SF短編集

ショー・ケン

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美醜偏見

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 AとBは男同士親友だ。大学の休みには、ヴァーチャルネットの空間で、様々な人と接触して遊んだり、からかったりしていた。

 だが現実と仮想現実での評価は、総合するとまちまちだった。それぞれ、得意分野が逆なのだ。Aは仮想特化、Bは現実特化。

 ネットのヴァーチャル空間を探索していると、動画配信をしたり、他のアバターと接触しているC子という人がいた。身なりがとてもきれいだし、顔も体の形もいいが、ただネットでは、いくらでも加工ができる。いまこのヴァーチャルネットでは、元の顔を少し加工するのがはやっていた。少し前の動画アプリなんかに近い部分がある。だがあまりに加工が激しすぎると、整形を疑われる。

「こんにちは!」
「こんにちは」
「ホラ、俺の代わりに話してくれよ」
 とB。
「やあ、ひさしぶり、かわいい衣装だね、これは何をイメージしたの?そう、俺も最近そういうの好きでさ」
 とA
 まるでヴィチューバーのように、アバター役のBと、声を演じるAに分かれていた。Bは時たまいかがわしい質問をするように要求したり、セクハラまがいのことを言わせようとする。額に汗をかきながら、程よくかわすのがAの役目だった。

「ところでさ、このコミュニティじゃ、実際の顔をベースに加工をいれてるだろ?君の本当の顔がみたいな、ほら、知り合ってから結構ながいだろ?」
「え?でも私……」
 見るからに美少女っぽい加工があり、何度となくBの指図で、Aは彼女にしつこくせまった。Aは彼女の内面に興味がわいてきた、というより本当に好みだった。でも現実ではひどくおっくうで、対面してコミュニケーションをとるのは下手、顔も地味だ。反対にBは、対面でのコミュニケーションが得意で、顔もカッコいい。Aにさえ高圧的に来ることもある。
「チッ、もういいや、別の子にいこうぜ」
「本当にいいの?」
「ああ、どうせ整形でもやってるか、醜い女だ」
「いや、それは……」
 彼女に対する世間の評価、インターネットでの評判も同じく、どこか整形くささがあるという評判だった、胸だの顔だの違和感がありすぎると。
「はあ、もったいない」
「あ?なんだよ」
「いや、なんでもない」

 別に特に深い意図はなかったが、Bの命令だけに従っているのも退屈なので、AはだまってCに接触してみようと、次の休日に暇をつくって、彼女と“現実”で待ち合わせをした。チョットした冒険だった。
「こんにちは」
「こ、こんにち、は」
 相手がひどくおどおどしていて、サングラスにマスクといういでたちだった。格好は派手過ぎないが今時という感じで、色合いはかわいい。Bはあんな女とかかわるなといったがAはむしろ自分に似ているようなその態度に感銘をうけて、彼女と食事をすることになった。そして、やがて夕暮れの公園、ベンチに座って缶コーヒーを進める。
「ごめんね、君に話さなきゃいけないことが」
 そういって、これまでの事を話した。そういえば、この子は自分の平凡な顔を見ても何もいってこなかった。腕を組んで、前かがみになった。
「大丈夫、です、私も、嘘をついてましたから」
 そういわれて顔を上げると。そこにはこれまで見たことがないような美しく可憐で、スタイルのいい少女がいた。
「なんとなく、あなたの心と体がちぐはぐなきがしていて、でも今目の前にして、私はようやく、あなたの存在が一致しました、あなたは私に似ている、それだけで十分です」
 その詩的な言い回しを気に入って、まずは友達から、いやゆくゆくは……Aはどこかで、この人と結婚するだろうという、既婚者のよくある直感めいたものを感じたのだった。

 やがて、一週間ほどたったあとにBは再び相談をもちかけてきた。相変わらず、似たようなことをしようといってきたが、Aは遠回しに彼の良さは別にあると伝えてやった。それでもしつこくこんなことをいうのだ。
「でもさあ、ネットでまたさ、周回してたらかわいい子いるんだけどさ、顔に自信がないんだよ“また”整形しようかな」
Aは答えた。
「ほどほどにしなよ、コンプレックスには限りがないからさ」
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