ようこそ幼い嫁候補たち④

龍之介21時

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夢忘れ編

デメテール城主と専属魔女

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【アレクス城】
すっかり日が沈み宵闇に包み込まれだしたアレクス城の中で、次期魔王のメイビーに追いかけ回されている優輝の姿があった

「キャハハハ♪そんなチンタラ歩いていてはワラワに追いつかれてしまうぞ♪」

「ひいぃぃぃ!メイビー様、足速すぎっす!」


5歳児の子供が走る速度を遥かに凌駕するスピードで優輝を追い掛ける彼女は、その小さな身体に似合わないゴツイ大剣を持ったまま、高校生の優輝に今にも追い付く勢いだ

「アレクスから借りた滅破の剣に両断されたいのか?もっと必死に走らぬかぁ!!キャハハハ♪」

「なんで俺より速いんだよぉ!」


優輝は惑星神エリスア様から頂いた肉体強化の能力(スキル)を使用しながら、メイビーから逃げているのだが…足の長さでも圧倒的に有利なハズなのに、もう少しで追い付かれそうである

「キャハハハ♪ほれほれ、もう少しだぞ!」

その理由は、メイビーがただ速く移動したいという願望から自動発動している浮遊飛行【レベテート】で、魔法による移動と足による走りを掛け合わせてのものだった

「た、助けてくれ~有栖~!!」


ベイ城で半年間、本気で鍛えてかなり成長した身体能力に、多少の自信を持ち始めていた優輝なのだが、次期魔王様とはいえ5歳児のメイビーに追い付かれそうな恐怖から、嫁である消去の魔女の名前を叫んでいたのだが…

「ドシンっ!」
「うわっ!…あ痛たたた…」

「バシッ!」
「ぬぅ!?何者じゃ?」

「お初にお目にかかりますメイビー様。デメテール領を治める【フォレスティア・デメテール】でございます。よろしくお願いします」


優輝が必死に逃げ惑い廊下の角を曲がった先で、1人の女性と衝突した!その勢いで優輝は吹き飛び、床を転げ回ったのだが…

その女性は微動だにせず立ち尽くしたまま、彼を追いかけてきたメイビーが持つ大剣を無造作に掴み、メイビー様の動きを止めた


「パンパン…ふむ。デメテールとやら、ワラワの動きを簡単に止めるとはやりおるな…良かろうソナタの名、覚えておこう」

メイビーは初対面の彼女と挨拶をする際に、作法としてスカートを軽くはたき、ホコリを落としてから彼女を見た

「有難うございますメイビー様。至極恐悦にございます…ところで床に転がっている男よ。貴様が先程口にした名前…まさか、消去の魔女が来ているのか?そして、貴様は彼女の従者か何かなのか?」


「はぁはぁ…ようやく追い付いたわ。確か2度目だったかしら?デメテール、優輝を助けてくれてありがとうね」

優輝を助けてやろうと後から2人を追い掛けていた徳川 有栖もやって来て、デメテールという女性に挨拶を述べている

「別に…この男がメイビー様の刃の錆になろうと、我は全く気にもしないがな。生誕祭を明日に控えたこの城の廊下を、下賎な者の血で汚すのは宜しくないと思ったまでよ(笑)」

メイビーの大剣を手放したデメテールは、腕組みをし挑発的な目で有栖を見つめている


「えーっと…私ボケが始まっちゃったのかしら?記憶していた性格とずいぶん違う様だけど…下賎な者。って言い方は聞き捨てならないわね。彼は私の旦那様なのよ。もう少し気を使って欲しいわね…」

有栖は自分の旦那が、まるで一兵卒の雑兵のように言われた事に腹を立てたようだ。だが、デメテールは態度を変えることなく話を続た

「はぁ?マジで言っているのか?…最強の魔女の呼び名をかっさらった貴様が、こんなパッとしない男と結ばれただと?…コイツは笑えるな。ジョークのセンスまで最強だったとはな…あははははは♪」

「あぁん!?ちょっとデメテール…人の旦那をこき下ろすなんて良い度胸してるじゃないの。まさか、消去の魔女と呼ばれる私とやろうっての!?」

有栖は約20年振りにデメテールと会ったのだが…唐突に初対面である自分の旦那を、クソザコ扱いするような言われ方をされては黙っていられないようだ

「ちょっと有栖。俺は良いから、メイビー様の前で面倒は起こさない方が…」

優輝はこれまで、からかい好きのミクイを筆頭に多数の者から低評価をされ続けてきたので、デメテールからの言われようもあまり気にしていないし、明日は次期魔王のメイビー様の生誕祭を控えているので今、揉めるのはマズイと考えたのだが…


