アリステール

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少年期~

噂と兄

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初めての実践授業のあとからは大きな日常の変化はなく、3月の誕生日を迎えて8歳を迎えた
寒さも収まり、春に似た温暖な陽気が周りを包み、作物もまた新しい実りを付け始めるころ、街では少し変わったことが起こっていた

誕生日の日、縁も出来たことだしと街にいるベアトリス叔母さんの夫婦を誘って食事会を開いた
以前と同じ店でまた新鮮な海鮮料理を楽しんでいたが、少し気になる話を聞いた
ここ一週間ほど、未だ顔を合わせていない兄と叔母の息子が、街のあちこちでトラブルを起こしているらしい、と

叔母もどういったトラブルかは詳しくはなく、噂が出回り始めてから家にも寄り付かなくなってしまったため話を聞くことも出来ないような状態だと
しかし街中で目立ってなにか変わった様子があるわけでもなく、噂の真偽すら危ういと考えてはいるが、やはり子が帰ってこないという状況は裏を勘繰るに足る証拠とも言える
どうしたものかと悩んではいるが、不確かな状況のまま仕事を放り出して動くわけにもいかない、と悩ませているようだ

両親としても気にしているようだが、村の仕事も忙しくなることもあり頻繁に街に出入りできる状況ではない
噂にしても以前入学式のときに話したものとそう大きく変わっていないし、兄も成人に近い年ということもありどうしようかと思い悩む様子

であれば僕に白羽の矢が立とうということも当然の流れだろう
自身としても、噂が続いて今の状況なのかまた別の噂でそうなっているのか判別はつかないが、耳に聞こえる範囲で何かしら事態が動いているのは気になる
おせっかいかもしれないけれど出来ることがあれば協力することもあるし、悪いことをしているなら叔母や両親を悲しませるわけにもいくまい

とはいえ人も成りも知らない誰かを探せというのは無理だ。まずは身内から情報を集めるとする

兄ローレンス(ラリー)の容姿としては兄弟の例に漏れず、自分と同じ茶髪の碧眼で、身長は父と同じぐらいだと聞く。体格もかなり良いらしい
叔母の息子はブルースと言うらしい。金髪の黒目で、身長は兄より高く、すこしひょろっとしているとか

ひとまずは街中を尋ねて周るほかはないだろう。噂の出所も気になるところだが、叔母が噂を聞いた人も別の人から聞いたと言ったそうだ


学院の授業にしても近頃は張り合いがなく、すでに基礎項目の3のテストとフィールドワーク、実践授業の実習を残すぐらいになっていた
やり直しとはいえ知識がある中でまた小学生の内容を学びなおすというのは、復習にはなっても新しい学びはほとんどなかった
この世界特有の歴史関連はそうはいかなかったが、暗記問題だと思えばそう難しいこともない
貴族に対する礼儀だとか、苗字は貴族以上の地位がもつものだとか、知ってはいても活かす機会が少なそうな知識もあったが、マナー講義と思えば楽しく出来た

そういったことから、最近は早朝訓練施設を借りて魔法の練習をしてから授業に出て、昼からは図書館か家の仕事を手伝うのが一日の予定となっていた
つまるところ学院のことは後回しにしても構わない
セドリック先生にも身内のことで少し学院を離れることを伝え、他の生徒より少し早くなっただけだからと了承をもらうことができた
魔法の扱いには再度釘を刺されたが、当然のことだろう

ついでとばかりに他の職員にも兄や叔母の息子の話を何か知らないか尋ねて回ると、二人とも戦闘技術実践にいたということがわかった
兄はやんちゃな性格だと聞いてはいたから冒険者のほうかと思ったが、入学したときから村に戻って畑を守ると豪語していたらしい
ただそれが特段珍しいことではないという認識だったため、兄本人がどういう人柄だったかというのは分からず仕舞いだった
叔母の息子に関しては特に情報がない。あまり目立つ生徒ではなかったらしい
次は叔母が話を聞いたという人に会ってみようか、と考えながら廊下を歩いているときに偶然にもアリシアと会った

「あ、アリス。今日は魔法実践に出るの?」
「アリシア。いや、ちょっと忙しくなりそうだから、今日は欠席かな」
「そうなんだ。ギルドの仕事とか?」
「ううん。家族のこと。・・・そうだ、ローレンスとブルースの二人に聞き覚えはない?」
「んー・・・わかんないな。誰?」
「兄さんと、叔母の息子。その二人のことでいろいろ調べてるんだ」
「ふぅん。じゃあ、私も周りの子に聞いてみる。もしわかったら教えるね」
「いいの?ありがとうアリシア、助かるよ」

思わぬところで助けが入った。子供でつながる情報網というのも無下には出来ない


そのあとは街へ繰り出し噂を辿っていくが、どうにも出所がはっきりとしない
誰それから聞いたとは分かるのだが、知らない人の名前を出されると追いきれない
むしろなんでそんなことを聞くのか、と問い詰められることもあり、身内であると伝えても信用されず難航している
ちょっと切り口を変えてみようか


「ローレンスとブルース?」
「はい。兄と叔母の息子なんですが、その叔母から気になる噂があると相談されまして」
「それで冒険者ギルドで何かないか聞きに来たと」
「はい。シェリルさんはなにか聞いたことはありませんか?」

前に冒険者としても活動していたと叔母が話していたのを思い出し、頼れるギルド受付のシェリルさんに相談してみることにした
街で噂になっているのだし、冒険者ギルドの所縁でなくても何かしら情報が入っている可能性はある

「一応勤務中なんだけどね。でもそうね、その二人か確実でないけど、細かい諍いを起こす冒険者二人組はいたわ。
ここ一週間の噂はわからないけど、それぐらいから見かけていない気もする、かな?何度か職員や冒険者が収めることはあったらしいけど、私は詳しくないわね」
「そうなんですね。ちなみに、その収めた人を教えてもらうことは・・・」
「受注期限間近の特殊依頼3つ」
「せ、せめて2つ」
「ふふ。ありがとう。ちょうど2つ残ってたのよね」
「えぇぇ・・・」
「大人の交渉術ってやつよ、言質は取ったからね。まぁアリスくんなら時間のかかる依頼じゃないから。ちょっと調べてくるから待ってて」
「・・・はい」

してやられた感じもあるが、吐いた言葉を飲み込むことはしない。情報料と考えれば仕方ないか
それほど時間をかけずにシェリルさんが戻ってくる

「ちょうど良いというか、あそこの報告窓口に立ってるのがその一人よ。名前はロイ、君と同じ学院の生徒ね」

つい最近の実践授業でも聞いた名前だ
目を向けると、予想通りの人が立っていた。少ない足取りではあるが、妙な縁を感じるものだ
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