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夢忘れ編
最後のデート
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【ファスク城 展望室】
「……………………………………………」
「考え事ですか?姫様…」
「ツバキですか…」
魔族側の拠点であるファスク城の最上階にある展望室の中で、1人椅子に座り俯いているオボロに、たった今入室してきたツバキ・プリンツェルが声を掛けた
「はぁ…傲慢が綻(ほころ)びを産んでしまったのかしら?」
「第二軍団長のコタージュ様の事ですね?」
「えぇ…人族側の城を落とし、数年ぶりに私たちが優位に立てたことで、気が緩んでしまったのかも知れません…」
「ワタシがコタージュ様のサポートから外され、姫様の付き人になりヒトジョクヘノ……おほん!…人族への攻め手を減らした事が反撃を受けた原因にナッチャトオモハ……おほん!…なったと思われているのですね?」
「そうなのですが…ツバキ」
「何でしょうか姫様?」
「相変わらずイッキに長文を口にするのは難しいようですねw」
「すみません。どうも、30文字以上を続けて喋ろうとするとロレチュガマワラナク……おほん!…呂律が回らなくなってしまうのです…」
戦争中のマナティート地方の、魔族側のファスク家の姫であるオボロの世話役をしているツバキという少女は、普段かなり無口な性格の為なのか?続けて話すのは30文字くらいが限界のようだw
「プッ、クスクス♪無理をしなくて良いのですよツバキ…話しやすいように話してください」
「お気遣いありがとうございます…」
いかにも魔法使いな見た目をしているツバキという少女も、オボロと同じ14歳なのだが…姫として教育されてきたオボロと見比べると…オボロが姉で、ツバキが妹にしか見えない
「姫様。せっかくですので屋上に出てみませんか?キレヒナヨジョラヲミヘ……おほん!…綺麗な夜空を見て気分転換しましょう!」
「クスクス♪そうね、そうしましょうか?」
あまり表情を変化させないツバキは、あまりオボロの事を気遣ってないように思われガチだが…こう見えても彼女は、姫様の事を最優先に考えている(自分の文字数キャパを超えてまで一生懸命に話そうとする所からもソレが伺える)
【ファスク城 屋上】
「カパッ」
展望室内のハシゴを登り天窓を押し上げると、屋上へ出られるのだ
「どうぞ姫様、お飲みください」
「ありがとうツバキ。嬉しいわ♪」
ツバキは服の背中部分に掛けてある小さめのカバンから、500mlサイズの水筒を取り出し天井部分の蓋を外すと、ソレをコップ代わりにして中身の野菜ドリンクを入れてオボロに手渡した
「コタージュ様が亡くなられたのは、姫様の責任ではありませんよ…」
「ゴキュゴキュ…ふぅ。そうですよね。気にし過ぎるも良くありませんよね…」
ツバキから差し出された野菜ドリンクを1カップ分飲み干したオボロ。しかし彼女の目は、まだ陰りを帯びたままだった
「姫様…ギュッ︎︎︎❤︎」
「ツバキ…深く心配させてますね。その気遣いが私に勇気を与えてくれてますが、その、誰も見ていないとは言え恥ずかしいですね…」
突然、背後からツバキにハグされたオボロは顔を赤くして照れ笑いをした
「姫様の為なら……んあっ!?」
「どうかしたのですか?ツバキ…」
エモい時間を過ごしていた2人だが、何かを察知したツバキが突然オボロから離れて周囲を警戒し始めた
「バサバサ…ふふふ。突然の来訪、失礼させていただきますよぉ、プリンセスオボロ♪」
「誰だ貴様は?」
「ん~吾輩をご存知ではない?…は~ん!ソレは非常に残念ですねぇ。コレでも吾輩は…かつて、魔王ザッド様の左翼を任せられた吸血鬼の始祖【ディー・アモン伯爵】なのですよぉ♪」
宵闇の空から背中の羽をはためかせ、静かに舞い降りた初老の紳士姿の吸血鬼は「ディー・アモン」と名乗った
