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念じる人
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あるところに村八分の青年が住んでいた。子供のころから長く人と接しず、関わらないため言動もおかしかった。彼に原因があったのではなく、彼の祖父が植物のようになる奇病だったので、伝染を恐れた人は彼の家族を村のはずれに隔離したのだった。
それからずいぶん、村の態度が変わることはなかった。子孫に伝染しない事がわかっても何もかわらない。しかし、この青年の代である変化がおきた。この村の名主で、いわゆる良い家系の一人娘が、この青年をよく気にかけていたのだ。
さすがに直接あったり触れたりはしなかったが、時折畑でとれた野菜などを分け与えにいっていた。屋敷のそとにいき中に呼びかけ、返事がなくても食べ物を置く。
その青年は何度か自殺を図ったことがあったが、運よく、医者に助けられていた。医者というのも、とても知的で冷静で、この奇病が移る事などないとしっていたため、長く村人を説得していた。だが村人は、怖れおののいていた。
ある時のこと、風邪で寝込んでいるとその医者からきいた娘は、男のところに、いつものように、そしていつもより豪華な、川魚もおいていった。
その翌々日の事だ。娘はその日ぐっすりねむっていたが、困ったことに夜中のうちにその青年が村にたちいり、かつ、その家の屋敷に立ち入ったのだと、朝方両親から話をされた。両親はひどくおこっており、
「夜這いをする、恩をあだで返す奴だ、これ以上関わるな」
といった。娘は、それでも彼の事をきにしていた、なぜなら彼はきっと恩返しにきたのだとわかっていたから、その作法は無粋で無遠慮なものだったが、彼女の寝床にはこの地方では珍しい花がおかれていたのだ。
それから2年ほどたったあるころ、村に疫病がはやった。人から人へ移る病だというので、人々は戸を閉め切り、なるべく畑にでないようにした。そうしていると作物の収穫が減るので、人々はどんどんよわっていった。
その時だった、恐ろしい噂が流れたのは。
「最初にこの病で死んだのは、あの医者らしい」
確かに、この村の医者が死んだのは皆しっていたが、その後に続く噂がまた奇妙なものだった。
「医者が亡くなる前、そして病が流行する前に、あの村八分の青年が、奇妙な儀式を始めたのだという、なんでも呪術に関連するもので、それらにくわしいものが、青年の捨てたゴミからその痕跡を発見したのだと、他に屋敷であったやりとりを盗み聞きした奴の話では、奴はそもそも、日頃から世話になっている医者に“死にたい”とばかり文句をいって“なぜ死なせてくれぬ”と不満や怒りをぶつけておっていたらしい、つまり、彼はその呪術を使い、ついに医者にを殺した、その後で、村人を普段から恨んでいただろう彼は、疫病をはやらせたのではないか」
と。
娘はその話を耳にすると、やはり無理して青年のもとに食べ物をとどけたりした。自分では無理なので侍女などをつかって、こう命じた。
「彼がひどい人だという人もあるけれど、そんなことはないわ、彼のところは土がよくないから、皆で協力して助けなければ、彼は、村のものに不当な扱いをされている、自殺しようとしているし、誰かが面倒をみなければ……」
あるとき、村でその男の家を焼き討ちにしようという話があった。娘の両親はとめたが、食料がなく精神的に参っていた村人たちは止まることがなかった。話し合いで表面上焼き討ちはやめになったのだが、ある深夜、男の屋敷に松明をもった男たちがおしいった。
両親も鬼でもないので、そのことを娘に話そうか悩んでいたころ、ちょうど娘がその日眠れず、両親の話を盗み聞きした、事実をしった娘は急いでその夜のうちに青年のもとへいそいだ。すでに人々は屋敷をかこっており、外へ幾人か、中へ幾人かが侵入していた、いそいで男たちをかきわけ、屋敷にはいりそこで彼女がめにしたものは凄惨な光景だった。
青年はすでに死んでいた。体中に奇妙な文字を刻み、村を呪いながら。両親の監視も厳しくなり、家からでられず、青年に会う事ができなかった娘は、その姿をみてふつふつと怒りがわきたち、周囲のものを咎めた。
「殺したの!!」
「違う!!」
「死んでいたんだ、本当だ」
周囲のものはうろたえながら、殺しを否定し、ある文書をさしだした。
「これが遺書だ」
「自殺だよ」
そこにはこう書かれていた。
背景○○様(名主の娘)様。
私は本当は、噂にあるように村の人と村を呪い殺そうと一時期おもっておりました、ですが、そうしたことを考えるたび、あなたの事を思い出したのです、ですがあなたが来なくなってから、私は、むしろあなたの行いにより一層感謝するようになった、そして私は今度の疫病に出会い、決心しました、私が会得した呪いの方を、このために使おうと、そして、あなたと、村人を、疫病から守る事にしました、その代わりにある代償を必要としたのです、それは私です
その後も文章は、例の宵に作法もしらず忍び込んであとから医者に注意されたことや、今までもらったものをすべて書き記し保存してあることなどがかかれていた。娘は、その“呪術”がいかなるものであろうと、哀れな青年の最後にいたたまれなくなり、青年の亡骸によりそい、謝りつつ、泣いたのだという。
