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少女は再び目覚める
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「好きにしなさい」
ノーストン子爵領に行きたい、私の要望に対して父である公爵の返答は、あっさりした物だった。
食事を終え自室に戻ってきた私は、ノーストン子爵家に伺う事を手紙にしたためエラに託した。
そして、父の事を考える。
父から、私への態度は至って素っ気ない。
ただし、私だけでは無いのだ。
現在の公爵夫人である、継母にもそんな態度で接している。
何を考えているか解らない、朴念仁。
そして宮廷においては議会の、議長を努めている。
過去、私が冤罪を掛けられた時の証拠の品は、私の部屋から発見されている。
父が、無関係とは思えない、注意人物である事にかわりない。
「お嬢様、お顔に皺がよってますよ。難しい事を考えているんですね」
エラは、紅茶をディスティニーに差し出す。
「そうね」
フーッと、ディスティニーは溜め息を吐き、エラの入れた紅茶を飲む。
「美味しいわ、ありがとう」
さすが公爵家ね、良質な茶葉だわ。朝食も美味しかったわね。
牢獄の中とは、比べものにならない。
ディスティニーには、冤罪で牢獄に入れられた過去の記憶がある。
毎日のように拷問をされたのだ。
爪を剥がされるなんて、優しい方だった。
血と廃棄物の匂いがする地下牢で、彼らに出会った。
邪神信仰をしている神官を先生と呼び、毎日のように邪神様に祈ったのだ。
彼は、私の知らない世間を良く知っていた。
そして、いろんな事を教えてくれたわ。
当時、帝国の民には鬱憤がたまっていた。
その様な時に、民が革命をお越し成功した国があり、その話しは瞬く間に民に広まった。
予測の出来ない時代だった。
一触即発、そんな感じね。
『皇室は、お前を贄にするんだろうな』
皇室の特徴を持ち合わせながらも、皇太子に捨てられて処刑される姉。
新興派の貴族に縁があるエリスが悪い姉の仕打ちに耐える健気な妹。
そんな妹が、皇太子妃になる事で民の鬱憤をはらす。
世間知らずなディスティニーでも、おかしいと感じる場面はあった。
何もかもが、ディスティニーに都合が悪いように進んでいたのだ。
でも、解らなかったのだ。誰が正しいのか、間違っているのか。
そんな日々の中キャサリンさんが好きだった、お茶の話しをしてくれた事もあった。
飲んでみたいわ。
「ねぇ、カモミールティーなんて知っている?」
「ええ、知っていますわ。ですが、下町の者の飲物ですよ」
「優しい味だと聞いたわ。急がないから用意しておいて」
カモミールティーに、蜂蜜を入れて飲むのが好きだったと彼女は言っていた。
赤毛の彼女は、泣きそうな顔だった。
ディスティニーは、紅茶を飲みほす。私は再びこの時代に帰って来た。そして、この時期に帰って来たならば、しなくてはならない事がある。
彼らを手中に納めたいわ。
本来ならば、エリスの従者になる少年達だ。
彼らは街の浮浪児で貴族の馬車相手に、当たり屋をしていたらしい。
しかし、エリスと継母が乗った馬車相手に失敗して、怪我をしてしまったのだ。
おそらく、来週に行く予定の芝居の帰りね。
エリスは彼らを可哀想に思い、拾って帰る事を母親に願った。
彼らは、優しい少女だと思ったのだ。
だが、エリスからしてみたら変わった猫を拾ったとしか思っていないだろう。
しかし、彼らの悲劇はここから始まる。
彼らは、病気の母親と幼い兄弟を養っていたからだ。
彼らが怪我が直り家に戻ると、彼らの母親と兄弟は死んでいたのだ。
何故かエリスも同行していたらしく、その縁でエリスの従者となった。
彼らは、私に対して威圧的だったわ。
この国を駄目にしている、旧貴族派の代表とでも思っていたのかしら。
エリスの恋の邪魔をする、意地悪な姉?
