ようこそ幼い嫁候補たち④

龍之介21時

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夢忘れ編

急転直下!

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【ヒルドゥルブ砦 北東 森林地帯】

間もなく朝日も登って来ようか?という時間帯。渇望の魔女 VS クーパー祖母孫娘の戦いも、いよいよ終局を迎えようとしていた

「はぁはぁはぁ…時間を掛ければ何とか治療可能な傷みたいね。あの女剣士(エリエス)も、まだヤレルみたいだけど…武闘女神の方は辛うじて生きている程度か」

フュールは僅かに地面から魔法力で浮いた状態で、同じく左手を失ったエリエスと対面しながら状況を分析していた


「ふぅふぅ、はぁはぁ…」
(決着の一手を考えているのか?ロマーニャ、ロマーニャ?…気絶している?)

エリエスが造り上げたエクスカリバー エリエス・カスタムに宿る上位の精霊ロマーニャ。自らの意思で、中級レベルの魔法まで使えるという万能なソードだが…渇望の魔女との戦いで酷使し過ぎたせいか?マスターであるエリエスの問い掛けにも返事が無かった

エリエスの祖母であるアテナ・クーパーは、惑星神エリスア様から注がれていた神聖力が切れ本来の年齢に戻ったところに、フュールからの火炎魔法が直撃し戦闘不能であった

2人が互いの様子を伺いながら、最後の攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっていた時だった


「フュール様、フュール様!」

(どうしたミアナか?私は今ヤバい相手と交戦中だ。超緊急な用事以外は後にしろ!)

消去の魔女の唯一の弟子であるミアナ・ラドシャが、その師匠から教わったという超遠距離通信魔法で、フュールの脳内に語り掛けてきている

「ハッキリ確認した訳ではありませんが…ディー様が、敵の狐科獣人族の聖剣使いにヤラれた模様です」

(何だとっ!?…嘘を言え!あの男が聖剣を持った獣人族程度に、ヤラれるハズなどあるものかっ!)

「それが、ディー様が生み出したアンデッド軍団が突然、全て動きを止めて土に還ったのですよ」

(…ディーの魔力が枯れた。ということか?戦争の最終局面でその事象が起きる原因と言えば…バカな、バカなっ!!)

予想外過ぎる報告に激しく動揺しているフュールだが、今は生命掛けの好敵手と睨み合っている最中なので、その動揺を悟られぬように必死に取り繕っているが…

「戦いの中で戦いを忘れるとはっ!」

「バシュン!」

フュールは平成を装ってはいたが目の前に居るエリエスは、機械的なサポートを肉体に組み込んだ基礎型超人類の末裔である

そんな彼女が、ミアナの信じ難い報告に動揺したフュールの精神状態の変化を見逃すハズは無かった!

「しまった!?」

【溶岩流間欠泉(マグナゲイズム)】

咄嗟にフュールは自分の周囲に、岩をも気化させる程の超高熱波を足元から吹き上がらせた。彼女の周囲は超高熱で空気ごと歪んだ

「ボシュン!」

その中から頭上に射出された人型サイズのカタマリ。超高熱波に飛び込むギリギリで踏みとどまったエリエスは、その物体を見逃さなかった

「トドメですっ!」

射出された物体目掛けて飛び上がり、斬りかかろうとしたエリエスだが…

「んっ!?熱の固まり?」

「フハハハハ。今日のところは退散させてもらうわ。急な用事が出来ちゃったのでね…貴女も武闘女神を助ける時間が欲しいのでしょ?次に逢う時まで、貴女との決着を楽しみにしているわ」

フュールは先程の場所から移動してはいなかった。上空に射出した熱の固まりにエリエスが釣られて飛び上がったのを見てから、飛行魔法を使って浮き上がると、エリエスに再戦を誓い空の彼方へ飛んで行った

「逃げられた…いえ、トドメを刺さずに行ってくれたのかしら?…お祖母様っ!」

次回に1対1で決着を付けたいからなのか?よほど緊急な用事が出来て仕方なくなのか?エリエスには分からなかったが、この状況を祖母を助ける好機だと考えることにした



【ヒルドゥルブ砦 西方平地】
「全軍突撃だっ!この機に奴らを滅ぼし、このマナティートを我ら人族の手中に納めるのだっ!」

「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!」
「ゲイツ様に続けぇ!」
「今こそ皆の仇を打つ!」

