ようこそ幼い嫁候補たち④

龍之介21時

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夢忘れ編

争いの火種

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【中立の町 スエス】
「コイツっ!すばしっこい上につえーじゃねーか!」

ヨシュアが半機械人の少女を追い掛け回して、夜の町中で大暴れしているのだが…

「ケヘヘヘヘ♬」

ミアナとツバキの魔力を吸収して、とんでもないパワーアップを果たしているジェニファーは、元魔王の息子であるヨシュアに本気で追われても器用に逃げ回り、未だに捕まっていなかったのだが…

「追い込んだぜっ!」

「ケヘッ!?」

簡単に捕まえられないと判断したヨシュアは袋小路。つまり、通路の行き止まりに彼女を誘導していたようだ

「観念しやがれっ!」

逃げ場がないことをジェニファーが気付いた時には、ヨシュアは闇の波動を右手に集中させ、一撃で彼女を破壊する程の勢いで殴り掛かった!

「ケヘッ(笑)」

ジェニファーはヨシュアの右拳を回避すると同時に、口の中から魔力を吸収する注射針を彼に向けて伸ばした

「バキッ!」

「まぁ、そう来るだろうと思っていたぜ」

ヨシュアは、ジェニファーがツバキの魔力を吸う様子を目の当たりにしていたので、彼女のこの攻撃も十分想定内だった。冷静に注射針を右手の手刀で叩き折った彼は、強者の余裕を浮かべた笑みを魅せた

「ゲヘッ?」

「よーし!観念しやがれよ…」

ヨシュアが動きの止まったジェニファーに、本気の一撃を入れようと突きの構えを取った時だった

「おい、アレを見ろ!」
「魔族が人間の女の子を襲っているぞっ!」
「あんな小さな女の子を!?」
「中立の町でナニ考えてやがる!」
「魔族が勝ってるからって横暴だろ!」

「な!?待て、お前ら勘違いするな!」

半機械の少女ジェニファーは、魔装機兵化が始まる前は人族だったかも知れないが…今や魔族だけでなく人族にも襲いかかる存在になっているのだが…

ヨシュアらがその危険な存在を排除しようと頑張ってくれているのだけれど、事情を知らない者たちにはソレは到底理解できない話だろう。この暗がりの中では、2人の男女が幼い女の子を襲っているようにしか見えなかった

「ち、違うんだよ。俺たちは人族の女の子なんか襲っちゃいないんだって…」

自分とヨシュアが、人族の女の子の生命を狙っていると町の人達から勘違いされている。と気が付いたリュウキは戸惑いながら説明するが、言い訳をしている様に見られてしまっている