「まさか?貴方が20年前、クラウン城と対峙しているアレクス城が、マリニウム王国から挟み撃ちされるをたった1軍で阻止した不死軍団の長なのですか?」
「ん~、その通りで~す!吾輩の武勇伝をお聞き及んでくださるとは、じぃつに光栄ですねぇ~♪」
真祖ディー・アモンは、魔族の中でも上から数えた方が圧倒的に速い猛者の1人である。しかし、強さで見ても挙げた功績で見ても魔族の上位に居るのだが…彼は地位や名声などに全く興味を示さなかったので【ザッドの左腕】という通り名だけを与えられただけだ(それでも本人は不満など持っていない)
「貴方は、それ程の強さを持っていても元魔王ザッド様の死去以降は、ジェンジェンオモヒョニ……おほん!…全然、表舞台に現れなかったのに、姫様に何の用ですか?」
不死の頂点に君臨するディー・アモンを目の前にしても、ツバキは臆すること無く毅然とした態度で話し始めたのだが…またしても文字数キャパをオーバーして、言葉が不明瞭になり恥ずかしさで顔を真っ赤にした
「ん~貴方、面白いキャラをしてい~ますねぇ。吾輩よりも目立たれるのは遠慮して欲しいものですねぇ。クハハハハ(笑)」
彼もツバキの特徴的な話し方を気に入ったようだ。しかし、第二軍団長コタージュを失った事を気に病んでいたオボロは、2人の漫才のような会話を遮り質問をする
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが…ディー・アモン殿。貴方ほどの方がワザワザ戦火の絶えないこの国まで、足を運んでくださった目的は何なのでしょうか?」
「おっと、そうでしたねぇ…消去の魔女は知っておいででしょうかねぇ?」
「徳川 有栖…確か、異世界から召喚された者ながら、その人間側に愛想を尽かして我が魔族側に入り、その天才的な頭脳で独自の強力な魔法を生み出して、遂には最強の魔女とまで呼ばれるようになった人ですよね?」
オボロは少し自信なさげな顔で答えた
本来なら【消去の魔女】の名は人間側、魔族側、更には魔界側でも知らぬ者は居ないだろう。というほどに名が売れているのだが…20年以上も戦乱が終わらないこのマナティートに居ては、そうなってしまうようだ
「イエースっ!ですよ、プリンセスオボロ。おほん…本来なら吾輩は、元魔王ザッド様以外からの頼みを聞く気などわぁ…サラサラあーりみせんがぁ、彼女はザッド様からの信頼厚き魔女ですのでぇ、条件付きで聞き入れて馳せ参じたという訳なのでぇす!」
「そ、そうなのですね?…それで、ご要件は?」
「おっとぉ、そうでしたそうでした。今はザッド様に代わり、新しき次期魔王が育成されているのはご存知でしょうかぁ?」
「はい、聞き及んでおります」
「じぃつはですねぇ…明日そのメイビー様の生誕祭パーティとやらを、アレクス城にて開かれるそうなのですがぁ、ファスク家の参加、不参加の答えを聞いてきて欲しい。と頼まれたのですよぉ!ウハハハハ♪」
「メイビー様の生誕祭パーティですか?……」
オボロは考え込んだ。本来なら魔族側の実力者であれば、その頂点に立つ魔王の生誕祭に出席しないなど有り得ない事なのだが…
「おやおやおや~、いかがなされましたかプリンセスオボロ?悩む必要など無いのでぇは?」
「う、うぅ…」
オボロが悩んだのには理由が有る。先程ツバキと話していた事だが…僅かな油断で名将コタージュを失ったばかりなのだ、今自分がファスク城を留守にして良いのか?真面目なオボロは悩んでしまった
「こ、このツバキに参加させては駄目でしょうか?」
「ひ、姫様?」
「ヒィーHA☆HA☆HA☆HA☆HA♬これはこれは、プリンセスオボロも冗談がお上手ですなぁ♬…ふふふ、次期魔王様の生誕を祝う場にこのような雑兵(ぞうひょう)をプリンセスの代役で向かわせるぅ?」
ディー・アモンが笑ったのも無理もない。オボロから見れば信頼に足る人物だとしても、世間の評価ではツバキは1兵卒に過ぎない。魔王様の元へ、その程度の人物を自分の代役として送り込むなど、下手をすれば喧嘩を売っている。と取られても仕方ないのだから…
