、王妃も上品な所作で茶器に口をつけた。

「実際に目にして、あなたをアベルの指南役として城に招けないのが残念で仕方がありません。剣術のみならう、教養もおありのようですし」
「高く買ってもらってるのは非常にありがたいですが、それっぽい話ができるだけの田舎者にすぎませんよ。私は剣を振るうだけがせいぜいの女です」
「それを言ってしまえば、私は呪具を人より少しばかり達者に扱えるだけの女でしかありませんよ」

 どことなく自嘲めいた言い回しだ。

「私には二つ上の姉がおりまして、これが大変に聡明で優秀な人でした。あの人が存命であれば、きっと王妃は私ではなく姉がなっていたでしょう」
「その話……私が聞いてもいいんで?」
「隠すほどのことでもありません。調べればすぐに分かることです。それ以前に、ラウラリスさんもこの程度はすでにご存知でしょうし」

 するりと思いがけない隙を突くような一言であったが、ラウラリスの持つ器に注がれた茶には波紋ひとつ生じない。この程度で動揺を見せる程度では、悪徳女帝などよばれはしない。

 王妃はおそらく、ラウラリスが獣殺しの刃の本部に入り浸り、何かを調べているのは知っているのだろう。ただ、その目的と求めている情報についてはまだ分かっていない。今のは、話の流れを利用し、己の認識と事実の『確認・・』なのであろう。 

 ラウラリスは鷹揚に茶器を受け皿ソーサーに乗せると、小息を一つ。

「十六年前……でしたか。書面上で見ただけですが」
「ええ」

 ──数奇な運命により邂逅したかつての忠臣から告げられた。

 無害だったとある宗教団体が『亡国を憂える者』へと変貌したのは、今より二十年前。

 獣殺しとは別の視点でありながら、闇に生きた男が限りを尽くして残した今際の言葉だ。

 故にラウラリスは、この国の歴史において二十年前に起こった出来事を徹底的に洗い出した。どれほどに些細なモノでも掘り返そうと、まさしく寝食すら惜しんで調べ尽くした。だが、熱意と結果が釣り合うとは限らない。今のところは不審な点はなく、空振りに終わっている。

 いの一番に調べ上げたのは、他ならぬ王家とそこに近しい親類族。王家から別れた血筋や、逆に王族の伴侶を輩出した家を中心に洗い出した。

 当然、当代カイン王の妻であるセディアの出身であるファマス家についても当然であるが調べてはある。

 確かにセディアの上には姉がいた。非常に優れた能力を持っており、数年内に王子カインとの婚約がなされるのは間違いなかった。だが、十六年前、遠出の際に事故で亡くなっている。獣殺しの刃も当然調査したが、偶発的なものであり事件性はないという。

 二十年前といえば、目の前のセディアはまだ十歳だ。今のアベルとほとんど同じ年頃である。ファマス家が国内有数の名家であろうとも、その次女に過ぎなかったセディアに何ができる。
そして、セディアの姉が亡くなったのが十六年前。こちらも微妙に年代が合わない。あるいは事故が二十年よりも前の出来事であれば話は変わったかもしれない。

 忘れてはならないのが、資料を制作したのは王国を裏から支え、時には無法も辞さない『獣殺しの刃』。資料には表だけではなく、決して世には出てはならない裏の情報も記録されている。その上でラウラリスの琴線に触れなければ、ファマス家は候補から外してもいいだろう。
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