令嬢の願い~少女は牢獄で祈る~

Mona

文字の大きさ
18 / 19
過去と未来

1

しおりを挟む
 帝都からノアール子爵領までは、馬車で片道10日ほどの行程になる。

 ノアール子爵領は領土こそ狭いが、実り豊かな土地である。

故に、子爵家の中では財政的には豊かな分類にはいる。

 祖母は先代子爵の末の妹と産まれ、城に女官見習いとして上がったらしいが母を身籠った身体で子爵領に戻ったのだ。

祖母は母の幼い頃に無くなり、先代の子爵夫妻も娘を追うように亡くなった。

母を育てたのは従兄にあたる子爵と、その夫人だ。

祖母と先代子爵は、かなり年のひらいた兄妹だったのだ。


 私と子爵夫妻との面識は、ほぼ皆無だが折に触れ手紙が届いていた。

手紙には、私を思いやる文面に溢れていた。

今までの私は、手紙が来るのをとても楽しみにしていたものだ。

だが、子爵夫人の病の知らせを受け取っても、会いにはいかなかった。

父と継母に、言い出す事が出来なかった。

過去の時間の私は、なんと愚か者だったのだろう。



「ティニー、後少しで着くみたいだよ」
隣に座っているジェイが、私の顔を覗いている。

本来の性分なのか、この10日間の彼は同行した公爵家の騎士達と仲良くなったらしく、基礎の範囲だが剣を教えてもらっていた。

そして

「ティニー又無表情になっているよ」
私の頬っぺたを持ち上げて、強制的に笑顔にしてくれる。

本来の私は無表情になりがちだが、最近、対面的な笑顔は習得した。

しかし、気を抜くと無表情に戻るらしい。

彼は私を強制的に笑顔にすると、御手本とでも感じで笑顔を私に向ける。

「ティニーの貴族令嬢的な笑顔も綺麗だけどね、今みたいな笑顔も素敵だよ」

「・・・・ありがとう」
顔が・・・・わからない。只、ムズムズしてしまう。

天然のタラシパワー、女性の敵が降臨しているのだけが分かる。


 そんなやり取りがされている横を尻目に、先生とアンリは高度なやり取りをしている。

やはり、彼の頭脳は優秀なのか教えられた事を貪欲に吸収していく。

そして、応用していくのだ。

今の彼が、私を抜く日も遠く無いだろう。

 
 先生と、接する時間はそれなりに有る。しかし、彼は私が死んでからの情報は、制限している。

はっきり言えばもどかしいのだ。

只、私が生き方を決めれば教えるとだけ言われた。

『激しい渦の中で生きないなら、未来など知らない方が良い』

確かに、確かにそれが正論かも知れない。

でも、私は・・・・。




 「ティニー御屋敷が見えてきたよ」

ジェイの声で、青空が広がる馬車の外を見る。

萌えゆる緑の中に、小ぶりだが瀟洒な建物が見えてきている。

馬車の窓を開けると、緑の匂いがする風を感じた。

館の前には人影がちらほらと見え、此方に手を振っている。

祖母と母が産まれ育った土地に私はやって来たのだと実感する。


馬車から降りこの土地に足跡を着け、身体一杯に風を吸い込むと、生きている事が素晴らしいように思えてしまう。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...