「ふわり…スト…」
「それならばワシが出向くとしようかのぅ。久しぶりじゃなディー・アモン」
「ん?んぅ~これはこれは、ご無沙汰ではあーりませんかっ。同志シャオシュウ!」
「最古の魔女と呼ばれるワシならば、姫様の代役として参加しても礼を失する事にはなるまい?のぅディー・アモンよ」
飛行魔法で空を飛んで直接、屋上に現れたのは最古の魔女シャオシュウだ。しかも、何やらディー・アモンとは顔見知りのようだ
「モチのロンですねぇ。何しろ貴女はかつて、吾輩と同じく【大魔導師ドゥーン】の元で魔法を学んだ間柄。貴女を役不足と言ってしまうのは、吾輩も同列だと言うのと同じですからなぁ。クハハハハ♪」
「シャオシュウ。良いのですか?」
オボロはシャオシュウに確認を取った。ただ単に代役を引き受けてもらう意味だけでなく、400-500kmも離れたアレクス城までの道のりを、寿命の近い彼女に頼んでも大丈夫なのか?という意味も含まれていた
「大丈夫ですよオボロ様。それに、人間側に押し返されつつある現状ですので、我が名を使ってでもアレクス城より、増援を送ってもらえるように取り計らってもらってまいります」
「ありがとうシャオシュウ。その言葉、心より感謝を申し上げますわ」
オボロはシャオシュウに深く頭を下げた。第二軍団長のコタージュは屈強な猛者であり、部下にも厚い信頼を置かれていた男だ。彼を失い指揮の下がっている今、アレクス城からの援軍を得られると得られないのでは、今後を大きく左右するのは明白なのだ
「同志シャオシュウ。どうやら寿命が近いようですねぇ…」
「心配は要らん!アレクス城への往復程度、まだまだ問題は無いわい」
「いえいえいえ、吾輩もここまで来るのに自力飛行は疲れますので~、ワイバーンゾンビに乗って来たのですよぉ。宜しければ一緒に乗って行きませんかぁ?素敵な夜景を楽しめますよぉ♪」
「ふむ。貴様との最後の想い出作りに夜の飛行デートも悪くは無いな…良かろう、エスコートをお願いするぞ」
ディー・アモンはケタケタ笑いながら会話を楽しんでいるように見えるが、唯一同じ師を仰ぎ学んだ同士シャオシュウを心配していた
「ドスンっ!」
静かに降り立ったゾンビワイバーンだが、翼を拡げると80メートル程に達する程の巨体なので、着地した時の音が鳴り響いた
「さぁ参りましょうか?同志シャオシュウ」
「では行ってまいります。吉報をお待ちください姫様」
「バサッバサッ…」
シャオシュウとディー・アモンを乗せたワイバーンゾンビは、その大きな翼をはためかせフワリと空に舞い上がるとアレクス城へ向けて飛び立って行った
【アレクス城への空の旅】
「んぅ!?それ程までに良くないのですか?」
ゾンビワイバーンの手綱を握るディー・アモン。その後ろに座っていたシャオシュウが突然、無言でディー・アモンの胴体に腕を回し彼の背中に頬を当てて密着した
「バカモノ!貴様は相変わらずデリカシーの無い男だな…かつては何度も共同戦闘(デート)をした仲ではないか。数百年ぶりの誰も居ない夜空のデートくらい、少しは良いムードを出して女を悦ばせられんのかのぅ…」
「クハハハハ♪失敬、失敬。貴女との恋仲を深められなかった吾輩は、その後に出会ったザッド様に仕えることに夢中になってしまいましてねぇ、女性経験を積み上げられなかったのでありますよぉ♬」
「やれやれ、本当に自由奔放じゃのぅ貴様は」
かつて同じ師の元で魔法の修行をしたという2人。男女の仲になれそうな雰囲気もあったらしいが、結局は結ばれずにお互いに別々の仕える相手を見出してしまい、2人の仲はそれキリだったようだ
「フフフ。しぃかぁし、久しぶりに嗅いだ貴女の香りは…あの日より寸分も衰えませんなぁ♪懐かしき日の高揚感が込み上げて来ましたなぁ♬クハハハハ!」
