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夢忘れ編
紫電一閃!!
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【ヒルドゥルブ砦】
砦の最深部である部屋。つまり、次期王女であるロミーの部屋で彼女は、ベッドの上で膝を掴んで縮こまっていた
「大丈夫ですよ姫様。ブリニァン様やアテナ様達が守ってくださいますから」
「そう…だと良いのですけど…」
恐怖に駆られているロミータを必死に励ましているクリストファーだが、砦の屋上に突き刺さる不死鳥たちが激突した際の爆発音が、彼女を不安で推し潰そうとしていた
「どうして、魔族の人達はロミーをこんなに恨んでいるの?」
「それは…貴女が人族の希望で次期王女だからです。ツライとは思いますけど、みんなを信じて待ちましょう」
地球から転生してきたロミータにしてみれば、戦争が必ずしも敵国のトップの生命を狙うものでもない。と考えているし、むしろソレは古い戦争の形式という認識だった
しかし悲しいかな、彼女が望んだこのファンタジー世界では、その古い慣習こそが戦争の大目的となっているのである
「ロミーを殺せたら魔族の勝利になってしまうのね?」
「魔族にも次期王女となる少女が居るという話です。ただ、国王が娘を可愛がり過ぎている為、滅多なことでは外出を許可しないとの事ですが…」
これには、蝶よ花よと過保護にされている魔族の次期王女の話と、その話は噂でしかなくて、本当はそんな娘など存在しないのではないか?という話が人族側では話されているのだが…実際に存在していて中立の町で、彼女が人族の手により既に殺されている事までは伝わっていなかった
「んっ!?…静かになりましたの」
この部屋に同席していたサーシャと、彼女を母と慕うコハラコ。彼女の頭をずっと無言で撫でていたサーシャの手が止まった
「どうしたのママ?」
急に天井を見上げたサーシャを見つめるコハラコ
「……………………」
恐怖に駆られているロミータは何も言葉を発さずに、僅かに目線を上に上げただけだったが…
「不死鳥の攻撃が止んだ…ということは、まさか吸血鬼の王を倒せたのでしょうか?」
「ビクッん!?」
吸血鬼の始祖ディー・アモン。かつて彼が自分の部隊だけで、マリニウム王国の進軍を追い返した話は世界的に有名で、そんな彼を倒せたのなら吉報以外の何物でもないのだが…
「コハラコ…よしよし」
だが、自分自身も吸血鬼であるコハラコからしてみれば少し複雑な気持ちだった
唯一の肉親だと思っていたオデュッセウスは、勇者アドルの手により殺されている。現時点で彼女と同じ吸血鬼は、ディー・アモンだけだったのだから
「ママ…」
そんな彼女の寂しさを感じたサーシャが気を遣い、自分の頬をコハラコの頬に擦りつけた
「ロミー。私ちょっと聞いてきますから、待っていてくださいね」
「…分かったわ」
「バタン」
ロミータの返事を聞いたクリストファーは、報告の使者が居るはずの謁見の間へと走り出した。正式なディー・アモン撃退の報告を届け、ロミータを安心させたいのだ
【特別治療室】
「失礼します!」
クリストファーが訪れたのは、戦士長や王族クラスを治療する為の豪華な設備をもった特別治療室だった。どうやら謁見の間で「帰還した兵たちを治療している特別治療室で、ホルン様が報告を受けています」と聞かされてやって来たようだ
「クリストファーか、喜べ彼女らがディー・アモンを撃退してくれたようだぞ♪」
「本当ですか!?…良かった」
彼女に返事をくれたのは、天才軍師のホルンだった。彼女も吸血鬼撃退の内容を詳しく聞こうと、自ら足を運んできたようだ
「何とかかんとか、帰って来られたにぇ」
患者用のベッドの横たわるホロミナティの4人。全員が全身傷だらけの姿をしていて、退魔師であるメイアンの護衛任務がいかに危険であったかを物語っていた
「あれ?4人だけですか?ブリニァン様たちは?」
