ようこそ幼い嫁候補たち ③

龍之介21時

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憎奪戦争編

夜の告白

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【ヘルメスの街約100km付近の平野部】
「だいぶ暗くなってきましたね…今日はこの辺で休むのが良いかと思うのですが…」

夕方前に必要な携行品を買い揃えたアルバート家族(ファミリー)と聖騎士勇者隊の7人は、2頭引きの馬車にアリス、カルーア、サーシャ、ヨシュアの4人。1馬引きの馬車にミャンジャム、アドル、メリーズの3人が乗って移動していた

夜の20時頃だろうか?陽は完全に沈み辺りは真っ暗な世界になろうとしていた。本来は明るさが残っている内に、テントなりの用意をするのだが…
ヒイロの身を案じるカルーアの気持ちを汲み、少しでも長く移動したようだ。流石にカルーアもその配慮に気付いていたので「就寝準備を始めましょう」というミャンジャムの提案を素直に受け入れた

……………………………………………

「さて、豚野菜(トンシル)スープが出来ましたの!握り飯もありますから食べて欲しいですの!」

「美味しいよサーシャ……その、ごめんね。わたし焦ってた。好きな人と一緒に居たいって気持ちコハラコも同じだろうに、わたし自分の事ばかり考えてたよ…ごめんね」
 

カルーアはヒイロの事が心配なので早く会いたい!その気持ちはつい先程まで抑えられなかった。馬車を止めた今、コハラコを留守番させたサーシャの気持ちを気遣える、多少の余裕がようやく芽生えていた

「コハラコには悪かったな。サーシャも気になるだろうが…我慢してくれよ」

コハラコを心配するサーシャに声を掛けるヨシュア。その彼にアドルが質問する

「どうして、あんなに頑(かたく)なにコハラコちゃんに留守番をさせたんだい?」

「そっか、20年前の大戦の経験者は誰も居ないから知らないよな…俺も親父(キウ)から聞いた話なんだけどよ…
20年前、前魔王(ザッド)の城はクラウン城とマリニウム城から挟撃されたんだけどな。クラウン城の軍勢には主力部隊をあてて、マリニウム城の部隊にはアンデット部隊をあてたらしいんだ」

「コハラコと同じアンデットかい?」

カルーアの質問に答えるヨシュア

「あぁ、しかもだ。アンデット部隊を率いていたのは吸血鬼(ヴァンパイア)の真祖【ディー・アモン伯爵】だって話だ」

「それじゃ…20年前の大戦を知るマリニウムの人々は吸血鬼に強い恐怖と憎しみを抱いている。という事ですの!?」

「そうだ!もしマリニウム地方内で、吸血鬼(ヴァンパイア)が紛れている事がバレたらどうなるか?考えなくても分かるだろ?」

20年前の大戦を知るマリニウムの人々には、吸血鬼(ヴァンパイア)こそ最大の敵であろう。その【ディー・アモン】とコハラコが無関係だと声を大にしたところで…人から見たら同じ吸血鬼として見られるのは間違いない!

「そんな事があったんだね…そりゃ吸血姫のコハラコは絶対に連れて行けないね。エルデスさんに相手してもらう為に残ってもらって助かったよ」

「構わねーよ!たまには小煩(こうるさ)いエルデスが居ない旅を満喫したいと思っていたところだったからな、気にすんな!」


晩ご飯を食べ終えるとメリーズはカルーアと話していた。ミャンジャムとアドルはサーシャと話している
メリーズとカルーアは同じ魔法使いで、アドルとミャンジャムは今までの戦いで完治仕切らない怪我を観てもらっている

「どうしたアリス?元気ねーな」

1人で離れた場所でホットミルクを飲むアリス。寂しそうな彼女の顔を見つけたヨシュアが、元気を付けにきたようだ

「うん…弱いアタシじゃ、妹たちの役に立てないんじゃないか?って不安なの…考えなく行動しちゃうし…料理もダメダメだし…」

「気にすんなつったろーが!お前の1番の武器は明るさと笑顔だ!ソレを影らすんじゃねーよ!…安心しろよ、俺が付いてるから」

「ありがとう…でもね。アタシ…今まで誰かに本当に好きになってもらえてない気がするの…お兄ちゃんにも、アドルさんにも、佐々木さんにも…それとヨシュアにも…きっと…」
  

「俺はアリスの事が好きだ。なんとなく、とかじゃねー!お前は、俺の為に笑っていれば良いんだ!」

「本当に?…………うん、ありがとう…ありがとうね…うっ、ひぐっ!うぅ…」

本当のところで誰からも必要とされてない、アテにされてないんじゃないか?古代遺跡ダンジョンの地下2階でも村雨に唯一、軽くあしらわれてしまったアリスはずっと悩んでいたようだ
しかし、今度こそ彼女の不安を打ち砕いてくれるパートナーが、アリスの横に居てくれている


【ヘルメスの街東部200km森林帯】
「ぷはぁ!美味しかったぁ、チェイムちゃん若いのに料理、上手いんだねっ!」
「本当ですわ!私(ワタクシ)も教わりたいですわ!」

「本当ですか?えへへ、喜んでもらえて良かったです!」
「チェイムは昔から料理するのが好きだもんな!」

4人分の晩ご飯の用意をしてくれたチェイム。3人全員からその腕前を褒めてもらい、顔の筋肉は緩みまくっていた

使った食器はリキュールの水魔法で洗い流し、ケチュアが綺麗な布で水分を拭き取っていた。その間、オルガスが周囲の偵察をしてくれていて、戻ってから4人は小さな2つのテントを設営すると、リキュールとチェイムがそれぞれのテントに【認識阻害(ハードゥーン)】を掛けて入った

「ホーホー…」

辺りには夜行性の鳥の静かな鳴き声が、響いているくらい静かな夜だった。オルガスの偵察は正しく周囲に魔物は居ないようだし、仮に居ても【認識阻害(ハードゥーン)】に影響され魔物は自動的にテントを避けるのだ



【テントの外】
「ケチュア、寝られないのかい?」

テントから静かに外に出たケチュアを追って、リキュールも外に出た

「えぇ…明日には両親の仇が居るマリニウムに帰るんだと思うと…どうしても緊張してしまいますわ」

よく見るとケチュアの手足は小さく震えている

「あっ!?リキュール?」

「大丈夫だよケチュア…私が付いてる!って言っただろう?安心しなよ、でも無理はしないでね。ケチュアに何かあったら私…」

「リキュール!愛してますわ!」

「あ、愛してる。って本気かい?嘘や冗談じゃないだろうね?」
 

カルーアからコピーした情報から【好き】の上位互換が【大好き】その更に上位互換が【愛してる】だと知ってはいるリキュール
だが、固体化してまだ2週間程度しか生きていない彼女にとって【愛してる】はまだ体感的に理解出来ない言葉だ

「本当ですのよ…chu!」

遂にリキュールは、アルバート家では引き出せなかった【愛している】の言葉を聞けた。あの日からぬぐい去れなかった不安感が、ようやく払拭できた彼女は最高の笑みを浮かべた

コチラも不穏な噂の漂うマリニウム地方への到着を明日に控え、緊張が増してきた2人はお互いの気持ちを明確なモノにしていた



続く
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