シャオシュウがナチュラルに放った「最後の想い出作り」という言葉の意味を理解したディー・アモンは、恋愛経験が乏しいながらも彼女を楽しませることに最大限の気遣いをしていた
続く
「……………………………………………」
「考え事ですか?姫様…」
「ツバキですか…」
魔族側の拠点であるファスク城の最上階にある展望室の中で、1人椅子に座り俯いているオボロに、たった今入室してきたツバキ・プリンツェルが声を掛けた
「はぁ…傲慢が綻(ほころ)びを産んでしまったのかしら?」
「第二軍団長のコタージュ様の事ですね?」
「えぇ…人族側の城を落とし、数年ぶりに私たちが優位に立てたことで、気が緩んでしまったのかも知れません…」
「ワタシがコタージュ様のサポートから外され、姫様の付き人になりヒトジョクヘノ……おほん!…人族への攻め手を減らした事が反撃を受けた原因にナッチャトオモハ……おほん!…なったと思われているのですね?」
「そうなのですが…ツバキ」
「何でしょうか姫様?」
「相変わらずイッキに長文を口にするのは難しいようですねw」
「すみません。どうも、30文字以上を続けて喋ろうとするとロレチュガマワラナク……おほん!…呂律が回らなくなってしまうのです…」
戦争中のマナティート地方の、魔族側のファスク家の姫であるオボロの世話役をしているツバキという少女は、普段かなり無口な性格の為なのか?続けて話すのは30文字くらいが限界のようだw
「プッ、クスクス♪無理をしなくて良いのですよツバキ…話しやすいように話してください」
「お気遣いありがとうございます…」
いかにも魔法使いな見た目をしているツバキという少女も、オボロと同じ14歳なのだが…姫として教育されてきたオボロと見比べると…オボロが姉で、ツバキが妹にしか見えない
「姫様。せっかくですので屋上に出てみませんか?キレヒナヨジョラヲミヘ……おほん!…綺麗な夜空を見て気分転換しましょう!」
「クスクス♪そうね、そうしましょうか?」
あまり表情を変化させないツバキは、あまりオボロの事を気遣ってないように思われガチだが…こう見えても彼女は、姫様の事を最優先に考えている(自分の文字数キャパを超えてまで一生懸命に話そうとする所からもソレが伺える)
【ファスク城 屋上】
「カパッ」
展望室内のハシゴを登り天窓を押し上げると、屋上へ出られるのだ
「どうぞ姫様、お飲みください」
「ありがとうツバキ。嬉しいわ♪」
ツバキは服の背中部分に掛けてある小さめのカバンから、500mlサイズの水筒を取り出し天井部分の蓋を外すと、ソレをコップ代わりにして中身の野菜ドリンクを入れてオボロに手渡した
「コタージュ様が亡くなられたのは、姫様の責任ではありませんよ…」
「ゴキュゴキュ…ふぅ。そうですよね。気にし過ぎるも良くありませんよね…」
ツバキから差し出された野菜ドリンクを1カップ分飲み干したオボロ。しかし彼女の目は、まだ陰りを帯びたままだった
「姫様…ギュッ︎︎︎❤︎」
「ツバキ…深く心配させてますね。その気遣いが私に勇気を与えてくれてますが、その、誰も見ていないとは言え恥ずかしいですね…」
突然、背後からツバキにハグされたオボロは顔を赤くして照れ笑いをした
「姫様の為なら……んあっ!?」
「どうかしたのですか?ツバキ…」
エモい時間を過ごしていた2人だが、何かを察知したツバキが突然オボロから離れて周囲を警戒し始めた
「バサバサ…ふふふ。突然の来訪、失礼させていただきますよぉ、プリンセスオボロ♪」
「誰だ貴様は?」
「ん~吾輩をご存知ではない?…は~ん!ソレは非常に残念ですねぇ。コレでも吾輩は…かつて、魔王ザッド様の左翼を任せられた吸血鬼の始祖【ディー・アモン伯爵】なのですよぉ♪」
宵闇の空から背中の羽をはためかせ、静かに舞い降りた初老の紳士姿の吸血鬼は「ディー・アモン」と名乗った
「まさか?貴方が20年前、クラウン城と対峙しているアレクス城が、マリニウム王国から挟み撃ちされるをたった1軍で阻止した不死軍団の長なのですか?」
