神話の続きはエピローグから (旧題:邪剣伝説)

ナカノムラアヤスケ

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第十八話 彼方より抱く思い

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 ──フィアースの街にて、最初の激突から一夜を経た明朝。
 
 街が活気に満ちる時間はまだ先であり、路地に人気はまだ無い。そんな中、モミジは一人で歩を進めていた。
 
 セイナはあの後、食い下がることはなかった。

 しかし、瞳の奥には悔しさと怒りが宿っている事に、モミジは気が付いていた。
 
 失ったことの悲しみ。
 
 奪った者への憎しみ。
 
 何もできない無力な己への憤り。
 
 その感情を見たとき、モミジの胸中が大きく揺れた。
 
 理由は分かっている。


 にある記憶の中で、自分も全く同じ感情を抱いたことがあったからだ。


「『セツナ』……まさか俺があんたと同じような立場になるなんてな」

 モミジは苦笑と共に女性の名を口にした。口にしてから、その名前が少女セイナに似ている事に今更になって気がついた。
 

 それは、かつて世界の誰よりも愛した女性の名だった。


「……やれやれ、おまえが残した〝遺物〟のお陰で、こっちはいい迷惑だ。せっかく、お気楽なを歩けると思ってたのに。後始末をさせられる身にもなってほしいね」
 
 言葉は責めるようでいて、口角は自然とつり上がる。

「ま、いいさ。惚れた弱味もあるしな」

 責任を誰かに押しつける気など、毛頭無かった。

 他の誰にもできないからではない。

 自分にしか出来ないからでもない。

 他の誰にも譲るつもりはない。

 この〝業〟を背負う権利は、自分以外の誰にも許さない。

「──だから、押し通させて貰うぞ、封印騎士団──!」

 いつしか、モミジは目的地に到着していた。



 騎士団支部の正面は広場になっている。通常時は街の憩いの場として一般市民にも解放されており、有事の際には支部に勤める騎士の全員が整列できる程度の広さがあった。
 
 敷地内に足を踏み入れると、広場の中央には予想していた人物達が待ちかまえていた。
 
 中級騎士リィン・ガナード。
 
 上級騎士ミラージュ・アルヴァス。
 
 そして、聖騎士アズハス・サイン。

「お出迎えご苦労さん」

 モミジは気軽に声を掛けるも、三人の騎士は険しい表情を浮かべたままだ。触れれば切り裂かれそうな鋭い緊張感がそこにはあった。

「やれやれ、とりつく島も無さそうだ」
「……今更、語り合うような間柄ではないだろう」

 肩を竦めるモミジに、ミラージュが怒気を押し殺した声で言った。

「ま、そりゃそうか。おまえさんらは平和と秩序を守る組織に属する正義の味方で、俺はそれに真っ向から喧嘩を売った反逆者で大罪人だからな」
「皮肉のつもりか? 貴様も、少し前まではその一員だったろう」
「前にも教えたはずだぞ。俺が《封印騎士団》に入ったのは、最初から最後まで《七剣八刀これ》の為だ」

 モミジの周囲に、《七剣八刀》によって生み出された八本の浮遊剣──《月読》が出現する。

「……ガナード」
「私は女神様を信奉する騎士団の一員。言わずとも己の役割は心得ているつもりです」

 ミラージュに名を呼ばれたリィンは、迷いを見せずに言葉を返した。そこに幼馴染みを案じる表情は無く、決意に満ちた戦士の顔になっていた。

「よう、聖騎士様。怪我の具合はどうだい?」
「お陰様で。支部に優秀な治療師がいたお陰で、無事に完治しましたよ。言っておきますが、前回のように不覚をとるつもりは有りませんので、そのつもりでいてください」

 気勢を高めながらアズハスは腰の剣を抜刀し、切っ先をモミジへと向けた。それに伴い、ミラージュは刀の柄に手を添え、リィンは銃口の照準をモミジに合わせる。

 臨戦態勢をとった三人を前にしてモミジは笑みを零し、己の周囲に浮かぶ《月読》の二本を左右の手に取って構えた。

「掛かってきな。三人でどれだけ相手になるか、試してやる」

 どこまでも余裕を保ったモミジの態度が、ミラージュの神経を逆撫でする。しかし彼女はこみ上げくる怒りを発散することなく内側に止めると、魔力を一気に高ぶらせた。怒りを無作為に発散するのではなく、理性によって怒りを制御し、体中の《魔晶細胞》を一気に活性化させたのだ。

「ならば……その余裕ごと貴様を叩き斬る!」

《空牙》によって風を纏うと、ミラージュは刀を抜き放つと一気に踏み込んだ。それに続き、アズハスはミラージュの後を追うように動き出し、リィンは銃の引き金に指を添えた。

 細胞活性で強化された脚力と、《魔導器》によって制御された風力。二つが組み合わさり、ミラージュの踏み込みは十歩の距離を一足で飛び越える程の速度を有していた。踏み込みの勢いを抜刀の動きに乗せ、鋭い居合い抜きを放つ。
 
 モミジはあえて浮遊する《月読》ではなく、両手にある二本の剣をもって迎え撃った。二つの剣と一つの刀がぶつかり合い、甲高い金属音が明朝の空気に響きわたる。
 
 モミジが刀を受け止めた直後に、ミラージュの背後から飛び出すようにしてアズハスが現れた。モミジは鍔迫り合いを続けながら《月読》の三本操作し迫り来る彼に放つ。アズハスの技量からして到底その身に傷つける程の動きではなかったが、それでも彼の動きを僅かでも足止めするには至った。その隙を見計らい、モミジはミラージュの刀をはじき返すと、アズハスへ向けて駆けだした。
 
 リィンはモミジの動きを阻害しようと銃の引き金を絞った。
 
 ──ドゴンっ!
 