馬鹿みたいね。新興貴族だって、対して変わらないのに。
でも、彼らの能力は高い。
記憶があるアドバンテージをいかす為にも、彼らは私が手に入れるわ。
私なら、彼らの家族も拾ってあげる。
「ねぇ、神殿に行きたいわ」
「神殿ですか?」
「ノーストン子爵夫人の、病の平癒の祈祷に行きたいの」
「まあ、なんて、お優しいんでしょう」
エラは、外出の許可を取りに行ってくれた。
病の平癒、女神なんか信じていないわ。
神殿に、彼を探しに行く為の言い訳よ。
牢獄で、出会った先生。
エラ、本当の事を言えなくてごめんね。
必要以上に、貴女を巻き込みたくないの。
彼女は、どんな私でも受け入れてくれる。
だからこそ、秘密にしなくては。
外出の許可は、簡単にでたわ。
神殿に行く支度は、メイド達が性急に整えてくれる。
先程、着ていたドレスよりも押さえた色だが、上質な生地なのが解る。
部屋の中を見回す。
部屋の中は豪華な家具が置かれ、床には柔らかい絨毯が敷かれている。
公爵令嬢に相応し部屋。
でも愛着は無い、何故なら、この場所に私の家族はいないから。
「お嬢様、支度が整いましたよ」
等身大の鏡に映る、自分を確認する。
完璧だわ。
メイド達が、どや顔で私の反応をみているのよ。
「ありがとう。完璧ね」
笑顔よ、笑顔をメイド達に向ける。
なんか、メイド達の反応が温いわ。
なんか・・・・この空気が駄目だわ。
『仏頂面のガキよりも、笑顔のガキの方が、人は可愛く思うんだ』
牢獄で、先生が教えてくれた事を実行したみたのよ。
私は、この空気が駄目だと思い、足早に部屋を出た。
部屋の中から、歓声が聞こえたのは気のせいに決まってる・・・・筈よ。
最近、就職したメイド達だど思ったんだけど。
エントランスホールに行くと、公爵夫人とエリスが
談笑していた。
「お姉さま」エリスが無邪気な笑顔で、駆け寄ってくる。
彼らは、知っていたのかしら。
エリスが人目の無い所で、大量の虫を殺していた事を。
公爵夫人は私の姿を見ると、エリスに見せていた柔和な顔を歪め私を見ている。
「行って参ります」
「その姿で行くのかしら」
「何か、おかしいですか」
彼女は、私の問いに答えはしなかった。
夫人から、公爵家からの月々の御布施を預かる事になったが、馬車に乗り神殿に無事に向かう事ができた。
豪華な馬車に揺られながら、窓から帝都の街並みを眺めていると、大きな広場を視界がとらえる。
ここの広場で、何回か処刑されたのよね。
「お嬢様、顔色が悪いです。酔ってしまったのかしら」
「大丈夫よ。今日は馴れない事をしたせいかも」
エラは、私の姿を見る。
「ありがとう。嬉しかったわ」
「お嬢様」
私は、広場から目を離さなかった。
ノーストン子爵領に行きたい、私の要望に対して父である公爵の返答は、あっさりした物だった。
食事を終え自室に戻ってきた私は、ノーストン子爵家に伺う事を手紙にしたためエラに託した。
そして、父の事を考える。
父から、私への態度は至って素っ気ない。
ただし、私だけでは無いのだ。
現在の公爵夫人である、継母にもそんな態度で接している。
何を考えているか解らない、朴念仁。
そして宮廷においては議会の、議長を努めている。
過去、私が冤罪を掛けられた時の証拠の品は、私の部屋から発見されている。
父が、無関係とは思えない、注意人物である事にかわりない。
「お嬢様、お顔に皺がよってますよ。難しい事を考えているんですね」
エラは、紅茶をディスティニーに差し出す。
「そうね」
フーッと、ディスティニーは溜め息を吐き、エラの入れた紅茶を飲む。
「美味しいわ、ありがとう」
さすが公爵家ね、良質な茶葉だわ。朝食も美味しかったわね。
牢獄の中とは、比べものにならない。
ディスティニーには、冤罪で牢獄に入れられた過去の記憶がある。
毎日のように拷問をされたのだ。
爪を剥がされるなんて、優しい方だった。
血と廃棄物の匂いがする地下牢で、彼らに出会った。
邪神信仰をしている神官を先生と呼び、毎日のように邪神様に祈ったのだ。
彼は、私の知らない世間を良く知っていた。
そして、いろんな事を教えてくれたわ。
当時、帝国の民には鬱憤がたまっていた。
その様な時に、民が革命をお越し成功した国があり、その話しは瞬く間に民に広まった。
予測の出来ない時代だった。
一触即発、そんな感じね。
『皇室は、お前を贄にするんだろうな』
皇室の特徴を持ち合わせながらも、皇太子に捨てられて処刑される姉。
新興派の貴族に縁があるエリスが悪い姉の仕打ちに耐える健気な妹。