クリストファーが室内を見渡すと、帰ってきたのがホロミナティの4人だけしか見当たらず、メインで迎撃に出たホワイト姉妹の姿はソコに無かった
「んうぅ…情けない話なんすが、帰りに彼の手下と思われるコウモリどもから仇討ちみたいに襲われちまって、逃げてる途中に2人とハグれちまったんだな」
4人の中で1番体力のあるノエールが、クリストファーの問いに答えようと上半身を必死に起こした
「無理をするな、横になっていろ。私が彼女に説明するからな」
ミーコ、クローエはもちろんだが、コヨリィといい体力的に自身のない3人は砦に帰還できた安心から、溜まっていた疲労が溢れ出し高熱も発症して、意識が朦朧としていた
そんな彼女らに無理はさせまいと、先に報告を聞いていたホルンがクリストファーに説明をした
「やはり、始祖の吸血鬼は倒されたのですね!これで、渇望の魔女もアテナ様たちが倒してくれたら…」
「あぁ。本来の魔族の本体を撃退すれば、我々人族側の勝利だ!」
ディー・アモンの死亡により土に返った不死軍団たち。イッキに膨れ上がった魔族側の兵数が、彼の死亡により一瞬で元の数に戻ったのである
更に渇望の魔女も打ち倒せれば人族側の指揮は爆上がりするだろう。そして、指揮の下がった魔族の方が圧倒的に不利になるだろうと、天才軍師のホルンは読んでいた
「間もなく人族側の勝利で戦争は終わるのですね?」
カルーアを連れて戦況を聞きに来ていたヒイロ。彼は三姉妹が戦争に巻き込まれる事を危惧していたので、ホルンの言葉に強い安心感を抱いた
「あの最古の魔女の手下の3人も【武闘女神アテナ】の参戦に、慌てて逃げ出したのだろ?オマケにその孫娘で、古代人が生み出したという基礎型超人類が組んでいるのだ…例え【渇望の魔女】でも勝てはすまい」
「良かったなカルーア。どうやら今日には、みんな揃ってヘルメスに帰れそうだぞ」
「そうだね。みんなありがとう…サーシャはチカラを使うな。と厳しく言われてたけど…せめて、わたしの魔法でホロミナティの怪我くらいは治させてもらうよ」
ホルンとヒイロからの言葉を聞いたカルーアの顔に、久しぶりに笑顔が戻った
「ありがとう。助かるにぇ」
「あぁ…癒されますね~」
「気ん持ちええなぁ」
「嘘みたいに痛みが引いていくっす♪」
回復系は専門分野ではないとは言え、カルーアは高位の回復魔法【生命救雫(エリクシール)】が使える
ホロミナティの4人の傷がカルーアによって、あっという間に治癒された
「さてゲイツ。いよいよ最終局面だ。本体を率いて敵の主力を撃退するぞ。準備にかかれ!」
「はっ!仰せのままに」
武闘女神たちと渇望の魔女との戦いも時期に、こちら側の勝利になるだろうと予想したホルンは決戦の為に、ゲイツを連れて部屋を後にした
【ヒルドゥルブ砦北東森林帯】
元魔王ザッド・クルスの左腕のディー・アモンが倒せたのなら、その右腕のフュール・アシェスタにも勝てるハズと、その勝利を期待されているアテナとエリエスだったが…
「なかなか手こずらせてくれたけど…どうやらここまでのようね♪(ニヤ)」
フュールは勝利を確信していた
最盛期の若さと惑星神エリスア様から注がれた神聖力を失ったアテナは、フュールの火炎魔法で深い火傷とダメージを負い地面に倒れていた
「さて、貴女も覚悟は出来たかしら?」
歩み寄るフュールだが、エリエスは直径5メートルほどの氷玉に左腕の、肘から先を飲み込まれて動けなくなっている
「渇望の魔女は、火炎魔法の使い手だと聞いていましたが…話が違うではないですか?」
(ダメですエリエス。この氷玉は中に空気を含んでいない純度100%の氷です。おそらくコレを溶かせるのは…渇望の魔女くらいしかいないでしょう)
歩み寄ってくるフュールに質問を投げ掛け彼女の返事が来る前に、精霊剣ロマーニャと相談し、何とか脱出方法を探ろうとしていたエリエスだったが…
「無駄な足掻きは、しない方が良いわよ。その氷は有栖に教えてもらった【天然氷結】とか言う、何百年も溶けない製法の氷なのよ。魔法も使えない貴女には…その精霊剣でもどうにもならないわよ(笑)」