「ケヘーっ!」

「ガシャアン!」

ジェニファーは、いよいよヨシュアに勝てないと悟ったので、野次馬と化した町の人の勘違いの罵声に彼らが焦っている隙を突いて、建物の中へと逃げ込んだ

「くそっ!建物の中を移動されたら見付けるのが一苦労だよ…」

「いや、ここらが潮時だろうな。1度戻ってマーマルの指示を仰いだ方が良いだろうぜ」

ジェニファーの注射針を叩き折ったし、彼女が不必要に人の生命を奪わない事を確認していたヨシュアは、1度呑み喰い屋に戻るべきだと提案した

野次馬と化した群衆の目から消える様に、足早に去っていくヨシュアとリュウキ



【カジノ エスポワール前】
「アンタすげぇんだな…」

「ん?あぁ、同じテーブルで賭けてた兄さんですか…」

ミーコの負け分を3倍付けにして取り返し、彼女の首の裏を掴んで退店するサケマタに声を掛けてきたのは、同じテーブルでミーコと同レベルで惨敗してた男だった

「あ、あのさ…もし、この後に予定が無いんだったら俺と…」

「パシっ」

「な、何だコレは?」

男がサケマタをこの後、「別の場所に遊びに行かないか?」と声を掛けに来たのだが…彼女は彼の右手の平の中に1万ゼニーを乗せて握らせた

「ナンパは正直嬉しいんすけどね、この先色々と頑張らなきゃイケナイなさそうで忙しくなりそうだから少ないでしょうけど、ソレを負け分の足しにでもしといてくださいな」

サケマタは女として、異性からナンパ的な声を掛けられた事を素直に喜んでいるのだが…

「向こうが騒がしい…何か良くない事が起きてるみたいだにぇ。1度ホルン様たちと合流するべきだにぇ…」

カジノと呑み喰い屋の中間地点辺りが騒がしく、所々で火の手や悲鳴が湧き上がっている様子を見たミーコは、何か良くない事が町中で起きていると感じていた

「ホルン様だって?…アンタたち、もしかして…」

「あー、ちーっと内緒の頼まれ事をされてましてね…その金は、今の話を黙っておいてもらう。ってのも含んどいてくださいよ、それじゃ!」

男はサケマタから渡されたゼニーを握りしめながら、何か考え込んでいるようだ

「今更だけどよ、部隊に戻ってホルン様たちの手足として働かせてもらうか…」

どうやら、この男は軍を抜けて中立の町で遊び呆けていたようだが…見知らぬ女から負け分の足しをもらった時に、仕えていた「ホルン」の名を聞かされ真面目に軍務に戻る決意をしたようだ



【宿屋ロマン】
男が戻ったのは町の中心部に建っている、ソコソコの規模の宿屋だった

「オヤッサン、戻ったぜ」

「またカジノで負けてきたのか?いや、今はそんな事はイイ。実家の近くで魔族の男女が人族の少女を襲って暴れているらしくてな、俺の家族が巻き込まれていないか?確認しに行きてーんだ、店番を頼まれてくれ」

どうやらこの男は、軍を抜けてこの宿屋でアルバイトをして生活しているようだ。店長は彼に店番を任せて、家族の様子を見に行こうとしている

「任しといてください!」


店長は簡単な荷物をバックに詰め込むと、慌てて飛び出して行った

「なーに、軍に復帰するのは明日からでも良いだろう。今夜は筋トレでもしてなまった身体を少しでも絞っておくか…」

(にしても、あの2人の女は新兵か?見た感じ魔族じゃないようだから、軍に復帰したらまた会えるかも知れないな…まぁ、あのピンク髪の方はお手伝いさんかも知れないな…)

サケマタの賢い判断と、絞り込まれた身体は軍関係だろうと予想した男は軍に復帰する事で、一目惚れしてしまったサケマタとの再会を期待しているようだ

……………………………………………

「すみませ~ん!どなたかお見えではありませんか?」

男が店長の代わりに宿屋の雑務をこなし始めて半時間ほどが過ぎた頃、若い女の声が店の入り口の方から聞こえた

「はい、ただいまっ!…いらっしゃい。新規のお泊まりですか?誰かと待ち合わせですか?」

男の目には成人(16歳)前の身なりの良い女が見えている

(若い女の子がこんな時間に1人で宿屋に?)

男は違和感を覚えたので質問をした

「オボロと言います。1人ではなく入り口の前に連れも居るのですが、馬をお借りしたくてお邪魔しました」

「入ってももらって良いんですよ?」

「いえ、大きな怪我をしていまして…」

「そうなのですか?」

男は急いで玄関前に出ると、背中に魔法使いらしき少女を背負っている鍛えられた身体の男を見付けた

「店の者か?魔力回復薬は無いか?」

「高いヤツの方が良いですよね?」

「あるだけ持ってきてくれ」

宿屋に置いてある魔力回復薬で、ガッツリ魔力を吸われたツバキがどれだけ回復出来るか不安なモメントは、店にある回復薬を全て持ってこさせた

……………………………………………

「ゴクゴク……スゥ…スピー…」

「良かった。だいぶ顔色も良くなりました」

店に置いてあった3本の魔力回復薬(高級ブランデーが入っているような、見た目高そうな瓶に入っている)をツバキに飲ませたオボロは、魔力がかなり回復し良い顔色を取り戻した彼女を見て安堵した

(この女、今「オボロ」と名乗ったよな?ソレに連れの男の鎧…魔族の兵士長クラスが着ているのに良く似ている。そして値段を気にもせず回復薬を使ったことを考えると、まさかこの女がファスク家の至宝と呼ばれるオボロ姫なのか!?)