そしてそれ以降、村では疫病がぴったりとやみ、それからずっと、流行り病が国を覆っても、その村だけは、健康な人が多かったそうな。
それからずいぶん、村の態度が変わることはなかった。子孫に伝染しない事がわかっても何もかわらない。しかし、この青年の代である変化がおきた。この村の名主で、いわゆる良い家系の一人娘が、この青年をよく気にかけていたのだ。
さすがに直接あったり触れたりはしなかったが、時折畑でとれた野菜などを分け与えにいっていた。屋敷のそとにいき中に呼びかけ、返事がなくても食べ物を置く。
その青年は何度か自殺を図ったことがあったが、運よく、医者に助けられていた。医者というのも、とても知的で冷静で、この奇病が移る事などないとしっていたため、長く村人を説得していた。だが村人は、怖れおののいていた。
ある時のこと、風邪で寝込んでいるとその医者からきいた娘は、男のところに、いつものように、そしていつもより豪華な、川魚もおいていった。
その翌々日の事だ。娘はその日ぐっすりねむっていたが、困ったことに夜中のうちにその青年が村にたちいり、かつ、その家の屋敷に立ち入ったのだと、朝方両親から話をされた。両親はひどくおこっており、
「夜這いをする、恩をあだで返す奴だ、これ以上関わるな」
といった。娘は、それでも彼の事をきにしていた、なぜなら彼はきっと恩返しにきたのだとわかっていたから、その作法は無粋で無遠慮なものだったが、彼女の寝床にはこの地方では珍しい花がおかれていたのだ。
それから2年ほどたったあるころ、村に疫病がはやった。人から人へ移る病だというので、人々は戸を閉め切り、なるべく畑にでないようにした。そうしていると作物の収穫が減るので、人々はどんどんよわっていった。
その時だった、恐ろしい噂が流れたのは。
「最初にこの病で死んだのは、あの医者らしい」
確かに、この村の医者が死んだのは皆しっていたが、その後に続く噂がまた奇妙なものだった。
「医者が亡くなる前、そして病が流行する前に、あの村八分の青年が、奇妙な儀式を始めたのだという、なんでも呪術に関連するもので、それらにくわしいものが、青年の捨てたゴミからその痕跡を発見したのだと、他に屋敷であったやりとりを盗み聞きした奴の話では、奴はそもそも、日頃から世話になっている医者に“死にたい”とばかり文句をいって“なぜ死なせてくれぬ”と不満や怒りをぶつけておっていたらしい、つまり、彼はその呪術を使い、ついに医者にを殺した、その後で、村人を普段から恨んでいただろう彼は、疫病をはやらせたのではないか」
と。
娘はその話を耳にすると、やはり無理して青年のもとに食べ物をとどけたりした。自分では無理なので侍女などをつかって、こう命じた。
「彼がひどい人だという人もあるけれど、そんなことはないわ、彼のところは土がよくないから、皆で協力して助けなければ、彼は、村のものに不当な扱いをされている、自殺しようとしているし、誰かが面倒をみなければ……」
あるとき、村でその男の家を焼き討ちにしようという話があった。娘の両親はとめたが、食料がなく精神的に参っていた村人たちは止まることがなかった。話し合いで表面上焼き討ちはやめになったのだが、ある深夜、男の屋敷に松明をもった男たちがおしいった。
両親も鬼でもないので、そのことを娘に話そうか悩んでいたころ、ちょうど娘がその日眠れず、両親の話を盗み聞きした、事実をしった娘は急いでその夜のうちに青年のもとへいそいだ。すでに人々は屋敷をかこっており、外へ幾人か、中へ幾人かが侵入していた、いそいで男たちをかきわけ、屋敷にはいりそこで彼女がめにしたものは凄惨な光景だった。
青年はすでに死んでいた。体中に奇妙な文字を刻み、村を呪いながら。両親の監視も厳しくなり、家からでられず、青年に会う事ができなかった娘は、その姿をみてふつふつと怒りがわきたち、周囲のものを咎めた。
「殺したの!!」
「違う!!」
「死んでいたんだ、本当だ」
周囲のものはうろたえながら、殺しを否定し、ある文書をさしだした。
「これが遺書だ」
「自殺だよ」
そこにはこう書かれていた。
背景○○様(名主の娘)様。
私は本当は、噂にあるように村の人と村を呪い殺そうと一時期おもっておりました、ですが、そうしたことを考えるたび、あなたの事を思い出したのです、ですがあなたが来なくなってから、私は、むしろあなたの行いにより一層感謝するようになった、そして私は今度の疫病に出会い、決心しました、私が会得した呪いの方を、このために使おうと、そして、あなたと、村人を、疫病から守る事にしました、その代わりにある代償を必要としたのです、それは私です
その後も文章は、例の宵に作法もしらず忍び込んであとから医者に注意されたことや、今までもらったものをすべて書き記し保存してあることなどがかかれていた。娘は、その“呪術”がいかなるものであろうと、哀れな青年の最後にいたたまれなくなり、青年の亡骸によりそい、謝りつつ、泣いたのだという。
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