そんな妹が、皇太子妃になる事で民の鬱憤をはらす。
世間知らずなディスティニーでも、おかしいと感じる場面はあった。
何もかもが、ディスティニーに都合が悪いように進んでいたのだ。
でも、解らなかったのだ。誰が正しいのか、間違っているのか。
そんな日々の中キャサリンさんが好きだった、お茶の話しをしてくれた事もあった。
飲んでみたいわ。
「ねぇ、カモミールティーなんて知っている?」
「ええ、知っていますわ。ですが、下町の者の飲物ですよ」
「優しい味だと聞いたわ。急がないから用意しておいて」
カモミールティーに、蜂蜜を入れて飲むのが好きだったと彼女は言っていた。
赤毛の彼女は、泣きそうな顔だった。
ディスティニーは、紅茶を飲みほす。私は再びこの時代に帰って来た。そして、この時期に帰って来たならば、しなくてはならない事がある。
彼らを手中に納めたいわ。
本来ならば、エリスの従者になる少年達だ。
彼らは街の浮浪児で貴族の馬車相手に、当たり屋をしていたらしい。
しかし、エリスと継母が乗った馬車相手に失敗して、怪我をしてしまったのだ。
おそらく、来週に行く予定の芝居の帰りね。
エリスは彼らを可哀想に思い、拾って帰る事を母親に願った。
彼らは、優しい少女だと思ったのだ。
だが、エリスからしてみたら変わった猫を拾ったとしか思っていないだろう。
しかし、彼らの悲劇はここから始まる。
彼らは、病気の母親と幼い兄弟を養っていたからだ。
彼らが怪我が直り家に戻ると、彼らの母親と兄弟は死んでいたのだ。
何故かエリスも同行していたらしく、その縁でエリスの従者となった。
彼らは、私に対して威圧的だったわ。
この国を駄目にしている、旧貴族派の代表とでも思っていたのかしら。
エリスの恋の邪魔をする、意地悪な姉?
馬鹿みたいね。新興貴族だって、対して変わらないのに。
でも、彼らの能力は高い。
記憶があるアドバンテージをいかす為にも、彼らは私が手に入れるわ。
私なら、彼らの家族も拾ってあげる。
「ねぇ、神殿に行きたいわ」
「神殿ですか?」
「ノーストン子爵夫人の、病の平癒の祈祷に行きたいの」
「まあ、なんて、お優しいんでしょう」
エラは、外出の許可を取りに行ってくれた。
病の平癒、女神なんか信じていないわ。
神殿に、彼を探しに行く為の言い訳よ。
牢獄で、出会った先生。
エラ、本当の事を言えなくてごめんね。
必要以上に、貴女を巻き込みたくないの。
彼女は、どんな私でも受け入れてくれる。
だからこそ、秘密にしなくては。
外出の許可は、簡単にでたわ。
神殿に行く支度は、メイド達が性急に整えてくれる。
先程、着ていたドレスよりも押さえた色だが、上質な生地なのが解る。
部屋の中を見回す。
部屋の中は豪華な家具が置かれ、床には柔らかい絨毯が敷かれている。
公爵令嬢に相応し部屋。
でも愛着は無い、何故なら、この場所に私の家族はいないから。
「お嬢様、支度が整いましたよ」
等身大の鏡に映る、自分を確認する。
完璧だわ。
メイド達が、どや顔で私の反応をみているのよ。
「ありがとう。完璧ね」
笑顔よ、笑顔をメイド達に向ける。
なんか、メイド達の反応が温いわ。
なんか・・・・この空気が駄目だわ。
『仏頂面のガキよりも、笑顔のガキの方が、人は可愛く思うんだ』
牢獄で、先生が教えてくれた事を実行したみたのよ。
私は、この空気が駄目だと思い、足早に部屋を出た。
部屋の中から、歓声が聞こえたのは気のせいに決まってる・・・・筈よ。
最近、就職したメイド達だど思ったんだけど。
エントランスホールに行くと、公爵夫人とエリスが
談笑していた。
「お姉さま」エリスが無邪気な笑顔で、駆け寄ってくる。
彼らは、知っていたのかしら。
エリスが人目の無い所で、大量の虫を殺していた事を。
公爵夫人は私の姿を見ると、エリスに見せていた柔和な顔を歪め私を見ている。
「行って参ります」
「その姿で行くのかしら」
「何か、おかしいですか」
彼女は、私の問いに答えはしなかった。
夫人から、公爵家からの月々の御布施を預かる事になったが、馬車に乗り神殿に無事に向かう事ができた。
豪華な馬車に揺られながら、窓から帝都の街並みを眺めていると、大きな広場を視界がとらえる。
ここの広場で、何回か処刑されたのよね。
「お嬢様、顔色が悪いです。酔ってしまったのかしら」
「大丈夫よ。今日は馴れない事をしたせいかも」
エラは、私の姿を見る。
「ありがとう。嬉しかったわ」
「お嬢様」
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