 魔力を炸薬とし、貫通力を高めた徹甲弾が銃口から放たれた。強烈な反動で長銃が暴れるが、リィンは直立体制のまま押さえ込む。
 
 ──ちなみに今のリィンの射撃だが、通常なら〝伏せ〟の格好で使用する対戦車用狙撃銃アンチマテリアルライフルを、直立体制のままぶっ放したようなものであった。反動と威力に至ってはその倍近くである。
 
 事前に察知したかのように複数の《月読》が射線に割り込み、魔力壁を展開し弾丸を弾き飛ばした。リィンの持つ手札の中で〝最大級〟の攻撃──では無かったが、ああもたやすく防がれるとは彼女も思っていなかった。
 
 彼女の動揺を余所に、モミジは聖騎士アズハスの懐に飛び込み、左手の剣を振るう。アズハスの持つ《魔導器リアフォース》の能力を知っているはず。モミジの行動には必ず裏があるはずだとアズハスは確信する。

『策があるなら、その策ごとモミジを斬り伏せてやる』と油断することなく、アズハスは反射力場を纏う剣を叩きつけた。

 モミジが次にとった行動は彼の予想の上を行った。なんと、剣と剣が衝突した瞬間に、モミジが剣を手放したのだ。反射力場とそもそもの勢いが重なり、《月読》が勢いよく彼の元から弾き飛ばされた。《魔導器》使い──剣士であるなら、自分から得物を手放すなど、よほどのことがない限り有り得ない。

 アズハスの思考はそこまでは至らなかったが、反射的に身を反らした。モミジは残る右手の剣で切りかかってきたからだ。切っ先が頬を僅かに擦れ、一本の赤い線が刻まれる。

 痛みに表情が歪むも、お返しとばかりにアズハスは斬撃を放った。モミジは剣を振るった格好のままであり隙が出来ていたからだ。

 ところが、モミジの左脇に吸い込まれるはずだった彼の刃は、モミジのに握られた剣によって阻まれた。アズハスが弾き飛ばした剣とは別の浮遊剣ツクヨミが、寸前でモミジの手に飛び込んだのだ。剣をあえて手放したのは、これを踏まえた上での行動。

 正面からの打ち合いは分が悪いと判断したアズハスは、一旦距離をおこうと後方へ下がるが、モミジはすかさず追撃する。アズハスが後退するタイミングを読み切った動きだった。

 再び剣の間合いはいろうかという瞬間、モミジは追撃をやめ横へ飛んだ。直後、彼が立っていた場所に爆発が巻き起こる。リィンが炸裂弾で狙撃し、アズハスを援護したのだ。即座に二射目が狙うが、今度は《月読》の魔力壁で防がれた。さらに別の方向からは風を纏ったミラージュが襲いかかり、手持ちの《月読》を振るって迎撃する。ミラージュは深くは打ち合わず、すぐさま離脱した。

「さすがに相手が三人だと、そうすんなりとはいかねぇな」

 好戦的な笑みを浮かべるモミジとは対照的に、ミラージュ達はモミジの卓越した技量に戦慄していた。個々人では能力が劣っているのは理解していた。三人で挑んだとして、苦戦を強いられるのは必至だとも。分かっていながらも、ここまで圧倒的な実力の持ち主を前にしてその余裕を些かも崩せない事実が、ミラージュ達の士気を揺さぶる。

「ある程度の覚悟はしていたつもりだったが、これほどまでとは……」
「底が見えないな。三人がかりでもギリギリで凌ぐのがやっとだ」

 短時間しか剣を交えていないはずなのに、ミラージュとアズハスは肩で息をしている。体力的にはともかく、精神的な疲労が半端ではなかった。僅かでも判断を誤れば瞬時に切り捨てられる緊張感が、両者に加速度的な消耗を強いるのだ。

 それは後方で射撃に専念しているリィンも同じであった。体力の消費は前線の二人に比べて少ないが、精神と魔力の消費に関して言えば二人以上であった。敵と味方が絶え間なく動き回る中、適切なをしなければならないのだ。下手をすれば誤射さえあり得る重圧プレッシャーを感じながら、銃撃していたのだ。楽なはずがない。

 それでもリィンは努めて冷静な己を保ち、思考を加速させていた。

(あの八本の浮遊剣。見た限りではやっぱり半分くらいは自動で動いてる。だとすると──)

 アズハスから先んじて仕入れた浮遊剣ツクヨミの情報。昨日に目撃した八本四種類の《魔導器》を操る形態。それらを踏まえて組み立てた仮定を、一つずつ現実と照らし合わせていく。

「お二人とも、どうにか堪え忍んでください。私も全力で援護します」

 ──好機は必ず訪れますから。

 リィンが小さく付け足したその言葉に、騎士二人は頷いた。
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