家庭菜園物語

コンビニ

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2章

2-32 別れ

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 三人で布団を並べて仲良く寝たはずだったのに、翌朝になるとガスコちゃんが少ししょんぼりしていた。

 喧嘩でもあったのか。モモは機嫌が悪そうで、あのエリゼちゃんは二人の間でオロオロしている。三者三様の様子だったけど、それでも朝から大盛りご飯を二杯食べて野良仕事へと向かっていくあたり、元気ではあるらしい。

 仕事は仕事できっちりこなすんだよなぁ。

 午後にはモモだけを呼び出す。
 建前は買取品の用意や加工品の整理だ。

 保存庫で何と声をかけるべきか悩んでいると、モモのほうから口を開いてくれた。

「お父さん、ガスコちゃんとのことだよね?」
「ああ、なんだか朝は様子が変だったしな。どうしたのかと思って」
「ガスコちゃんの元彼の話を聞いちゃって、少し言い合いになっちゃった」

 も、元彼……! モモの口からそんな言葉が出てくるなんて。いや、ショックを受けてる場合じゃない。

「ガスコさんはまだ忘れられないみたいだけど、聞けば聞くほど酷い彼氏で」
「それで元彼君のことを悪く貶してしまったとか?」
「うん」

 元彼といえど、自分が好きだった相手を悪く言われるのは嫌なものだ。モモもそれに気づいているのだろうし、本人がいないところで悪口を言ってしまった負い目も抱えているのだろう。

「でもモモがその人のことを悪く言ったり怒ったのも、ガスコちゃんのためでもあったんだろ?」
「うん、半分はそうだけど、もう半分は個人的に憤りを感じたから」
「だったら、自分が感じたことを素直に話して、謝れるよな?」
「うん」

 モモの頭をくしゃくしゃと撫でると、「いやー」とぐしゃっとなった髪を直している。……大きくなったなぁ。

「女の子の髪はもっと優しく扱って」
「つい、な。昔は『やー』とか言って喜んでただろ」
「昔の話だもん」

 モモの成長を喜びつつ、もう一度くしゃくしゃにすると今度は本気で怒られてしまった。
 その後にエリゼちゃん達と合流し、夕食時には三人とも楽しそうにしていた。

 エリゼちゃんにもこっそり聞いてみたが、返事は彼女らしいものだった。

「元彼? 途中まで聞いてた気がするけど、寝落ちしちゃった。それで朝起きたら喧嘩してて、途中で『ごめん』って仲直りしてた」

 ……エリゼちゃんはそのままでいてくれ。


 
 秋から冬に変わる時期。十二月上旬だというのに、すでに雪がちらほらと舞い始めていた。
 それからも三人娘――特にモモとガスコちゃんは恋愛トークで口喧嘩をすることはあったが、数日経てば仲直り。仲裁役にエリゼちゃんが立つのが妙に面白く、いいバランスで共同生活は続いていた。

 寒くなってきたので、翌朝にモモ達を驚かせようと炬燵を出し、ついでに暖かい炬燵の中で冷たいビールを飲んでいると、ガスコちゃんだけがリビングに入ってきてスッと足を入れた。

「ついでにビールとは都合の良い言い訳だな」
「あれ? 心読んでます?」
「ああ――帰ることになった」
「そうですか。明日の朝に?」
「いや、今」
「急ですね。娘達に別れの挨拶くらいしていったらいいのに」
「いいんだ……良い経験をさせてもらった。野菜を育てたり、食事を作ったり。見ているだけとやるのとでは大きな違いがあるな」

 サイゼ様は、失恋を経てひとつ殻を破ったように見えた。凛とした顔つきに、以前よりも強さが宿っている。

「それってどんな顔なんだ?」
「雰囲気ってやつですよ」
「にゃーん」
「撫でていいのか!」

 炬燵から出てきた姉さんがお腹を差し出し、特別だぞと言わんばかりに撫でさせている。羨ましい。……あ! 顔を埋めるのは反則だろ! ずるいぞ!

「にゃーん」
「俺も今日はいいんですか! やった! 次は俺の番ですからね!」
「お日様の匂いがする」

 ぐぬぬ……早く、早く交代してくれ!

 サイゼ様は姉さんのお腹に顔を埋めたまま、ぽつりと呟いた。

「世話になったな」
「そういうのは面と向かって言ってくださいよ」

 しばし姉さんに甘えたあと、立ち上がって縁側から外に出る。
 ……ちゃんと玄関から出なさいよ。

 外にはすでにリープさんが待っていた。やっぱり仕事ができる人はタイミングも完璧だ。

「エリゼ様がお世話になりました」
「うちは精神科でもセラピスト施設でもないんですから、今度はそちらで解決してくださいね」

 サイゼ様が不満そうに口を開きかけたが、世話になった手前、強くは言えないようだ。
 真っ暗な空に、一筋の光が二人を包み込む。……幻想的でかっこいい。

「サイゼ様!」

 モモが裸足のまま、リビングから庭へ駆け出した。

「モモ、私は――」
「――お父さんをこの世界に連れてきてくれて、私をここに導いてくれてありがとうございました」

「気づいていたのか?」

「夢に出てきた神様のことを忘れるはずないよ。隠したがってるのはわかってたけど、最後にお礼だけは言いたかったの」
「そうか……私は何もしていない。選んだのは悠だし、ここに来られたのもお前の運と力だ」

 光にモモが手を伸ばす。
 壁に阻まれて触れられないようだが、サイゼ様もその向こうから手を重ねるように伸ばした。

「モモ、元気でな。私はいつでも見ているぞ」
「神様も、もう変な男に捕まらないでくださいね」
「余計なお世話じゃ! それに変な男ではない!」

 またギャーギャーと騒いでいたが、最後には二人で笑って手を振り合っていた。

 後ろではリープさんが、娘や妹を見るような優しい目を向けていた。
 すぐ立ち去ることもできただろうに……これは彼女なりの気配りなんだろう。

 まるで、仲の良い友人が田舎から電車で都会へ旅立ってしまうような、そんな光景に思えてしまった。

 二人がいなくなると、ちらついていた雪が本格的に降り始める。
 また冬がやってくる。
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