「ん~、その通りで~す!吾輩の武勇伝をお聞き及んでくださるとは、じぃつに光栄ですねぇ~♪」
真祖ディー・アモンは、魔族の中でも上から数えた方が圧倒的に速い猛者の1人である。しかし、強さで見ても挙げた功績で見ても魔族の上位に居るのだが…彼は地位や名声などに全く興味を示さなかったので【ザッドの左腕】という通り名だけを与えられただけだ(それでも本人は不満など持っていない)
「貴方は、それ程の強さを持っていても元魔王ザッド様の死去以降は、ジェンジェンオモヒョニ……おほん!…全然、表舞台に現れなかったのに、姫様に何の用ですか?」
不死の頂点に君臨するディー・アモンを目の前にしても、ツバキは臆すること無く毅然とした態度で話し始めたのだが…またしても文字数キャパをオーバーして、言葉が不明瞭になり恥ずかしさで顔を真っ赤にした
「ん~貴方、面白いキャラをしてい~ますねぇ。吾輩よりも目立たれるのは遠慮して欲しいものですねぇ。クハハハハ(笑)」
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「盛り上がっているところ申し訳ありませんが…ディー・アモン殿。貴方ほどの方がワザワザ戦火の絶えないこの国まで、足を運んでくださった目的は何なのでしょうか?」
「おっと、そうでしたねぇ…消去の魔女は知っておいででしょうかねぇ?」
「徳川 有栖…確か、異世界から召喚された者ながら、その人間側に愛想を尽かして我が魔族側に入り、その天才的な頭脳で独自の強力な魔法を生み出して、遂には最強の魔女とまで呼ばれるようになった人ですよね?」
オボロは少し自信なさげな顔で答えた
本来なら【消去の魔女】の名は人間側、魔族側、更には魔界側でも知らぬ者は居ないだろう。というほどに名が売れているのだが…20年以上も戦乱が終わらないこのマナティートに居ては、そうなってしまうようだ
「イエースっ!ですよ、プリンセスオボロ。おほん…本来なら吾輩は、元魔王ザッド様以外からの頼みを聞く気などわぁ…サラサラあーりみせんがぁ、彼女はザッド様からの信頼厚き魔女ですのでぇ、条件付きで聞き入れて馳せ参じたという訳なのでぇす!」
「そ、そうなのですね?…それで、ご要件は?」
「おっとぉ、そうでしたそうでした。今はザッド様に代わり、新しき次期魔王が育成されているのはご存知でしょうかぁ?」
「はい、聞き及んでおります」
「じぃつはですねぇ…明日そのメイビー様の生誕祭パーティとやらを、アレクス城にて開かれるそうなのですがぁ、ファスク家の参加、不参加の答えを聞いてきて欲しい。と頼まれたのですよぉ!ウハハハハ♪」
「メイビー様の生誕祭パーティですか?……」
オボロは考え込んだ。本来なら魔族側の実力者であれば、その頂点に立つ魔王の生誕祭に出席しないなど有り得ない事なのだが…
「おやおやおや~、いかがなされましたかプリンセスオボロ?悩む必要など無いのでぇは?」
「う、うぅ…」
オボロが悩んだのには理由が有る。先程ツバキと話していた事だが…僅かな油断で名将コタージュを失ったばかりなのだ、今自分がファスク城を留守にして良いのか?真面目なオボロは悩んでしまった
「こ、このツバキに参加させては駄目でしょうか?」
「ひ、姫様?」
「ヒィーHA☆HA☆HA☆HA☆HA♬これはこれは、プリンセスオボロも冗談がお上手ですなぁ♬…ふふふ、次期魔王様の生誕を祝う場にこのような雑兵(ぞうひょう)をプリンセスの代役で向かわせるぅ?」
ディー・アモンが笑ったのも無理もない。オボロから見れば信頼に足る人物だとしても、世間の評価ではツバキは1兵卒に過ぎない。魔王様の元へ、その程度の人物を自分の代役として送り込むなど、下手をすれば喧嘩を売っている。と取られても仕方ないのだから…
「ふわり…スト…」
「それならばワシが出向くとしようかのぅ。久しぶりじゃなディー・アモン」
