家庭菜園物語

コンビニ

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56 また会う日まで

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 まだ肌寒さは残るけれど、ようやく春と言える気温になってきた。

 ネギにアスパラ、キャベツに玉ねぎ——育てられる野菜のラインナップが増えるのは嬉しい。
 朝の訓練を終えたモモと、なぜかパンイチの筋肉が駆け寄ってくる。

 絵面が酷いので、モモと同じアングルに入らないでほしい。

「お父さん、このまま動物のお世話に行ってきます!」
「まだ肌寒いから汗はちゃんと拭きなよ」

 日々お転婆になっている気がするけど、健やかに育っているのは素直に嬉しい。

「四月になりましたし、畑を耕すんですよね? 任せてください!」

 無駄に決めポーズを取るボディビルダー……あ、本職は僧侶だった。
 三月から「追い込みをかける」とか意味不明なことを言い始めたソーズさんは、プロテインと栄養が豊富な我が家のご飯のおかげか一回り以上デカくなっている。

「ふん、ふん! 耕すの気持ちいいですね!」

 こんな男をモモの側に、しかも先生役として置いていいのか不安になった。
 そこでモモに聞いてみたが『流石に人前で下着だけになるとかはないよ! お父さん、私はそのくらいの常識あるからね』と返ってきた。

 尊敬はしているけど「頭のおかしい筋肉」として理解もしているようで安堵した。

「四月になりましたし、そろそろビクドに戻るんですよね?」
「そうですね! プロテインや皆さんと離れるのは寂しい限りですが、今のコンディションなら確実に総選挙も上位に食い込めるでしょう」

 俺達との別れより、ナチュラルにプロテインが先に来るあたり、ソーズさんらしい。

「また会えるの楽しみにしてます。それよりソーズさんのお友達を紹介する話、忘れないでくださいよ」
「ええ、勿論ですとも」

 ぬふふふ。巨乳さんと会える日が楽しみだ。

「そ、それで……次来るとすればいつ頃ですかね?」
「早くとも二年と考えています」
「二年ですか。もう少し早くはならないですよね」
「はい、総選挙が終われば仕事も増えますし、王坂の方々とのやり取り、農地の確保など様々ありますからね。悠殿にそこまで惜しまれるのは嬉しい反面、申し訳なくなります」

 ここで「巨乳さんだけでも」と言える度胸は俺にはない。
 それに彼女も神五入りする可能性が高いと聞いていたので、忙しくなるかも。

「謝らないでください。ただ友達連れてくるのは忘れないでくださいね」
「はい!」
「にゃーん」

 姉さん、いつの間に。
 片やプロテイン、片や胸で良いコンビだなって、俺は胸ばかり考えてるわけじゃないですからね!?

 ソーズさんが耕してくれた畑に種を蒔き、水をやり、モモが用意してくれた朝食を食べる。
 訓練がてらモモとソーズさんは木の伐採に向かい、俺は家に残って製品の加工を始める。

 この数ヶ月で得たものは多い。
 大豆加工シリーズはコンプリート。
 豆腐、味噌、醤油、納豆、必要な箱や壺も揃った。
 木の加工所も小屋と妖精を雇い済み。米の年間契約百キロに即決したのは我ながら正解だったと思う。

 収穫期に効率良く回せば、合計で八百キロ確保できるので余裕はある。
 木材を置いておけば回収も植樹もしてくれる。環境に優しい上に手間も減る。
 少しずつ設備や環境が整うと、充実感がある。


 ——今日のお昼は焼きおにぎり、味噌汁、漬物。
 中身は魚のほぐし身、肉、漬物の数種類を用意した。

 春の陽気に誘われて縁側に一式並べ、七輪でおにぎりに醤油を塗って焼いていく。
 香ばしい匂いに釣られて、大福と姉さんが先に待機中。味見と称して三人でひとつを分け合った。

「お焦げがいい感じで美味い!」
「にゃーん」
「わん!」

 二人にも好評でよかった。
 ちょうど戻ってきたモモとソーズさんにも、濡れタオルを渡して手を拭かせ、味噌汁をよそってやる。

「お父さん、また味噌汁の腕を上げましたね」
「わかるかい? 出汁を変えたからね」
「これは……体が温まりますね」

 ソーズさん、それなら服を着ればいいのでは。
 彼はどこかズレているが、真面目なやり取りや空気を読む力はガンジュさんにも引けを取らない……マイナスの大きさで総合値は大幅に負けているけど。

「今晩は最後ですし、すき焼きにしましょうか」
「すき焼き? なんでしょうか、甘美な響きですね。筋肉がヘラとクレスが喜びの声を上げている気がします」
「にゃーん」

 筋肉って、食べ物の名前まで理解するのか。
 姉さん、卵は別皿で用意してあるので安心してください。雑炊派の件も心得ました。



 ——頭と腰が痛い。畳の上で寝落ちしていたらしい。
 昨夜はソーズさんの帰還前夜ということで、ビールが一杯どころか解禁の許可まで出て飲みすぎた。

「これは……よいのですか」
「私とお父さんで用意した物です。師匠にもお世話になりましたし、遠慮なく受け取ってください」

 声のする方を見れば、ソーズさんがあらかじめ用意しておいた鞄や靴を受け取って身支度を整えていた。
 流石にパンイチのまま送り出すわけにはいかないので、加工所で旅装を整えておいたのだ。

「ソーズさん、鞄に必要な物も入れてあるので忘れずに」
「悠殿、起きていたのですか。感謝します」
「お父さん、お見送りするよ」

 寝過ごさなくてよかった。ソーズさん、本当に帰っちゃうのか。

「モモ殿、気になさらないでください。昨夜、随分と語らいました。ゆっくり休ませてあげてください」

 ……語った覚え、酔いすぎてあまりないんだけど。

「モモ殿も見送りは不要です。心配はないと思いますが、鍛錬を怠らず頑張ってください。次会う日を楽しみにしています」
「はい! 次は一本取ってみせます!」
「それでは、大変お世話になりました」
「にゃーん」
「わん!」

 足音が玄関に遠ざかり、扉が開き、閉じられた——行ってしまったか。

「にゃーん」

 少し、ほんの少し寂しいな。なんだかんだで長く一緒にいたから。

「にゃーん」
「姉さんがそこまで言うなら仕方ないですね」

 玄関を出て、森に消えかける背中に大きく手を振る。

「ソーズさんも元気で!」

 振り返り、手を振り返すソーズさん。

 そして姿は森の奥へと消えていった。

「にゃーん」
「本当に素直じゃない、お父さんですね」
「俺は素直だよ」
「よしよし」

 モモに頭を撫でられるのも、悪い気はしない。
 別れは、何度経験しても少し寂しい。

 ——今生の別れじゃない。また会える。

「にゃーん」
「お父さん! 畑と動物のお世話して、朝ごはんにしましょ!」
「頭が痛いのでもう少し休ませてー」
「自業自得です! 飲むのはいいけど、明日に響かないようにって何度も言ったよね?」

 そんなことも言われた気がする。

「お仕事、お仕事です!」
「はいはい」

 日に日にモモは逞しくなっていく。
 誰かを見送るたびに考えてしまう。——モモを見送る、その日のことを。

 まぁ、先のことを思い悩んでも仕方ない。今は目の前の仕事をこなしていこう。

「にゃーん」
「はいは一回ですよね。はい!」
「わん!」
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