家庭菜園物語

コンビニ

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12 新しい客人

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 訳もわからず、どうもと会釈をすると、向こう側の先頭にいた御仁も同じく会釈を返してくれる。
 どうやら理知的な人物らしい。

「にゃーん」

 初対面の方々に対して、いきなり「お前ら汚いな。家に上げるなら洗ってからにしろ」と言い放ち、姉さんはそのままリビングへと去っていった。

「これは申し訳ない」
「いえいえ、うちの姉が失礼なことを……本当に申し訳ありません」

 先頭の人物がリーダー的な存在なのだろう。お互いにペコペコと頭を下げ合ってしまう。
 あ、なんだか仲良くなれそうな予感。

「それで皆さんは、えーっと?」
「森の中で休んでいたところを、大福様に声をかけていただきまして」

 大福様とは……ずいぶん偉くなったものだ。
 いや、実際偉いのか。神獣だし。

「わん!」

 褒めて! と言わんばかりに尻尾をぶんぶんと振っている。

「女子をご要望だったんですか?」
「え?」
「いえ、メスを連れてきたと、大福様が……」

 後ろに立つ狼の女性が、ゴミクズを見るような目つきで体を隠すようにしながら俺を見てくる。
 大福さん、そうじゃないでしょ! 俺はモフモフは好きだけど、いわゆるケモナーではないのよ?

「いやいやいや、こんな辺鄙なところに住んでいるもので、冗談みたいなもんです! もし誤解を招いたなら申し訳ありません」
「そうだったんですか」

 ははは……とお互いに苦笑いを浮かべるが、さて、これからどうしたものか。
 獣人たちとの距離を探っていると、後方の女子らしき人物が盛大にお腹を鳴らした。

 それがまた女子っぽく、恥ずかしそうに耳を垂らしてお腹を押さえている。

「エリザベス……お前」

 え、エリザベス? 名前と見た目のギャップがすごい。
 さっきまで穏やかだったリーダーが、怒りをにじませて歯を剥いている。部下には厳しいタイプか。

「えっと、よければ何か食べますか?」
「わん!」

 いや、大福に言ってるんじゃないからね。

「いえいえ、それは悪いので、大丈夫です。ここが安全だと聞いていたので、一日だけ外で休ませていただければそれで十分です」

 リーダー以外の三人の尻尾がぶんぶんと振られている。ついでに大福のも。

「簡単なものでよければすぐ用意しますので、少し待っててください。あとは家に入れたいのですが、流石に全員は難しいので……女性のエリザベスさんだけでもどうでしょう? あ、俺は悠って言います」
「これは失礼しました。私はガンジュ、後ろにいるのはエリザベス、ドナル、アダメです」

 ガンジュさんの立ち振る舞いは、実に優雅で、どこか慣れている感じがする。
 後ろの三人は、ガンジュさんにうながされて渋々と頭を下げていた。

「よろしくお願いします。女性のエリザベスさんだけでも泊まれるようにしますね」

 エリザベスさんも二メートルほどあるけれど、一人くらいならどうにかなるだろう。
 ……と思ったが、彼女は涙目になってガンジュさんに何かを訴え、ぶんぶんと顔を横に振っていた。

「む、無理にとは言わないので、安心してください。モモ、これを皆さんにお願いできる?」
「はい!」

 どうやら、まだ俺がケモナーだと思われているらしい。

 皆さん結構汚れていたので、ホースで簡単に体を洗えるようモモにお願いし、俺はキッチンへ戻る。
 さて、今日は何を作ろうか。量が必要そうだし、かさ増しできるものがいいな。

 うん、あれか。広くなったキッチンに材料を並べる。じゃがいも、キャベツ、小麦粉。
 この数か月、料理と伐採で鍛えた腕の見せどころだ。はぁあああああ!

