2 / 3
第2話:牙を剥く鋼鉄の腕
しおりを挟む「俺も混ぜてくれよ」
ジェーンは顔を歪ませながら、茶髪の男を見下すように睨みつけた。
「…またなんか増えた。面倒臭いなぁ…」
男は無視するように軽く頭をかきながら、カインに視線を向けた。
「なぁ。あの女、どういう能力者?」
唐突な質問にカインは一瞬戸惑ったが、すぐに口を開いた。
「…えっ…あっ…あいつは、腕をナイフみたいに武器化できるんだ。それに、すごいパワーを持ってて――」
「あーそういう感じね、了解」
男は表情を変えずにうなずくと、ジェーンを指差しながらニヤリと笑った。
「で、アンタは自分の能力を過信して、調子に乗ってるわけね」
ジェーンの顔が一気に険しくなる。
――なに、こいつ?20歳…いやもっと若い…なんでこんなに冷静?
――ひょっとして…
「……なに、その背中のでーーっかい斧を振り回して戦うの?私に当たるかな?」
その問いに、男は肩をすくめて笑みを浮かべた。
「さぁ…やってみないと分からない」
男の挑発的な言葉を聞くと同時に、ジェーンは右手を突き出して、男を切り裂こうとした。
――速い!!!
その動きは疾風の如く速く、普通の人間では目で追うことさえできないだろう。
カインでもギリギリだった。
だが――
「――おっと!」
男は軽く腰を落として、ジェーンの攻撃をかわした。五本の指が空を鋭く切り裂く。
つぎに男は巨大な戦斧を背中から一気に引き抜いた。その動きは想像を超える速さと力で、そのままの勢いでジェーンの右手を弾き飛ばした。
「ッ……やっぱりアンタも超人……!!」
ジェーンは再び突進し、男に向かって手を交互に突き出す。だが、男は落ち着いてその攻撃を斧で受け流し、絶妙なタイミングで後ろへ下がる。明らかに戦い慣れしている者の動きだった。しかし、彼の動きは防御に徹しており、ジェーンの攻撃をかわすばかりだ。
「ほらほらほらほら!!さっきの自信はどこに行った!?」
ジェーンは苛立ちを募らせながら、攻撃を続けるが、一向に決定打を与えられない。男は終始、軽く防御するだけで攻撃に出ようとしない。
「防戦一方で楽しい!?フニャチン野郎ッ!!!」
ジェーンが煽り気味に嘲笑を浮かべたその瞬間、男の表情が一変した。彼の全身が一瞬でピンと張り詰め、今までの余裕を消し去るかのように鋭い眼光をジェーンに向ける。
「お楽しみはこれからだよ」
次の瞬間、男の体が膨れ上がり、全身に見えない力がみなぎる。足元の床板が軋み、周囲の空気が重く感じられるほどの威圧感が漂った。
「能力発動」
そう呟いた男は、一瞬でジェーンの懐に潜り込むと、強烈なボディブローを繰り出した。
ジェーンは咄嗟に両腕を前に出して盾のようにしたが、男は腕と腕の間に剛腕をねじ込む。
「ッ…んぐぁッ!!??」
バキバキバキィッ!!
ジェーンは吹き飛ばされ、バーカウンターを粉砕して奥の事務所に突っ込んだ。どうやら男の拳は、ジェーンのみぞおちを捉えたようだった。今度はジェーンが、床に這いつくばりながら今の状況を整理する番だった。
――なに今の!?私が吹き飛ばされた!?
――肉体の強化か!!
ジェーンは痛みを堪えながら立ち上がろうとするが、男が斧を横に構えて突っ込んでくる。
「終わりだッ!!!」
男は巨大な戦斧を振りかざし、ジェーンの腹部に向けて一気に振った。その一撃は風を切り裂くような音を立て、彼女の胴体を真っ二つにしようとしている。
だが――
ギイィィーーーン!!!
金属の甲高い音が響き渡る。
「……無駄……」
ジェーンの腹部は金属化されており、斧が硬化した体に弾かれたのだ。
「腕だけじゃなくて、全身か…」
男が初めて表情を変えた。少し驚いたようだった。
「その通り…あんたみたいな肉体強化しかできない馬鹿が、私を切り裂けると思った!?」
ジェーンが腕を振ると、男は飛んで後ろに下がった。ジェーンは勝ち誇った笑みを浮かべている。
「相手を一方的に切り裂くのは私よ!!」
「いつだってそう!!これからも!!」
「それなら――」
男は怯むことなく、斧を頭上に振り上げて跳んだ。今度はジェーンの頭に斬りかかろうとしている。
「バカ丸出しね…!!」
ジェーンは上半身全体を金属化させた。だが、男はまるで気にしていない様子だ。
「このまま――お前の首を吹き飛ばしてやる!!」
ジェーンは飛び掛かってくる男に対して、左手で頭と首を守りつつ、右手を構えている。ボクシングのフックの要領で、男の首にカウンターを叩きこむつもりだ。
「ダメだ……」
カインが呟く。跳んだ後は方向転換できない。カインの目には、男が完全に“詰み”にハマったように見えた。
しかし――
「フンッッ!!!」
振り下ろされる斧が急加速する。
男は再び“能力”を使ったようだった。
斧はジェーンの左手を押しのけ――
ゴォォンッッ――!
鈍い音とともに、ジェーンの体が一瞬震えた。
……ブフゥッッ!!!
次の瞬間、ジェーンは白目を剝いて、鼻から鮮血を噴き出した。
「……え……?」
カインには何が起きたか分からなかった。
ジェーンはその場に崩れ落ち、目を見開いたまま動かなくなった。男は斧を肩に担ぎ直し、静かに呟く。
「…まぁ、そうだよな」
「金属化できるのは体表だけ…脳まで金属な訳がない」
体を金属化できても、身体機能が損なわれないように臓器や関節まで変質させていないはずだ。男はそれを見抜き、強烈な脳震盪を起こさせるために、強化した腕力で斧を頭に叩きつけたのだ。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