オボロの身なりの良さ。モメントの立派な鎧。ツバキに使用したただでさえ高い魔力回復薬に、金額を微塵も気にせずに使用したことから、彼女が敵軍の次期王女「オボロ姫」だと確信した


「体格の良いお兄さんも、コレを飲んでください。傷に良く効く薬ですよ」

「何から何まで済まないな…ゴクゴク…」

ツバキに飲ませた魔力回復薬が非常に良く効いたのを、自分の目で直接確認しているモメントは、自分に手渡された薬も良い物だと信じて飲み干した

「お疲れのようですね。この部屋は待合室なので、しばらく休まれてから出発されると良いでしょう」

「本当に有難うございます。それと馬を2頭お借りしたいのですが?」

「コチラになります…」

男はオボロを連れて宿屋に併設されている馬小屋の方へ向かった


「今はこの2頭しか居ないのですが構いませんか?」

「いえ、立派なお馬さんですね。この子達をお借りしてもよろしいのでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

(この上品な話し方に、上位の兵と思われるあの2人…間違いない。この女が魔族のオボロ姫だ!)

オボロは貴重な能力(スキル)で、自分を慕う者のメンタルクリニックが出来る。ソレにより生きる活力を与えたり、戦争への恐怖を取り除いて強い精神で戦場に立てるようになる

そんな便利な能力(スキル)を持っているので、彼女が人前に出ることは無かったので男も容姿を知らなかったが…ガタイの良い兵士(モメント)の接し方などから彼女が敵軍の姫だと理解した

「立派なお馬さんですね…えと、3日間の間には返しに来させますので、よろしくお願いします」

(「返しに来させます」か。やはり間違いはねーな…)

「いえいえ。ソレには及びませんよ」

「ゲシッ!」

「きゃあ!?な、ナニをされるのですか?」

男は彼女が自分たちの敵である魔族の次期王女【オボロ姫】だと確信すると、彼女と2人きりの馬小屋の中で、彼女が馬を眺めている背後から彼女を蹴り倒した

「俺は、姉貴と共に人族側の兵士をしていたんだがよ。ある日、姉貴はお前らの兵隊に捕まっちまってな…見つけられた時には…そりゃ酷い姿で死んでいたんだぜ」

「え、え?そ、そうだったのですか?…ですが、申し訳ありませんが、私では今から貴方たちに何が出来るのでしょうか?」

オボロは姫として戦争の実態を全く知らない訳ではない。男性兵士が捕らえた女性兵士に、性的な暴行を100%行わせない。というのは難しい話だとは理解している。その上で、何かお詫びは出来ますか?と問いたのだが…

「そうだな…姉貴がされたように、俺もオボロ姫様の身体でたっぷり遊ばせてもらおうかな?」

「ビリビリぃ…」

倒れたオボロ姫の高価な衣服を乱暴に破る男

「ひ、ひいぃぃ!そんな、それだけは勘弁してください。私には姫としての立場が…」

明後日、成人式を迎え晴れて次期王女として戴冠する予定になっているオボロが、中立の町で敵軍の名も無き兵士に身体の初めてを奪われてしまうなど、到底あってはならない事なのだ

「うるせぇよ!俺の姉貴も兵士として魔族の者を何人かは殺したさ。だから、アンタの兵に殺されても文句は言えねぇ。だが、だがよ…散々遊び物にされて、腹を割かれて殺されるのは違うだろうがよっ!」

姉の変わり果てた姿を見た時のショックの大きさが、彼を軍務から離しこの町でアルバイト生活をさせるキッカケになったのだが…

「で、ですが、ソレは…」

「うるせぇ。お前の付き添いに飲ませたのは確かに正しい回復薬だがな…濃い睡眠薬も混ぜておいた。助けが来るだなんて期待しない方が良いぜ…オボロ姫様よ…」

中立の町スエスは、暴れる魔装機兵の少女とソレを追ったヨシュアの騒ぎで慌ただしくなっている

しかも、宿屋の店長は家族の安否を気にして実家に戻っているので、今この場に居るのはオボロと男。それと薬で爆睡しているモメントとツバキだけだった

男と合体した経験など微塵も無いオボロに、復讐に駆られた男の魔の手が迫っていた



続く
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