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第7章
第二十六話 壊せる壁は大体出入り口にするババァ
しおりを挟む「『標的』の様子は?」
どこからともなく現れた甲冑を纏う一団が、人気のない路地の一角に姿を見せた。顔の上半分を兜で多い、口元だけ露出したそれらは、一見すれば非常に目立つだろう。けれども、金属製の鎧を纏いながら足元をほとんど立てない立ち振る舞いはあまりにも異様である。
「まだ何も。ですが、そろそろ頃合いかと」
筆頭格の一人が発した声に、別の一人が首を横にふる。この場にいる五人が見据える先は、民家が一つ。先ほど、一人の少女が入ってしばらくが経過した。
「そうか。──では総員、抜剣」
号令と共に筆頭格含めて全員が腰から剣を抜き放つ。
民家の中にいる標的も、こちら側の存在に気がついているだろう。
もとより、不意打ちが通用する相手でないことも織り込み済みだ。
あえて亡骸を屋内に放置したのは、わずかでも外側を逸らすため。死体の検分に気が向いている間に包囲を完了するため。
「獣狩りとは格が違うということを念頭に、全力で対処しろ」
全員の気勢が高まり、いざ突入──。
──バガンッッ!!
皆が一斉に駆け出そうとしたその瞬間、大きな破砕音が響き渡った。足を踏み出した直後ながら、筆頭格が咄嗟に手を挙げて制止する。
音の根源は、今まさに突入しようとしている民家の中だ。
今の音が発せられるような危険物がないことは、『獣狩り』を全滅させた後に入念に確認している。『標的』に有利になるような要素を与える事に意義はない。事前の情報では、火の呪具を時折に使用するとあったが、これほどの大きな破壊音がするようなものではなかったはず。
そこから二度三度と、立て続けに破壊音が鳴り響く。けれども耳を澄ませれば、音の発生源が最初の位置からわずかにズレているよう感じられる。
「──ッッ!? 全員、突入するぞ!!」
状況に理解が及び、筆頭格が鋭い声で指示を下す。彼を先頭に、一斉に民家の入り口へと甲冑の一団が殺到。
扉を蹴破り内部へと突入すると、獣狩りの執行官の死体が複数横たわっているが、肝心の標的──剣姫ラウラリスの姿はない。
あらかたの家具が破壊されているのは、執行官との戦闘の余波であるが、同時にラウラリスが身を潜める空間を排除するためでもあったのだ。なのに、少女は影も形も見当たらない。
だが──。
「やはりそうか──」
歯噛みを交えた後の呟きが向けられた先は、民家の一角。本来であれば『壁』があって然るべき場所には、大穴が空いて隣の民家と繋がっていたのだ。あの破壊音はこの大穴──壁を破壊する音であったのだ。
以前に似たような状況に陥った際に、壁に穴を開けて脱出したという話も聞いてはいたが──。
「あの短時間でここまで決断できるか」
並々ならぬ相手であるのはわかりきっていたが、こうも容易く出し抜かれるとは。
一団は空いた穴から隣の家へと足を踏み込むと、その先にもやはり壁に大穴が空いている。
と、視線を巡らせたところで、この隣家の主であろう男が頭を抱えて部屋の隅でうずくまっていた。甲冑越しではあるもが奇しくも視線がぶつかり合い、びくりと肩を震わせる。
「これは失礼した」
抜き身だった剣を鞘に収めると、筆頭格は胸元に手を当てて軽く頭を下げた。
「こちらに、剣を背負った少女がやってこなかっただろうか」
意外にも礼儀正しく丁寧な問いかけに住人は息を呑んだものの、無言で甲冑達が現れた側とは反対の穴を指差した。
「感謝する。では、急ぐ故に我らはこれにて」
先頭の一人が頭を下げると、皆を引き連れ住人が指差した方へと駆けていった。
一般民家の壁程度であれば、ラウラリスにとっては扉のついていな扉のようなものだ。叩き壊せば即席の勝手口の完成である。
「これで少しは時間を稼げたか」
最初の民家から離れた路地の物陰に身を置くラウラリス。そこにはいつものどこか余裕ありげな不敵さは薄く、口元は真剣みを帯びて引き締められている。
壁を破った際の音は外にも届いており、包囲していた某らにも聞こえていただろう。ただ、一度目はおそらく警戒して突入はしてこないはず。二度三度と続いたところで壁破りに思い至って行動を開始するだろうと踏んでいた。
一応、壁を破った先に住んでいた住人らには、部屋の隅で頭抱えて縮こまっているように告げておいた。今は無事を確認している猶予はなく、安全を祈るしかない。全てにケリが着いたら迷惑料を込みで弁償しよう。
「そのケリがいつ着くかが分からんのが問題だな」
ラウラリスは襲撃者らに姿を見られる前に、3軒ほど隣先にある家屋の裏手口から脱していた。おかげでどうにか隠れることに成功したが、悠長にもしていられない。
単純に考えれば、襲撃の犯人は亡国を憂える者の差し向けた刺客だ。
以前にも、亡国の中で『暗殺』を主な手段として用いていた幹部とその一団を壊滅させた。
もしかしたらその生き残りの仕業か──と、そこまで思考しラウラリスは「違うな」と否定した。
獣殺しの執行官達を全滅させた実力を考えれば相当なものだ。過去に戦った感触からして、亡国産の暗殺者は多少不意打ちの腕があろうが、執行官を仕留められるのはせいぜい最初の一人か、幸運を最大限に見積もっても二人まで。全てを仕留めるのはあまりにも実力が不足している。
となるとやはり、刺客一派とは別口と考えても良い。
問題は──。
「っとぉ!」
そこまで考えて、ラウラリスは隠れていた物陰から飛び出す。直後に、彼女がいた地点に目掛けて、どこからか飛来した矢が何本も突き刺さっていたからだ。どれもが正確にラウラリスの急所を狙っており、その殺意が窺えた。
「飛び道具まで持ってきてんのかい! いよいよ本気だな!」
矢が飛んできた方向に目を向けるが、すでに移動したのか射手の姿はなかった。
先ほどの壁破りは多少の時間稼ぎのつもりであったが、まさかこうも早々に見つかるとは思っていなかった。明らかに一定水準以上の訓練を受けた手練れであると、ラウラリスの想定を裏付けるには十分すぎた。
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