フュールはここまでの戦いで、エリエスの使う剣が意志を持っていて、ある程度の魔法までなら使える激レアな精霊剣であると見抜いていた
「な、なるほど…では、もう私には勝ち目は無いってことですか…」
そう言いながらエリエスは、チラッと祖母のアテナをチラ見した
「ゼヒュー、ゼヒュー…」
倒れているアテナは辛うじて息をしているが、このままでは生命が絶えるのは確実な状態だった
「悪いけど…貴女も、あそこで倒れている武闘女神も助けてあげられないわよ?逃がしたら、いつか再び私たちの前に立ち塞がるのは間違いないでしょうからね?」
戦争下ではなくタダのチカラ比べだったなら、生命を奪いはしなかっただろうが、この戦争でこれ以上ミスが出来ないフュールには、2人とも殺す以外の選択肢は無かった
「私は、お祖母様を見殺したりはしません」
「安心しなさい。貴女も武闘女神も、痛みを感じなくて済む獄炎で消し炭にしてあげるわっ!」
そう言い終わった途端、フュールはエリエス目掛けてバチバチとプラズマの様なものを発生させている、バスケットボール程の火球を撃ち放った
「ギュぃぃぃぃぃぃぃぃん…バギュワァァン!!」
火球はエリエスに直撃すると彼女を飲み込み、まるで粗大ゴミ用の焼却炉ほどの火力でイッキに加熱させられた
「ぐぁぁぁ…」
「あら?おかしいわね。火力調節を間違ったかしら?一瞬で消し炭になると思ったのだけど…」
声を発する隙もなく焼き尽くすハズの火炎魔法をブチ込んだのに、エリエスの悲鳴が聞こえたことに軽い違和感を感じたフュールだが…
「紫電一閃っ!」
「バシャん!」
「えっ!?…ぎぃあぁぁぁ!!」
火炎玉の横を高速ですり抜けて来たエリエスが、すれ違いざまに鋭い剣戟を放った!
「うあぁぁぁ。お、お腹が…私の左腕が…」
違和感から生じた悪い予感から、僅かに回避運動を間に合わせたフュールだったが…エリエスの渾身の斬撃が、フュールの腹を割くと同時に左腕を切り落としていた
「はぁはぁはぁ…やれました」
「き、貴様。どうやってあの状態から?」
エリエスは左腕を凍らされていた。オマケに極大の火炎魔法玉に飲まれて焼かれたハズだった
「お祖母様を助ける為なら、左腕くらい捨ててあげます。それと、貴女が焼いたのは私の上着ですよ?」
エリエスはフュールの攻撃を回避する為に、自ら左腕を引きちぎったのだ。そして迫る火球に上着を投げ込むと同時に、バックステップをし1度距離を取ってからフュールの油断を突き、かつて古代遺跡で戦った剣豪村雨から教えられていた剣で攻撃したのだった
「左腕を引きちぎったのに…その程度しか血が流れていないなんて…」
剥き出しになっているエリエスの左肘は、本来なら大量出血しているハズなのだが…申し訳程度の血を流してはいたが、電気の放熱現象を魅せていた
「機械の身体に助けられました。まぁ、トンデモなく痛かったですけどね…」
「この土壇場で、大したものね…」
(私の回復魔法では完治するのに時間が掛かってしまうわね)
フュールは裂かれた腹から飛び出しそうになっている内蔵を右手で押し込み、そのまま回復魔法で傷口を塞ごうとしている
「渇望の魔女様も…回復魔法までは得意ではないみたいですね…」
ジリジリとフュールとの間合いを詰めるエリエス。剣士である彼女には、フュールのように回復する術がない。オマケに体力の限界も近い。これ以上フュールに時間を与えない内に、勝負を決めなくてはならないのだ
「決着を…付けなくてはならないわね」
「貴女は強過ぎます。次に戦ったら、勝てる気がしません。ですので今、決着を…」
エリエスとフュール。2人はほぼ同じくらいの深いダメージを負っている
しかし、回復魔法が使えないエリエスにとっては、今スグに勝敗を決しなければ自分の敗北が確定してしまう
彼女は祖母を助ける為、大好きなアリスと再び合う為に最後のチカラをふり絞ろうとしていた
続く
次回予告
寿命が間もなく尽きようとしているシャオシュウを襲った悲劇。我が子のように大事にしていたオボロ姫と、腐れ縁で仲の良かったディー・アモンの死
彼女はフュールたちの戦いの決着を待たず、ヒルドゥルブ砦へ残存兵力を突撃させる
