「Ｒ-18」異世界で花の乙女になった少女 ～侯爵夫人への階段を昇る～

異世界での一歩

貴族の買い物1

　「皆、久しぶりね。おかわりないかしら？」侯爵夫人の挨拶に年配の商人達が頭を垂れ、それに続くかのように、商家の店員達も膝を付き頭をたれる。

　貫禄の有る男性が「侯爵夫人のお呼びとあれば、参じるのは当たり前の事でございます」
「そう」侯爵夫人は、当たり前のように頷く。
「皆に、紹介するわ。我が一族の花の乙女よ」
夫人は、隣に座る幼女の頭を愛しげに撫でる。

腰まで有る銀髪、大きな瞳は新緑を思わせながら、透けるようなミルク色の肌。　
百戦錬磨の商人達をもっても、滅多に見ない美しさだ。室内に、ため息が漏れる。


　幼子は、全てを無視するように静かに立ち上がる。

「リィ・ブロンです。良しなに」
頭を下げてはいけない。でも、高飛車はもっとダメだと思ったから、静かに正面を見据えた。

夫人が扇子を畳む音が微かにした。

私は、それを合図に静かに元の位置に戻る。

侯爵夫人の隣に再び座る為に。


　侯爵夫人が、再び幼女の頭を撫で、頭にキスを落とす姿を見た商人達は、侯爵家での幼女の立場を確認した。


　お母様が、最初に指名したのは、御用達デザイナーのアデル氏。
「リリィーのドレスを、お願いするわ。魔力検査の時、神殿に着ていくドレスと、園遊会のドレスをお願いね」

「奥様、謁見用のドレスは宜しいのですか？」

「侯爵家の代々のドレスがいいわ。格式高く、クラシックにしたいの」

「差しでがましい事をもうしました」

「いいのよ、気を使ってくれたのでしょう」

お母様は、アデル氏を隣に控えさせ、生地の見分をはじめます。


広い室内には、彩り豊かに布がひろげられて行きます。


いつの間にか、フリーゲルが隣に来ていて、小声で教えてくれた。

「リリィー、驚いてるね。叔母上の買い物には意味が有るんだ」

窓際に有る長椅子に２人で移動し、広い室内を見回します。

お母様の側には、装飾品、生地、美術品が並んでいます。

「リリィー、貴族の買い物には幾つかの意味が有るんだ、サイラスを見てごらん」

サイラスは、お母様から少し離れた場所で数人の商人と品物を見分しながら雑談をしていた。

「彼の持っている情報はバカには出来ないんだよ」
私が、背後に振り返るとフリーゲルは笑い掛けてくる。
「彼らは、サイラス様にとって必要な情報を持ってるの？」
「持っている場合も有れば、持って無い場合もある。でもね、侯爵家に商人として出入りしてる彼らは一流として認められ、一流と認められる為に彼らは日々、努力する」
「……………………………」


「叔母上は、買い求める品々を侯爵家て消費すると思う？」

お母様の回りには、一目で高価な品々が並べられ、高級な生地は、ダーツ買いをしている。

私は、静かに頭を振る。お母様は愚かでは無い。

「リリィー、宿題だよ。貴族社会では、１つの行動に複数の意味合いが含まれる事が多いからね」

「がんばります」
きっと、それは理解できないと、いけない事なんだと思ったから。


　私達は、広い室内に所狭しと置かれている品々の中を、まるで祭り見物のように見て回る。

すると、何匹か生き物が檻に入れられていたから立ち止まり、覗いてみた。

赤くて大きな蜥蜴。グレーの毛玉？青空色のスライム。
「お嬢様、此方の生き物は使い魔でごさいます」
商人さんが、教えてくれる。

グレーの毛玉と目が会って、視線を反らす事が出来ない。
「キュー、キュー、キュー」悲しそうな声で鳴くの。

「リリィ気になるの？」フリーゲルが幼女に問う。
「この子のお母さんは？」

「此は、巣から落ちてしまった子です。巣から落ちてしまった子を親は育てません」

なぜだか悲しくなってしまい、その場から離れられない。

「このグレーの丸は、なんなんだ？」サイラスが近づいてきた。

「魔梟の子にごさいます。雛は、滅多に手に入りません。大変な掘り出し物でごさいます」

「リリｲ欲しいのか？」

「……………」梟の使い魔、物語の魔法少年みたいだ。正直、欲しい。それに、可愛。
でも、大変な掘り出し物なんでしょ？
商人さん達が持ち込んだ品々に、値段は表示されて無い。
私、居候だよ。

リリィは、コテンと頭を傾ける。

「なら、私がリリィにプレゼントしよう」

「でも……いいの？」

「私にも、そのぐらいの物はプレゼントできるよ」

「フリーゲル様、ありがとう！」
嬉しい、嬉しい！私は彼に抱き付いていた。
彼は、私を抱き上げると「お姫様、褒美のキスが欲しいな」色っぽく囁く
彼の、頬っぺたにキスをしようとしたの。
でもね、彼が私の後頭部を抑えるように固定した。

抱き上げられていて、後頭部も固定されたら動け無いよね。

色っぽい貴公子の唇が、私の唇をふさいだの。
そして、そしてね「リリィの唇は甘いね」と、言って唇を舐めたんです。

お母様の、鈴のような笑い声がしたのは、気のせいだったのかな？