「ん?んぅ~これはこれは、ご無沙汰ではあーりませんかっ。同志シャオシュウ!」
「最古の魔女と呼ばれるワシならば、姫様の代役として参加しても礼を失する事にはなるまい?のぅディー・アモンよ」
飛行魔法で空を飛んで直接、屋上に現れたのは最古の魔女シャオシュウだ。しかも、何やらディー・アモンとは顔見知りのようだ
「モチのロンですねぇ。何しろ貴女はかつて、吾輩と同じく【大魔導師ドゥーン】の元で魔法を学んだ間柄。貴女を役不足と言ってしまうのは、吾輩も同列だと言うのと同じですからなぁ。クハハハハ♪」
「シャオシュウ。良いのですか?」
オボロはシャオシュウに確認を取った。ただ単に代役を引き受けてもらう意味だけでなく、400-500kmも離れたアレクス城までの道のりを、寿命の近い彼女に頼んでも大丈夫なのか?という意味も含まれていた
「大丈夫ですよオボロ様。それに、人間側に押し返されつつある現状ですので、我が名を使ってでもアレクス城より、増援を送ってもらえるように取り計らってもらってまいります」
「ありがとうシャオシュウ。その言葉、心より感謝を申し上げますわ」
オボロはシャオシュウに深く頭を下げた。第二軍団長のコタージュは屈強な猛者であり、部下にも厚い信頼を置かれていた男だ。彼を失い指揮の下がっている今、アレクス城からの援軍を得られると得られないのでは、今後を大きく左右するのは明白なのだ
「同志シャオシュウ。どうやら寿命が近いようですねぇ…」
「心配は要らん!アレクス城への往復程度、まだまだ問題は無いわい」
「いえいえいえ、吾輩もここまで来るのに自力飛行は疲れますので~、ワイバーンゾンビに乗って来たのですよぉ。宜しければ一緒に乗って行きませんかぁ?素敵な夜景を楽しめますよぉ♪」
「ふむ。貴様との最後の想い出作りに夜の飛行デートも悪くは無いな…良かろう、エスコートをお願いするぞ」
ディー・アモンはケタケタ笑いながら会話を楽しんでいるように見えるが、唯一同じ師を仰ぎ学んだ同士シャオシュウを心配していた
「ドスンっ!」
静かに降り立ったゾンビワイバーンだが、翼を拡げると80メートル程に達する程の巨体なので、着地した時の音が鳴り響いた
「さぁ参りましょうか?同志シャオシュウ」
「では行ってまいります。吉報をお待ちください姫様」
「バサッバサッ…」
シャオシュウとディー・アモンを乗せたワイバーンゾンビは、その大きな翼をはためかせフワリと空に舞い上がるとアレクス城へ向けて飛び立って行った
【アレクス城への空の旅】
「んぅ!?それ程までに良くないのですか?」
ゾンビワイバーンの手綱を握るディー・アモン。その後ろに座っていたシャオシュウが突然、無言でディー・アモンの胴体に腕を回し彼の背中に頬を当てて密着した
「バカモノ!貴様は相変わらずデリカシーの無い男だな…かつては何度も共同戦闘(デート)をした仲ではないか。数百年ぶりの誰も居ない夜空のデートくらい、少しは良いムードを出して女を悦ばせられんのかのぅ…」
「クハハハハ♪失敬、失敬。貴女との恋仲を深められなかった吾輩は、その後に出会ったザッド様に仕えることに夢中になってしまいましてねぇ、女性経験を積み上げられなかったのでありますよぉ♬」
「やれやれ、本当に自由奔放じゃのぅ貴様は」
かつて同じ師の元で魔法の修行をしたという2人。男女の仲になれそうな雰囲気もあったらしいが、結局は結ばれずにお互いに別々の仕える相手を見出してしまい、2人の仲はそれキリだったようだ
「フフフ。しぃかぁし、久しぶりに嗅いだ貴女の香りは…あの日より寸分も衰えませんなぁ♪懐かしき日の高揚感が込み上げて来ましたなぁ♬クハハハハ!」
シャオシュウがナチュラルに放った「最後の想い出作り」という言葉の意味を理解したディー・アモンは、恋愛経験が乏しいながらも彼女を楽しませることに最大限の気遣いをしていた
続く
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