迎え撃つホルンとゲイツが率いる本体
この国の戦争が終わる刻が近づいていた
続く
砦の最深部である部屋。つまり、次期王女であるロミーの部屋で彼女は、ベッドの上で膝を掴んで縮こまっていた
「大丈夫ですよ姫様。ブリニァン様やアテナ様達が守ってくださいますから」
「そう…だと良いのですけど…」
恐怖に駆られているロミータを必死に励ましているクリストファーだが、砦の屋上に突き刺さる不死鳥たちが激突した際の爆発音が、彼女を不安で推し潰そうとしていた
「どうして、魔族の人達はロミーをこんなに恨んでいるの?」
「それは…貴女が人族の希望で次期王女だからです。ツライとは思いますけど、みんなを信じて待ちましょう」
地球から転生してきたロミータにしてみれば、戦争が必ずしも敵国のトップの生命を狙うものでもない。と考えているし、むしろソレは古い戦争の形式という認識だった
しかし悲しいかな、彼女が望んだこのファンタジー世界では、その古い慣習こそが戦争の大目的となっているのである
「ロミーを殺せたら魔族の勝利になってしまうのね?」
「魔族にも次期王女となる少女が居るという話です。ただ、国王が娘を可愛がり過ぎている為、滅多なことでは外出を許可しないとの事ですが…」
これには、蝶よ花よと過保護にされている魔族の次期王女の話と、その話は噂でしかなくて、本当はそんな娘など存在しないのではないか?という話が人族側では話されているのだが…実際に存在していて中立の町で、彼女が人族の手により既に殺されている事までは伝わっていなかった
「んっ!?…静かになりましたの」
この部屋に同席していたサーシャと、彼女を母と慕うコハラコ。彼女の頭をずっと無言で撫でていたサーシャの手が止まった
「どうしたのママ?」
急に天井を見上げたサーシャを見つめるコハラコ
「……………………」
恐怖に駆られているロミータは何も言葉を発さずに、僅かに目線を上に上げただけだったが…
「不死鳥の攻撃が止んだ…ということは、まさか吸血鬼の王を倒せたのでしょうか?」
「ビクッん!?」
吸血鬼の始祖ディー・アモン。かつて彼が自分の部隊だけで、マリニウム王国の進軍を追い返した話は世界的に有名で、そんな彼を倒せたのなら吉報以外の何物でもないのだが…
「コハラコ…よしよし」
だが、自分自身も吸血鬼であるコハラコからしてみれば少し複雑な気持ちだった
唯一の肉親だと思っていたオデュッセウスは、勇者アドルの手により殺されている。現時点で彼女と同じ吸血鬼は、ディー・アモンだけだったのだから
「ママ…」
そんな彼女の寂しさを感じたサーシャが気を遣い、自分の頬をコハラコの頬に擦りつけた
「ロミー。私ちょっと聞いてきますから、待っていてくださいね」
「…分かったわ」
「バタン」
ロミータの返事を聞いたクリストファーは、報告の使者が居るはずの謁見の間へと走り出した。正式なディー・アモン撃退の報告を届け、ロミータを安心させたいのだ
【特別治療室】
「失礼します!」
クリストファーが訪れたのは、戦士長や王族クラスを治療する為の豪華な設備をもった特別治療室だった。どうやら謁見の間で「帰還した兵たちを治療している特別治療室で、ホルン様が報告を受けています」と聞かされてやって来たようだ
「クリストファーか、喜べ彼女らがディー・アモンを撃退してくれたようだぞ♪」
「本当ですか!?…良かった」
彼女に返事をくれたのは、天才軍師のホルンだった。彼女も吸血鬼撃退の内容を詳しく聞こうと、自ら足を運んできたようだ
「何とかかんとか、帰って来られたにぇ」
患者用のベッドの横たわるホロミナティの4人。全員が全身傷だらけの姿をしていて、退魔師であるメイアンの護衛任務がいかに危険であったかを物語っていた
「あれ?4人だけですか?ブリニァン様たちは?」
クリストファーが室内を見渡すと、帰ってきたのがホロミナティの4人だけしか見当たらず、メインで迎撃に出たホワイト姉妹の姿はソコに無かった
「んうぅ…情けない話なんすが、帰りに彼の手下と思われるコウモリどもから仇討ちみたいに襲われちまって、逃げてる途中に2人とハグれちまったんだな」
