完璧な教師の鏡だと思っていた人気者教師がとんだ変態野郎でした

をがたつき

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第10話

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湿った空気に肌が汗ばむ。
空を見ると黒く淀んだ雲が空を覆っていた。

あれから相澤先生とは一度も口を聞いていない。
帰りも一人で歩いて帰る日々が続いていた。

上田は朝会うと挨拶こそ交わすが、それ以上話しかけてくることはもう無い。

――気まずいな。

原因は自分にあると言うのにそれでも気が重くて、長いため息をつく。

ホームルームで配られた名前の書いてある封筒の中身を見ると、三者面談の日時が書かれてある。

憂鬱だ。

この状態で相澤先生と志望校や将来の事を話す気には到底なれない。それに母親も一緒というのがかなり気まずくて、逃げ出してしまいたい気持ちになった。



***



三者面談当日。
母親と車に乗って学校へ向かう。

憂鬱な気持ちのまま俺は黙って車の後部座席に座っていた。母親も特に話しかけては来ない。

車内には沈黙が流れる。

母親と俺はここ暫く滅多に顔を合わせることは無かった。あったとしても軽く挨拶をするくらいで、稀に口を開いたと思えば大抵は成績や将来の大学の話だったから俺は辟易していた。

自分から話しかけたくもない。また成績の話になって、畳み掛けるようにプレッシャーを与えられるのはごめんだ。

車が校門をくぐって駐車場に入る。
車から降りて、刺すような強い西日に目を細めた。

校舎に入って教室の前まで行くと廊下に椅子が置いてあって、そこに座って待つような形だった。

座って待っていると、教室の中から微かに相澤先生の声が聞こえる。それだけで胸がざわざわして気が落ち着かない。

暫くして教室からクラスメイトが親と一緒に出てくる。

母親が丁寧に頭を下げて「こんにちは」と挨拶する。俺もそれに続くように軽く頭を下げた。


ガラリ、と教室の扉あいて、相澤先生が出てくる。目があって、久しぶりに見つめられて胸がぎゅうと苦しくなる。

「こんにちは。先生、今日はよろしくお願いします」

深々と丁寧に頭を下げる母親に、俺もつられて頭を下げる。

「東條さん。今日はわざわざ来ていただいてありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

相澤先生も深く腰を折って頭を下げる。

丁寧な挨拶をしている様子を見ていると何だか普段とは違ってちゃんとした大人に見えて不思議だ。

教室に入って、促された席に母親と横に並んで座る。母親の向かい側に相澤先生が座った。

「早速なんですが、まずは普段の夏和くんの様子から話させて貰いますね。勉強面では自ら進んで取り組んでくれて、どの教科の担当の先生も夏和くんの授業態度を褒めてます。ほかの生徒達との交流でも、困っている子がいたら夏和くんから声を掛けて自分のものを貸してあげたりして助けてくれている様子もあって、普段からよく周りを見ている賢くて優しい子だと思います」

自分の事をそんな風に細かいところまで見られていて驚く。伊達に担任じゃないんだな、と少し感心する。

相澤先生に手放しで褒められて恥ずかしさで落ち着かない。

「そんな事より先生、成績のほうはどうなんでしょうか」

母親がそう言って、相澤先生の表情が一瞬ぴたりと止まる。

「ああ、ええと。中間や期末テストはいつも一番ですし、小テストでも一番をとっていて物凄く頑張ってると思います」

「はあ、でも塾の模試ではT大学は厳しいんじゃないかって言われてるんですよ。このままでは駄目なんです先生、もう少し学校の方で出来ることはありませんか?」

「ええと、そうですね……大学の話は夏和くんの方からも聞きたいと思っていまして」

「夏和もT大に行きたいと思ってますよ」

「あの、夏和くんの意見は……」

「学校のテストなんか一番を取れて当たり前なんですよ。あんな小テストだって内容を見ましたけど簡単過ぎませんか?夏和にはもっと難易度の高いテスト内容じゃないと合ってないんです。このままじゃT大を目指すのも危ういんだから。夏和、分かってるの?」

「……T大には行きたくない」

心がすう、と冷えていくのが分かる。
ずっと我慢していたどす黒い感情が溢れ出て、苛立ちに声が震えた。

「は?あなた何言ってるの?」

母親の冷たく鋭い声がする。でも今の俺にはその声が憎らしくて高ぶる感情の火に油を注ぐだけだった。

「だから、T大には行きたくないって言ってるだろ。勝手に母さんが一人で俺の事まで決めて可笑しいと思わないの?そんなに自分勝手だから父さんにも逃げられるんだろ」

苛立ちで大きくなった声が教室に響く。

母親は俺の言葉に唖然としている。そして、みるみる顔を赤くして激怒した。

「あなた、自分が何を言ったかわかってるの!?」

叫ぶような怒号に鼓膜が痛む。
俺はこの場に居られなくなって、思わず教室を飛び出した。

「っ、東條!」

相澤先生の焦った声がする。でも、追いかけては来ない。

どいつもこいつも、と思う。

みんな自分本位で、俺の気持ちなんて何も分かっちゃいない。

涙で視界が滲んでも、走り続けた。


――本当は、分かっている。

母親の言いなりでしか生きられなくて、今まで自分で何かを決めようともしなかった。

父親が出ていった時も、本当は捨てられたんじゃないかと怖くてその事からも逃げた。

誰にも見て貰えなくて、自分とは正反対の上田に嫉妬までして、酷いことを言って、それがとても惨めで――。

卑しくて、弱くて、自分本位なのは他でもない自分自身なんだって事に、本当は気づいていたんだ。

階段を駆け上がって、屋上に出る。
立ち止まると、一気に体が熱くなって汗が吹き出る。

首に垂れる汗を脱ぐって、屋上のフェンスにもたれかかった。

遠くから鳥の鳴き声がして緩やかな風が吹く。
俺はこんなだって言うのに、世界はこんなにも平穏だ。

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