砦の正門が開き、立派な馬に乗ったゲイツの背後にしがみついている天才軍師ホルン・グリンミストの号令が響くと、その後から大量の兵士たちが後に続いて現れた

「人族共の反撃だと!?事態はどうなっているのか?」

「は、はい。少し前の事なのですが…」

10分ほど前。森林地帯を抜けた魔族の本体が平地地帯に足を踏み入れて、その眼前にあるヒルドゥルブ砦に突撃を仕掛けようとした時…


「ピピピピピ…チュドーンっ!!」

平地に入った魔族の兵の足元に、何やら特異な幾何学模様が現れ発光した途端、轟音と共に魔族の兵が吹き飛ばされた!

「何だソレは?何が起きたのだ!?」

「おそらくですが、お師匠様に教えてもらったことがある古代人が使う【化学】とかいう特殊魔法ではないかと思われます」

「そうなのか?」

「はい。私も見るのは初めてでしたけど、お師匠様から聞いていた模様とよく似ていたから間違いないと…」

「それで、どうなった?」

「魔族側の兵1000近くが、その爆発で生命を落としたか?瀕死状態になったと思われます」

報告を受けているフュールも、報告している方のミアナも予想外過ぎる戦況に冷や汗が止まらないようだ

「その様子を見たシャオシュウ様が、弟子のマーマルさんの静止を振り払って単独で敵の砦に飛び込まれました」

「ソレで敵の全兵力が迎え撃ちに現れたという訳か…ミアナよ。昨日からアレコレ言い掛かりを付けて済まなかった」

「えっ!?大丈夫です。気にしていません」

「スグに私もソチラへ向かう。可能な限りシャオシュウ様の援護をしていてくれ。マナティートの魔族のシンボルはもう、シャオシュウ様しか居ないのだ。決して彼女を死なせてはならない!」

「分かりました!消去の魔女【有栖 徳川】師匠の名誉の為にっ!」

ミアナはフュールからの命令を、師匠の名にかけて絶対に遂行することを誓った。そして飛行魔法で単独突撃したシャオシュウを探した



【ヒルドゥルブ砦上空】
「最古の魔女だ!絶対に撃ち落とせっ!」

部下の報告を受け、砦の上空に接近しているシャオシュウの存在を知ったホルンは、敵魔族の本体の士気を下げる為、彼女の撃墜を命じた

「ふぅはぁ、ふぅはあ。何としてもワシがこの戦争に終止符を打たねば…死んでも死にきれんわ…」

次期王女になるハズだったオボロ姫の死。腐れ縁だったディー・アモンの戦死。いつまでも帰還しない渇望の魔女。ここまで追い詰められた魔族軍の最期の希望になり得るのはもう、最古の魔女である自分以外には無い!

と考えたシャオシュウは、寿命の近いその身体に鞭を打ち最前線に突入したのだが…

「お下がりくださいシャオシュウ様。敵の集中砲火に晒されます!今、貴女までもが死んでしまっては我が軍は…」

「くそう!お前ら下がりやがれってんだ!」

たった2人で、2000近い兵から狙い撃ちされているシャオシュウを守ろうとしているマーマルとリュウキ

後のことなど考えずにドラゴンブレスを吹いて矢を落とすリュウキと、魔力全開で結界を張りシャオシュウを守っているマーマルだが…

2000 VS 2の戦闘など結果を見るまでも無かったのだが…

【滅殺型雷撃暴雨(ジャムル・シオニムル)】

蘇生して間も無いミアナだが、今使用出来る魔力のほとんどを使って放った局地破壊魔法が人族軍の本体を襲った!