4人の中で1番体力のあるノエールが、クリストファーの問いに答えようと上半身を必死に起こした
「無理をするな、横になっていろ。私が彼女に説明するからな」
ミーコ、クローエはもちろんだが、コヨリィといい体力的に自身のない3人は砦に帰還できた安心から、溜まっていた疲労が溢れ出し高熱も発症して、意識が朦朧としていた
そんな彼女らに無理はさせまいと、先に報告を聞いていたホルンがクリストファーに説明をした
「やはり、始祖の吸血鬼は倒されたのですね!これで、渇望の魔女もアテナ様たちが倒してくれたら…」
「あぁ。本来の魔族の本体を撃退すれば、我々人族側の勝利だ!」
ディー・アモンの死亡により土に返った不死軍団たち。イッキに膨れ上がった魔族側の兵数が、彼の死亡により一瞬で元の数に戻ったのである
更に渇望の魔女も打ち倒せれば人族側の指揮は爆上がりするだろう。そして、指揮の下がった魔族の方が圧倒的に不利になるだろうと、天才軍師のホルンは読んでいた
「間もなく人族側の勝利で戦争は終わるのですね?」
カルーアを連れて戦況を聞きに来ていたヒイロ。彼は三姉妹が戦争に巻き込まれる事を危惧していたので、ホルンの言葉に強い安心感を抱いた
「あの最古の魔女の手下の3人も【武闘女神アテナ】の参戦に、慌てて逃げ出したのだろ?オマケにその孫娘で、古代人が生み出したという基礎型超人類が組んでいるのだ…例え【渇望の魔女】でも勝てはすまい」
「良かったなカルーア。どうやら今日には、みんな揃ってヘルメスに帰れそうだぞ」
「そうだね。みんなありがとう…サーシャはチカラを使うな。と厳しく言われてたけど…せめて、わたしの魔法でホロミナティの怪我くらいは治させてもらうよ」
ホルンとヒイロからの言葉を聞いたカルーアの顔に、久しぶりに笑顔が戻った
「ありがとう。助かるにぇ」
「あぁ…癒されますね~」
「気ん持ちええなぁ」
「嘘みたいに痛みが引いていくっす♪」
回復系は専門分野ではないとは言え、カルーアは高位の回復魔法【生命救雫(エリクシール)】が使える
ホロミナティの4人の傷がカルーアによって、あっという間に治癒された
「さてゲイツ。いよいよ最終局面だ。本体を率いて敵の主力を撃退するぞ。準備にかかれ!」
「はっ!仰せのままに」
武闘女神たちと渇望の魔女との戦いも時期に、こちら側の勝利になるだろうと予想したホルンは決戦の為に、ゲイツを連れて部屋を後にした
【ヒルドゥルブ砦北東森林帯】
元魔王ザッド・クルスの左腕のディー・アモンが倒せたのなら、その右腕のフュール・アシェスタにも勝てるハズと、その勝利を期待されているアテナとエリエスだったが…
「なかなか手こずらせてくれたけど…どうやらここまでのようね♪(ニヤ)」
フュールは勝利を確信していた
最盛期の若さと惑星神エリスア様から注がれた神聖力を失ったアテナは、フュールの火炎魔法で深い火傷とダメージを負い地面に倒れていた
「さて、貴女も覚悟は出来たかしら?」
歩み寄るフュールだが、エリエスは直径5メートルほどの氷玉に左腕の、肘から先を飲み込まれて動けなくなっている
「渇望の魔女は、火炎魔法の使い手だと聞いていましたが…話が違うではないですか?」
(ダメですエリエス。この氷玉は中に空気を含んでいない純度100%の氷です。おそらくコレを溶かせるのは…渇望の魔女くらいしかいないでしょう)
歩み寄ってくるフュールに質問を投げ掛け彼女の返事が来る前に、精霊剣ロマーニャと相談し、何とか脱出方法を探ろうとしていたエリエスだったが…
「無駄な足掻きは、しない方が良いわよ。その氷は有栖に教えてもらった【天然氷結】とか言う、何百年も溶けない製法の氷なのよ。魔法も使えない貴女には…その精霊剣でもどうにもならないわよ(笑)」
フュールはここまでの戦いで、エリエスの使う剣が意志を持っていて、ある程度の魔法までなら使える激レアな精霊剣であると見抜いていた
「な、なるほど…では、もう私には勝ち目は無いってことですか…」
