SF短編集

ショー・ケン

文字の大きさ
3 / 39

ヘラ、人形

しおりを挟む
 世界はすでに、進化した人類、アンドロイドを超えた。ネオロイドに支配されていた。体は機械だけではなく、ところどころ代用可能の生体部品で更生されていた。だが、むしろその体が生物的であるがゆえに、彼らの欲求も生物的なものだった。

 奇妙な逆転が生じた。彼らは機械を超える知能をもっていたために、機械的なものを欲した。今では彼らのほうがAIの支配権をえて、人工的なものを拒絶する。そして、拒絶しながらも機械的なものを欲した。

 例えば、アプリ、ゲームなどだ。決してこちらを裏切ることがなく、一定の変化と反応が決まりきった物語は、確約されない世界への不安を抑えるために人が欲した。さらには、その愛玩性は、恋人を持たず、欲する事のない人にとって癒しだった。

 そこで貧乏な旧型の人類たちの中には、彼らに愛される事で、決してうらぎらない事によって、生き抜くことを選んだものたちがいた。

 人の用意したキャラクター像、しぐさ、経歴などを頭に叩き込み、アプリゲームなどのキャラクターになり切るのだ。そうして仕事と生活を得たものの中には、旧人類としては珍しく、大金持ちになるものたちが大勢いた。

 ヘラもまた。そうだった。しかし、ヘラは自分でキャラクターを選び、なりきった。というよりも“素”の自分を演じるそのことで、愛玩人間として、ネオロイドに愛された生活をおくっていた。

 彼女は、すべての選択を自由に得られた。仕事をするのも学校にいくのも、趣味をするのも、何でも自由だ。飼い主に対しての行動も自由。だから彼女は飼い主を愛していた。

 飼い主は、そんな時代にあって人間の事を愛している。優れた人間なのだろうと信じていた。あの事実を知るまでは。

 彼女は、ある時飼い主の留守中に入るなといわれていた飼い主の部屋に入った。そこで、恐るべき飼い主の仕事をしるのだった。飼い主の仕事は、
“愛玩人間”
 の売人だった。ただ、それだけなら構わなかっただろう。だが最も恐ろしいことには、彼は遺伝子から人間を選択することができた。まるで神になったような気分だったろう。それも、きにならない。彼女が絶望したのは彼の日記を見てからだ。彼は
、何十年の前に妻をうしなっていたのだ。その妻の名前がヘラと同じであった。思えばヘラは物心つく前にこの家にひきとられ、自由に育てられた。まさか、と思い、そのページを次々にめくった。彼女の体、顔の特徴、正確すべてが記録、分析されていて、その日記が記されていた。最後のページにはこう書かれていた。
「ヘラは完成した、彼女は事故で死に、不幸にも彼女自身がバックアップをとっていなかったために再生はできなかった、しかし彼女は、生きかえった、旧型の人間としてだが、私はそこに差別をしない、また、幻想を愛して強要することもない、ただ、ありのままを愛するのだ」

 飼い主が帰ると、ヘラは自殺をしていた。それでも主人は気づかなかった。自分が、ほかの愛玩人間を扱う人間と同じ用に、他者に自分でない存在であることを求めている事を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...