転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第十七話 ド素人とババァ

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「ま、腹ごなしと暇つぶしにはちょうど良さそうだ。付き合ってやる」

 徐に立ち上がり、長剣の鞘を背負い直すラウラリス。

 と、そこで思い出したのがアベルの存在だ。

「ずっと気になってたけど、結局その子はラウラリスちゃんのなんなの? 赤の他人って割には親しげだったけど」
「ちょいとばっかし剣の指南をしてやってね。見た目は可愛いが、これでなかなかに筋がいい。将来有望だ。そっちの道に行くかは分からんがね」
「そりゃまた……、君にそこまで言わせるんだから大層なもんだ」

 顎に手を当てて感心するヘクト。アベルも褒められて嬉しそうである。

「今日はこの近くでばったり会って、悩みの相談に乗ってやった次第さ。それ以上でもそれ以下でもない。そいつもしまいで別れようって時に、あんたらが割って入ってきたってわけよ」

 スパッと言い切るラウラリスであったが、その隣でショックを受けるアベル。どうやらこのままさっくり分かれるのは嫌だったらしい。

「ふんふん、なるほどなるほど」

 二人の反応を見てしきりに頷くヘクト。ここでラウラリス、嫌な予感を覚える。

 その直感はまさに正しかった。

「君も一緒に来るかい?」 
「却下だ阿保」

 ヘクトの提案にアベルが一瞬だけ顔を輝かせるも、直後にラウラリスが切り捨ててすぐに捨てられた犬のようにシュンと肩を落としてしまう。

「これで良いとこ・・・・のお坊ちゃんなんだ。下手に怪我でもさせたら大問題だよ」
「別に良いじゃないか。お弟子さんだって師匠せんせいのご活躍を見たいでしょうし……ね?」
「は、はい! ラウラリスさんのご活躍を見てみたいと思います!」
「そこで焚き付けるんじゃないっての」

 再度ヘクトに話を振られたアベルは、両手に拳を作りながら熱意を露わにアピールする。

「決してご迷惑をおかけしませんから!」
「ド素人が口にするその手の台詞が信用できるわけないだろ」

 完全に乗り気になっている少年にラウラリスがピシャリと言うが、ヘクトにのせられたのか今度は簡単には折れない。

「みんな最初は分け隔てなく素人なんだ。良い所のお坊ちゃんであるなら、なおの早いうちに裏の社会科見学を済ませておいた方が、後学の糧になるでしょ」
「もっともらしい論を並べちゃいるが……あんた、完全に面白がってるだろ」
「まさか。僕は純粋に、将来有望な若人の為を思って言っているまでさ」

 忘れていたわけではないが、改めて思い知らされる。

 このヘクトという男は非常に有能な男でやり手には違いないが、それとは別に生じた好奇心に身を任せるタイプの人間だ。あるいは『面白い』と感じた事に対しては、損得度外視で持ちうる全てリソースを注ぎ込む。商会に大損害を与えかねないやらかしも、根っこはヘクトの好奇心が発端だ。

 今回はその好奇心がアベルにむいた次第である。本当に面倒な男である。

「皆さんのお邪魔はしません。端で隠れていますから!」
「つってもねぇ」
「己が若輩であり未熟なのは重々に承知しています! 絶対にお手を煩わせるようなことはしませんから!」

 どこまでも食い下がるアベルに、若干ラウラリスも押され気味である。仮にアベルが王子でなければ連れて行くのもやぶさかではないが──とほんのり迷い中である。

 二人をよそに、アイルはヘクトの脇を強めに打って声を顰める。 

「分かってるの? あの子アベルにもし万が一に怪我でもさせたら、私ら全員これ・・だよ」

 と、アベルに見えない角度で、アイルは手刀で自身の首元クビを叩く。この場にいる者だけではなく、ギルドや商会にだって累が及ぶ可能性も十分以上にあり得る。

「大丈夫大丈夫。これから行くマフィア程度だったら余裕だって。それに、お偉方に恩を売るチャンスでもある。それも個人的にね。将来的には君にだって大きな実りになり得るんじゃないか?」
「やっぱり──気がついてたんだ」

 最初にとぼけた反応はハッタリで、ヘクトはアベルの正体が分かっていたのだ。 

「ラウラリスちゃんが王城に出入りしてるのは知ってたからね。あの年頃で剣を教えてたって話で有れば、もしかしたらと」

 この愉快犯は、確信的に王子様をマフィヘの討ち入りに巻き込もうと言うのである。

 アベルはまだ若い身であるり実権はほぼないに等しいが、将来的には王位を継いで国を率いる立場にある。ハンターとしても、そして裏の人間としても今のうちに繋がりを設けておくのは、ヘクトの言葉通りかなり魅力的である。

 もし『失われた片割れ』であればどのような選択肢を取ったであろうか。

 しばしの思考を経て、アイルはやいのやいのと言い合っている二人に告げる。

「ラウラリス。この際だから連れて行こう」
「アイル、お前まで!?」

 まさかの裏切りにラウラリスがギョッとする。己と同じで却下する側だと思っていたのにまさかヘクト側と同調するとは予想だにしていなかった。

「その子、ここで駄目って言い聞かせても黙って着いてきそうだよ」
「ぐっ……それは」

 中世的で可愛らしい顔をしているが、この王子はかなりの行動派だ。昨日の今日で城を抜け出してラウラリスに会いに来たのがその証左。初めて出会ったのも、城下に降りたところで護衛を振り切ったところが発端。

「見えないところでウロチョロされるよりかは、見えるところで良い子にしてもらったほうが安全だよ。なんだったら、子守りは私がやるから」

 アイルに目を向けられると、アベルがコクコクと必死に頷た。

 そもそもの話、ラウラリスが討ち入り参加を辞退すればアベルも連れて行かずに済むわけなのだが、ここまで来て引き下がると言うのも癪である。

 さんざんに考えあぐねたラウラリスであったが、「ん」と眉間に皺を寄せて頷いてから、

「アベル!」
「は、はい!!」
「──ここから何があっても、必ず私らの側を離れず、かつ指示も厳守だ、もし何かあってバレた時は、死に物狂いで周囲を説得しろ。特にセディア様には重々にな。これらを守れなかったら私はお前さんとは縁を切るぞ」
「わ……分かりました! ありがとうございます!」

 あるいは切れるのはアベルを除くこの場に居合わせた者の首だなと、少年以外は脳裏によぎらせたが誰も言わなかった。

 ヘクトの口車に乗る形で、マフィア潰しにアベルも同行することになる。

 ──結果的に、ラウラリスたちが危惧したような最悪の結果には至らなかったものの、別の意味で少しばかり面倒な流れに行き着くことなる。

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