「ワラワの事は気にせんでも良いぞ。引けぬ理由があるのなら、納得するまでやり合うが良いぞ」

当のメイビー本人は、自分の部下に位置する魔女同士が決闘を始めたとしても見守る態度を示していた

「こらこら、有栖にデメテール。お前らが戦ったら俺の城が崩壊するだろうが、どうしてもヤルなら外でやってくれ」

メイビーの様子を偶然見に来たこの城の主であるアレクスは、最強の魔女とデメテールの城主の一騎打ちを拒絶した


「ふふん♪良いのよ消去の魔女さん。狭い城内での戦闘は魔法使いである貴女には不利ですものね!」

「はん!私の強さを、貴女と会った20年前の時と同じだと思ってたら後悔するわよ…」

あくまでも挑発し続けるデメテールと、怒りの魔力を噴出している有栖は、一触即発の雰囲気だったが…


「ズビシッ!」
「ドスン!…あ、痛~い!誰よ私の後頭部に攻撃してきたのは~?酷いじゃないの~…」

背後から攻撃を受け座り込んだデメテールだが…さっきまでの勝気な口調からガラリと変化していた。一人称も「我」から「私」に変化していて、まるで別人のようだ


全員がデメテールを攻撃した者に目線を動かした。部屋のドアの手前で本を片手に、呆れ顔で立っている灰色髪の少女が居た

「何をしてるのですか?デメテール様。我々はメイビー様の誕生日を祝う為に来たのですよ?それに、何ですか?その話し方は…もしかして普段の私の口調を真似してます?」

「だってぇ…モルガーナが言ったのよぉ?「城主なのだから、毅然とした立ち振る舞いをして欲しい」って。これでも頑張っているのよぉ」


「お久しぶりねモルガーナ。やっぱり貴女も来てくれたのね♪」

「お久しぶりですフュール様。残念ですが、フォレスティア様1人に参加させたら、何をやらかすやら気が気ではないですから…」

デメテールに「モル」と呼ばれる少女を見たフュールは、懐かしさから喜びの顔を浮かべ彼女に再会の握手をした

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「なぁ有栖。フュールさんとモルガーナって子は知り合いなのか?」

「フュールと妹さんが生まれ故郷の里を出て、最後に長い期間定住した地をモルガーナが手引きしてくれた事があるって聞いているわ」

どうやらフュールにとってモルガーナは、有栖よりも先に出会った親友のようだ


「皆さま、今回は我が主デメテール様がみっともない真似を晒して迷惑をおかけした事を、彼女の専属魔女である私【モルガーナ・サハリン】が代わって謝罪申し上げます。まだまだ半人前の領主ですので、寛大な配慮をお願い致します」

モルガーナと名乗った少女は、デメテールに代わって全員に対して深々と頭を下げた

「ちょっとモル。その言いようでは、私が子供みたいじゃありませんか!?」

「同じようなモノですよ。はぁ、毅然とした態度を望んだら変なモノマネをされるなんて…良い加減、手のかかる城主様の子守りから解放されたいのですけど…」

どうやらデメテールは、専属魔女であるモルガーナに尻に敷かれているようだ。完全に主導権は、モルガーナが握っているようにしか見えなかった


「なんだ。今の感じが本当のデメテールさんなのか…安心したよ。それに、専属魔女のモルガーナちゃんも俺より年下みたいだけど、かなりシッカリしているみたいだし…」

優輝は、モルガーナの説明から普段のデメテールは、気の弱い普通の女性のような性格をしていると知り一安心した。更に、彼女の専属魔女が、年下のシッカリした子だと認識した。そして、モルガーナの容姿から地球に居る自分の妹のことを思い出していたのだが…

「見た目の雰囲気に騙されちゃ駄目よ優輝。デメテールは本当にヤル気になったら、歴戦の猛者が泣いて詫びを入れてくるほど容赦の無い肉弾戦を仕掛けてくる戦鬼になるし…何よりもモルガーナは見た目は小さな女の子だけど、私よりもずっと年上なのよ?」

「ええΣ( ꒪□꒪)マジかよ!?中学生以下くらいしか見えないけど?」


見た目的にはモルガーナという女性は、アリスかカルーアと同じような年齢だと思っていた優輝。しかし、41歳の有栖より遥かに上だと聞かされて、もの凄く驚いたようだ

「デメテールは普段弱気な性格だけど…腹を括った彼女の戦闘力はアレクスをも凌駕するらしいし、人望と政策に長けた人物なの。それと、モルガーナは策略と魔法に長けていて城主のデメテールを公私共に手厚くサポートしているらしいわ」

淡々と説明する有栖だが、彼女の表情は珍しく重く…他にも何かあるような気配を感じた優輝は、心配そうに彼女を見つめる

「……他にも私より上を行く部分があってね。彼女の総魔力量は多分、今でも私の上をいくハズだわ…」

「…えっ!?…マジかよ…魔法で有栖より上を行く子が居るのか?…しかも、あんな大人しそうな顔した子が…」

「でもね、2人とも穏和な政策をして国民に凄く愛されているらしいわ。デメテール領は緑豊かな土地で、毎年作物も海産物もたくさん採れるから、魔族側の食糧の生命線の地だと聞いているわ」

「そうか、人は見た目じゃ分からないな…」


魔法に関しては、自分の奥さんこそが最強なんだ。と思っていたので驚く優輝。マサに「見た目で人を判断するな」の見本例と言えるだろう

有栖に喧嘩を売っているような態度は、デメテールの虚勢の姿だとバレ場が静まり返ったその時…


「バサバサバサ…おんやぁ、お集まりで盛り上がっておりますなぁ。吾輩も混ぜてもらっても宜しいですかねぇ♪」

最古の魔女シャオシュウをお姫様抱っこした吸血鬼の真祖【ディー・アモン】が、天窓から侵入して来て彼らの眼前に降り立った



続く
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