 キャベツをざくざくと切り、じゃがいもはすり下ろす。人が増えると下ごしらえが一気に大変になる。
 材料をボウルに入れ、小麦粉と、ほんの少しの豚肉を加えて混ぜていく。これで生地は完成だ。

 モモの進捗状況はどうかと外に出てみると、草原に寝転ぶ三人の獣人たちは、恍惚とした表情で腹を見せていた。
 今のチャレンジャーはガンジュさん。くっころとでも言いそうな顔で、モモにブラッシングされている。

「くっ……殺せ!」

 あ、本当に言った。
 モモは真剣な顔でブラシを手に、丁寧にガンジュさんの毛並みを整えていた。
 姉さんと大福に鍛えられたモモの腕前、恐るべし。

「モモ、ご飯運ぶの手伝ってくれる?」
「はい!」

 ガンジュさんは、少し残念そうな顔をしているようにも見えた。

 キッチンに戻ると、姉さんが足元で「飯はまだか」と無言の圧をかけてきた。

「もうすぐ焼き上がりますから、少々お待ちを」

 最近の姉さんは、カリカリもパウチも口にしなくなった。俺の飯が美味いってことかな? えへへ。

 フライパンをもう一枚追加して、二口コンロでなんちゃって、じゃがいもお好み焼きを同時に焼いていく。
 焼き上がったものにマヨネーズ、ソース、鰹節をかけて完成だ。

「モモ、お願い」
「はい!」

 元気よく返事をして、モモはお皿を縁側に運んでいく。

 ガンジュさんたちは、体格の割にそれぞれ二枚で満足していた。
 まぁ、フライパンサイズのお好み焼きだから、十分な量なのかも。

 俺とモモは一枚を半分こして、俺が少し多めに食べた。

 みんなが「美味い、美味い」と喜んでくれたのは嬉しかった。
 食後、ガンジュさん以外は草原でごろ寝状態。……狼から牛へと変わっていく。

「改めて感謝します」
「そんなに畏まらないでください。情けは人のためならず、というじゃないですか」

 ガンジュさんは首をかしげていた。

「助け合いの精神、的なやつですよ」
「にゃーん」
「なるほど。結局は自分のためにもなる、というわけですか。崇高な考え方ですね」

 なんとなく合っている、気はする。たぶん。

 姉さんが補足してくれた。「情けはその人のためではなく、巡り巡って自分に返ってくるもの。だからこそ誰にでも親切にしなさい」と。
 でも、それを見返り目当てでするのは浅ましい。というのが姉さんのアレンジらしい。

「であれば、我々も恩返しをしなければいけませんな」
「姉さんの言う通り、気にしないでください……でも、明日以降も食事を望むなら、ちょっとは働いてもらいますよ? 以前ニートがいたせいで、『働かざる者食うべからず』がうちのルールに追加されましたので」
「にーと? 意味はよく分かりませんが、心理ですね」

 ガンジュさん、話しやすいし大人だなぁ。

「ガンジュさんって何歳なんですか?」
「今年で三十二です」
「俺より年上ですね。俺は二十一。あまり畏まらず、普段通りで話してください」
「ですが、恩人に対して──」
「──にゃーん」
「……そうか、ありがとう。では、お言葉に甘えて」

 敬語より、くだけた言葉の方がしっくりくる。

 ガンジュさん、姉さん、俺の三人で縁側で話していると、モモが眠そうに控えていた。
 何か言えば「なんでもします!」みたいな顔で待機しているのに、目はとろんとしている。

「モモ、寝る前にお風呂に入ろうか。新しい浴槽もあるけど、今日はシャワーだけにしておこう」
「は~いぃ」

 眠そうな返事。
 視線をガンジュさんに向けると、彼も空気を読んで静かに頷いてくれた。

「にゃーん」
「では、姉さんにガンジュさんはお任せします」


「モモという子は使用人と言っていたが、悠の対応は本当の家族の、娘のようだ」
「にゃーん」
「種族関係なく、皆が穏やかにここのように暮らせたとすれば素晴らしいですな」
「にゃーん」
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