「ガロガロゴロロ…ズドォォォォォん!!」

ゲームで言うところのマップ兵器と言えば良いのか?直径1kmほどの範囲に及んでいそうな雷撃の嵐が、ホルンを中心とする人族を飲み込んだのである

……………………………………………

「…くっ、ゲイツか?お前の重さで私が潰れてしまうだろうが、そこを退かぬかっ!」

自分の身体を覆うようにのしかかっていたゲイツの鍛え抜かれた重い身体を、華奢なその手足で何とか動かして起き上がったホルン

ミアナ・ラドシャの極限雷撃魔法の中心にセットされたホルンだったが、衣服はズタズタにされたものの、軽い程度の火傷で起き上がれたのは奇跡とも言えた

「くそう、何だ今の規格外の破壊魔法は!アレが消去の魔女の愛弟子の威力なのか!?…良い加減に起きないかゲイツ!…ゲイツ?貴様、気絶しているのか?おい、オイ!!」

決して広範囲では無かったが、ミアナの極大魔法を受ける直前に張った結界魔法のおかげで生を拾ったと思ったホルンだったが、彼女を庇ったゲイツは身動きひとつしなかった



【ロミーの部屋】
「ロミー様、サーシャ・コハラコ大丈夫かい?」

扉が乱暴に開かれると、ヒイロと同じ部屋で待機していたハズのカルーアが慌ただしく現れた

「ぶ、無事ですの」
「ブジですノ!」

サーシャとコハラコは、お互いがお互いを庇うように抱き合っていた

「ぷはっ。ちょっとクリスったら強引よ?」

「すみません、突然でしたので…それでカルーアさん。今のトンデモナイ衝撃波はいったい!?」

ベッドの上に居たロミーに覆い被さっていたクリストファーが、ゆっくりその身を起こした

「確認した訳ではないんだけどね。今のトンデモナイ雷の精霊の活動は、多分だけど…消去の魔女の弟子によるモノだと思うんだ」

「あんな威力を、たった1人の魔法使いが使うなんて…可能なんですか!?」

ミアナが放った極大雷魔法は、その約半分の威力がヒルドゥルブ砦にも命中しており、その衝撃で砦は一瞬フワリと数センチ浮き上がらされたのである。剣士であるクリストファーがビビっても仕方ない威力だった

「始祖の吸血鬼を倒せても、そんな魔法使いが居るんじゃロミーは、絶対に助からないじゃない…」

全魔族から集中的に狙わる身であるロミータ。そんな彼女を殺す為に魔族本国から送られてきた、伝説的な強さを持つと言われる3人

その中では最弱と言われるミアナの攻撃が掠めただけで、こんな大きな砦が動かされたのである。ロミータの恐怖はマックスに到達していた

「どうするんだいロミータ姫。潔く死ぬのかい?それとも、みっともなくても逃げ回ってみせるかい?」

カルーアはロミータの覚悟を確かめる様な質問をした。それは、彼女の返答次第によっては自分も覚悟を決めるつもりでいるからだ

「はぁはぁはぁはぁ…ろ、ロミーは…」

度重なる恐怖映画のクライマックスシーンの怒涛のような展開に、すっかり土気色と化したロミータの顔。彼女は捻り出すように言葉を紡ごうとするが…

「バリンっ!」

その時、彼女の部屋の窓ガラスが1枚。気持ち良いほどの音を立てて割れると…

「バサバサバサ…」

「コウモリ?何故こんな所に?」

一羽のコウモリが割れた窓から部屋へと侵入してきた。そこまで珍しい訳ではないが、このタイミングの登場に違和感を感じるクリストファーとカルーア

「ブフォォォォん…」

「ま、まさかキミは?」

そのコウモリが黒い煙の様に気化すると、その中から1人の男性が現れた

「ん~んぅ。お初にお目にかかりますね、ロミー・ローゼンバーグ姫様。吾輩は~♪始祖なる吸血鬼にして、ザッド・クルス様の左腕と謳われた【ディー・アモン】伯爵でぇす。以後、お見知り置きをお願いしますねぇ(笑)」

その部屋の中央に大胆不敵に現れたのは、聖剣使いブリニァン・ホワイトに倒されたと思われていたディー・アモンだった


続く



⚠️次回予告⚠️
遂に追い詰められたロミータ
彼女の死は、マナティートの人族側の敗北を意味してしまう。決死の覚悟で立ちはだかるクリストファーだが…

目の前で殺人劇が行われようとしている時、カルーアとサーシャは惑星神エリスアの指示通り中立を決め込むのか?

長かったこの国の戦争に最期の時がやって来たようだ
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