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【1話読み切り】変わったトコロと変わらないトコロ
しおりを挟む「あきちゃんも……大きくなったよねぇ」
「しょ…ちゃん……いきなり、なに言ってっ!」
「なにが」とは言わない外田翔吾(そとだしょうご)の言葉に倉繁章人(くらしげあきと)は声が裏返ってしまうほどの戸惑いを覚えていた。
興奮も止み、すっかり萎えきった章人のソレを翔吾は布団の中で突然撫で上げてきたのだ。
時刻は夜中の1時を回ったときのことである。ピロートークさえも終え、互いに眠りにつくべくまぶたをおろし、ただ静かな空間を作り上げていた最中だった。
少し隣を向けば目をつむり今にも夢の世界へ旅立とうと穏やかな表情をした翔吾の横顔があったはずだ。セックスを終えた後とは思えないほど疲労の色は見えず、ただ満足そうな横顔が。
いつも通り翔吾から伸ばされた手のひらを章人は握り締め、決して離さないまま身も心ももうじき眠りにつきそうな気がしていた。
「……章人……あき、ちゃん…」
──気がしていただけのようだ。
「ねぇ、あきちゃん」
章人のソレに触れていた手はゆっくりと離れていった。握るわけではなく、ただ沿わせていただけの翔吾の手のひらの温もりがなくなり不覚にも寂しさが生まれてしまう。
対して優しく繋いでいただけの手のひらに翔吾は突如として力を込めてきた。
思わぬ行動に言葉が出なかった。しかし痛みはない。無邪気に手を握り合い、どちらの力が強いかを競い合っていた子どもの頃と比較すれば力強さは増している。だが自分自身も成長しているためか、もしくは翔吾がまだ全力を出し切っていないのか、これといって痛い、強いとも感じることはなかった。
「ほんとあきちゃんは大きくなったね。身体もオレなんかより全然男らしいしさ」
手を繋いでいただけの翔吾が不意に横向きになり、ベッドシーツを滑るようにほんの僅かだけ章人へと近付いてきた。
距離を詰めた翔吾は章人の手のひらを両手で握り締めた。相変わらず痛みはないが、翔吾の手のひらから熱が大いに伝わってくる。緊張は一切なく、ただ章人自身の手のひらと比べると彼の小さな手は明らかに熱を持っていた。
「しょうちゃん、もしかしてまだ足りなかった?」
章人のソレは翔吾に撫でられ、緩く立ち上がりはじめてしまっている。彼の手のひらの温もりが愛おしい。
「ちがう、けど……!」
「……しょうちゃん? 言ってることとやってることが真逆なんだけど」
翔吾は何を思ったのか、一度身体を起こし覆い被さるように章人に対して馬乗りになったのだ。しかめっ面をしながらの彼の行動に章人はイマイチ状況が掴めずにいた。自分自身の体と章人の体を交互に見比べる翔吾に、章人は小首を傾げるばかりだった。
眠るはずではなかったのだろうか。一糸まとわぬ姿で乗られてしまうともう1ラウンド身体を繋げたくなってしまう。
「もう一回ぐらい、する?」
「いい! しない!」
大きく頭を振る翔吾だったが、しっかりと章人の腰に手をつき下りるつもりはなさそうだ。
「ほんとに?」
「本当に!」
「そう……残念」
章人にからかっているつもりなど一切なかったが、翔吾は離れていってしまった。ヘソを曲げてしまったのか瞬く間にベッドの隅でに横になり、タオルケットをかぶってしまう。
「でもどうしたんだよ、急に」
「……別にー……なんでもない」
構ってもらいたさげにしているのは後ろ姿からも丸わかりだった。今にも話しかけてもらいたそうに背中を丸め、じりじりと章人のほうへにじり寄ってくる。
──言っていることとやっていることが矛盾しまくりだ。
翔吾の期待に答えるように章人は後ろから抱き締めた。タオルケットの手触りのいい感触と、嗅ぎなれた香りに鼻をうずめる。
「なんでもなくないだろ? おっきいってどういうことだよ」
「……だよ」
「はぁ? よく聞こえないな」
タオルケットで体を覆い塞ぎ込んでしまった翔吾の声はハッキリとは聞こえてこない。腰に回した腕に力を込めてより一層強く抱き締めた。
このままでは再び翔吾に手を出してしまいそうだ。章人は少しずつこの身が熱くなるのを感じながら、耳を傾けた。
「……さっきも言ったよ。あきちゃん、昔はオレよりも小さくてさ、オレがあの人の後ろ姿を追ってる間、お前はオレと肩を並べようと必死だったのに……今ではオレがあきちゃんの隣に並ぶのに必死になってる。見下ろせていたはずのあきちゃんの顔が、今ではオレを見下ろしていて……容易く頭を撫でることすら叶わなくなっただからかな、大きく……成長したんだなぁって思ってさ」
ゆっくりとタオルケットから顔を出し、翔吾は体の向きを変えようと動き出す。正面を向きたそうにしている翔吾の意思を汲み取り、章人は抱き締めていた力を静かに抜いていった。そして身動きが取れるようになった翔吾は向き直り、章人の目の前で微笑んだ。
その優しい微笑みに再び強く抱き締めたくなってしまう。
「でもね、オレ……身長が抜かされたのは悔しいけど、昔と変わらずあきちゃんがオレの傍にいてくれてるのがすごく嬉しいんだ」
普段にも増して翔吾の声は穏やかで耳にすんなりと馴染んでいく。何のトゲもない、彼が感じている悔しささえもが愛おしい。
「……しょうちゃん……」
「だからかな? なんか……あきちゃんを……責めたくなっちゃったんだよね。たまにはオレが、お前より小さかったとしても……ヤれるんだって思いたくて」
言い終えてからというものの、めいっぱいの力で強引に章人の体は仰向けにされてしまう。再び馬乗りをしにこやかに見下ろす翔吾の瞳に章人はつい舌なめずりをした。
胸が大きく高鳴っている。予想もしていなかった言葉と、慣れない手つきで章人の躰に触れる翔吾の指先に今にも感情が爆発してしまいそうだった。積極的な翔吾の動作に身も心も喜びを感じ、押し倒してしまいたくなる衝動に駆られたが全力で自分の理性と闘う。
「しょうちゃん、俺は間違いなく今後もしょうちゃんの傍を離れないよ。どんなことがあっても必ず」
「そっか……あきちゃん、そう言ってくれるだけで嬉しいよ。ありがとう」
「だ、か、ら──」
「ちょっ、ちょっと! あきちゃん!?」
戦った末に勝利したのは欲望。理性はあっという間に敗北を喫し、瞬く間に章人の中で黒い感情が渦を巻きはじめた。
もう止めることはできない。
己の体に微かに触れていただけの翔吾を力づくで引き寄せた。バランスを崩した翔吾は呆気なく章人の体にしがみつき、仰向けのままの章人を抱き締める形になった。章人は翔吾を強く抱き留める。
「しょうちゃんは……俺に犯されてて?」
翔吾が責めるだなんて柄ではない。あとはそう──微笑むだけ。
(おわり。)
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