そう言いながらエリエスは、チラッと祖母のアテナをチラ見した
「ゼヒュー、ゼヒュー…」
倒れているアテナは辛うじて息をしているが、このままでは生命が絶えるのは確実な状態だった
「悪いけど…貴女も、あそこで倒れている武闘女神も助けてあげられないわよ?逃がしたら、いつか再び私たちの前に立ち塞がるのは間違いないでしょうからね?」
戦争下ではなくタダのチカラ比べだったなら、生命を奪いはしなかっただろうが、この戦争でこれ以上ミスが出来ないフュールには、2人とも殺す以外の選択肢は無かった
「私は、お祖母様を見殺したりはしません」
「安心しなさい。貴女も武闘女神も、痛みを感じなくて済む獄炎で消し炭にしてあげるわっ!」
そう言い終わった途端、フュールはエリエス目掛けてバチバチとプラズマの様なものを発生させている、バスケットボール程の火球を撃ち放った
「ギュぃぃぃぃぃぃぃぃん…バギュワァァン!!」
火球はエリエスに直撃すると彼女を飲み込み、まるで粗大ゴミ用の焼却炉ほどの火力でイッキに加熱させられた
「ぐぁぁぁ…」
「あら?おかしいわね。火力調節を間違ったかしら?一瞬で消し炭になると思ったのだけど…」
声を発する隙もなく焼き尽くすハズの火炎魔法をブチ込んだのに、エリエスの悲鳴が聞こえたことに軽い違和感を感じたフュールだが…
「紫電一閃っ!」
「バシャん!」
「えっ!?…ぎぃあぁぁぁ!!」
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「うあぁぁぁ。お、お腹が…私の左腕が…」
違和感から生じた悪い予感から、僅かに回避運動を間に合わせたフュールだったが…エリエスの渾身の斬撃が、フュールの腹を割くと同時に左腕を切り落としていた
「はぁはぁはぁ…やれました」
「き、貴様。どうやってあの状態から?」
エリエスは左腕を凍らされていた。オマケに極大の火炎魔法玉に飲まれて焼かれたハズだった
「お祖母様を助ける為なら、左腕くらい捨ててあげます。それと、貴女が焼いたのは私の上着ですよ?」
エリエスはフュールの攻撃を回避する為に、自ら左腕を引きちぎったのだ。そして迫る火球に上着を投げ込むと同時に、バックステップをし1度距離を取ってからフュールの油断を突き、かつて古代遺跡で戦った剣豪村雨から教えられていた剣で攻撃したのだった
「左腕を引きちぎったのに…その程度しか血が流れていないなんて…」
剥き出しになっているエリエスの左肘は、本来なら大量出血しているハズなのだが…申し訳程度の血を流してはいたが、電気の放熱現象を魅せていた
「機械の身体に助けられました。まぁ、トンデモなく痛かったですけどね…」
「この土壇場で、大したものね…」
(私の回復魔法では完治するのに時間が掛かってしまうわね)
フュールは裂かれた腹から飛び出しそうになっている内蔵を右手で押し込み、そのまま回復魔法で傷口を塞ごうとしている
「渇望の魔女様も…回復魔法までは得意ではないみたいですね…」
ジリジリとフュールとの間合いを詰めるエリエス。剣士である彼女には、フュールのように回復する術がない。オマケに体力の限界も近い。これ以上フュールに時間を与えない内に、勝負を決めなくてはならないのだ
「決着を…付けなくてはならないわね」
「貴女は強過ぎます。次に戦ったら、勝てる気がしません。ですので今、決着を…」
エリエスとフュール。2人はほぼ同じくらいの深いダメージを負っている
しかし、回復魔法が使えないエリエスにとっては、今スグに勝敗を決しなければ自分の敗北が確定してしまう
彼女は祖母を助ける為、大好きなアリスと再び合う為に最後のチカラをふり絞ろうとしていた
続く
次回予告
寿命が間もなく尽きようとしているシャオシュウを襲った悲劇。我が子のように大事にしていたオボロ姫と、腐れ縁で仲の良かったディー・アモンの死
彼女はフュールたちの戦いの決着を待たず、ヒルドゥルブ砦へ残存兵力を突撃させる
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